月夜のパーティー

いとうみこと

月夜のパーティー

 金色の満月が夜空のちょうど真ん中辺りに届いた頃、人気のない波止場にどこからともなく男たちが集まってきた。彼らは広場に設けられた特設ステージの前まで来ると、思い思いの場所に陣取った。間もなく、年に一度の祭りが始まる。


 ステージ脇のテーブルには、海の幸や山の幸のオードブルが溢れんばかりに並び、香りの良い酒が惜しみなく振る舞われている。


 場所を譲り合う声や、仲間を呼ぶ声、近況を報告する声など様々な声が飛び交う中、突然ジャズの演奏が始まった。主催者のMr.ホワイトのナイトクラブで演奏するプロたちだ。小気味良いリズムに合わせて早速踊り出す者がいて、会場は弥が上にも盛り上がっていく。


 バンドが一曲目を終え会場が拍手に包まれた時、ステージにスポットライトが当たり、白い燕尾服に身を包んだ老紳士が浮かび上がった。彼は立派な髭をしごきながら声を張り上げた。


「レディース・エン・ジェントルマン!今年も我がクラブフルムーン主催のパーティーヘようこそ。」


「男しかいないぞ!」


 会場からヤジが飛び、笑いが広がる。


「これは失敬。フルムーンは女人禁制ですからな。ですが今年はちょっと趣向が違いますぞ。」


 ホワイト氏の言葉に会場の男たちが一斉に耳をそばだてる。


「今年は初めての試みとしてミズコンテストを行います!」


「ミズ?ミズって言ったかい?ミスのミスだろう?」


 再び会場が笑いに包まれる。店の常連が多いせいか雰囲気は和やかだ。


「確かに、ミスもおられますが、このご時世に未婚だ既婚だと女性を区別するのは野暮というものでしょう。美しいものは美しいのです。さあ、皆様、目の保養と参りましょう」


 スポットライトが消え、ステージ全体が明るくなると、アップテンポなナンバーが流れ始めた。ステージの端の司会者の席には、この街いちばんの人気者、マーブル柄のジャケットを粋に着こなしたDJ マイケルが立っている。


「ヘイ、ガイズ!今日は綺麗どころが揃ってるぜ。まずはエントリーナンバー1番、ロシア代表のミズコーシカ!」


 再びスポットライトが当たり、ステージ奥からブルーグレーのコートをまとったグラマラスな女性が現れた。そのまま中央へと進むと、しなやかに体をくねらせて長い手足を見せつける。


「いきなり外人さんかよ」


「あの色気、たまんねえなあ」


 会場のあちこちから口笛が飛び、コーシカはそれに投げキッスで応えた。


「エントリーナンバー2番、タイ国代表、ミズサイア!」


 今度はクリーム色に黒の混じった薄手のコートを着たスレンダーな美女が現れた。そのスタイルの良さもさることながら、サファイアブルーの瞳はどんな宝石よりも美しく、観衆を釘付けにした。


 次のイラン代表ミズゴルベは長い毛足のコートをまとい、ゆったりと上品な振る舞いが見る者を優雅な気分にさせた。また、イギリス代表のミズキッシュは丸顔の愛らしい少女で、会場はほんわかとした空気に包まれた。他にも個性的な出で立ちのカナダ代表ミズムモウ、エキゾチックな顔立ちのアメリカ代表ミズミュウなどが会場を沸かせた。


「さて、いよいよお待ちかね、日本代表のお出ましだ!ミズサクラ、ミズモモ、そしてミズウメの三姉妹カモーン!」


 歓声がひと際高まる中、三姉妹がステージに現れた。黒白茶の3色に染め上げた着物姿の長女サクラはキリッとした美女だ。白地に黒のハートのモダンな着物を着ている次女のモモは正統派の大和撫子で、少し緊張しているように見えるが、そこがまた男心をくすぐった。三女のウメは黒地の着物をメイド風のミニスカートにアレンジした衣装を着て、愛嬌たっぷりな笑顔を振りまいている。


「ヘイ、ガイズ!お好みの美女は見つかったかい?さあ、ダンスタイムだ、盛り上がるぜ、イエーイ!」


 それを合図に、ひと際賑やかな音楽が流れ始めた。輪になってはしゃぐ者、酒を浴びる者、ステージに上がり美女の手を取って踊り出す者もいる。誰もが皆笑顔だ。


 ステージ脇に座っていたMr.ホワイトは、その様子に目を細めた。いつの間にか、グラスを2つ持ったDJマイケルがそばに立っていた。


「大盛況ですね、Mr.ホワイト。」


 差し出されたグラスを受け取り、笑顔を返す。


「ありがとう。来年も頼むよ」


「喜んで!じゃ、俺も楽しんできます」


 ひらりとステージに飛び乗る後ろ姿を見送って、ホワイト氏は静かに空を見上げた。フルムーンに見守られ、大好きな仲間と大好きなジャズに囲まれる夜。彼は月に向かってグラスを掲げた。


「最高の夜に乾杯にゃ!」

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月夜のパーティー いとうみこと @Ito-Mikoto

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