趣味嗜好

何を話せばいいのだろうか

一体何を紹介しろというのか


今は相澤がつくった

どこの部活に入りたいか

という流れが来ている


「趣味は音楽鑑賞で、

好きなアーティストは……」


「映画鑑賞が好きで、

この間観た映画が……」


どうやら次は鑑賞ブームの流れらしい


こういうのはだいたい

前の人の発言を参考にしつつ

アレンジが加えられて行くものではある



この流れに乗って

好きなものでも紹介してみるか……


自分の好きなこと


テレビを見ること、お笑い、

ゲームをすること、漫画・アニメ、

そして寝ること……


これはわざわざこの場を借りて

みなさんに

紹介するようなことなのだろうか?


自分が薄っぺらな人間だと

知ってもらうには

最適なのかもしれないが


あえてそんなことを

向こうも知らされたくはないだろう


さすがに入学して早々

自分は底の浅い馬鹿ですと

宣言するような真似はしたくない


見栄や虚栄心もあるし

自己顕示欲や承認欲求も

全くない訳ではない


むしろそれが厄介なのかもしれない



もちろん自分も

音楽は聴くし、映画も観る、

読書だってするし、

絵を描くのも好きだ、

そういう意味では

それらは趣味と言えなくもないだろう


だが、それ程深く、

ディープに好きという訳でもないのだ

ライトに好きなのであって


それをここで好きと言ってしまって、

後で本気ガチ勢に絡んで来られ

変なマウントを取られて

不快な気分にさせられる、

それもご遠慮したいところだ


自分が好きだと公言した

アーティストや作品の

アンチなんかに絡まれたら

それはそれで面倒なことこの上ない


人間性に関わらず

この先敵視されることにもなりかねない

最近は厄介な糖質粘着も多いことだし



広く浅くがモットーと言えば

聞こえはいいが、

結局何一つ深く入り込めず

真剣に向き合ったことがないのだ


そう思うと何やら焦燥感に駆られるし

嫌なことがまた次々と

思い出されて来てしまう


なぜたかが自己紹介で

こんな気分にさせられなくてはならないのか


結局、過小評価もされたくはないし、

過大評価もされたくはない、

これが二律背反というやつなのだろう



「自分はアニメが大好きで、

アニオタなのですが、

最近ハマっているのが……」


そう言って熱く

アニメ作品を語り出す一人の男子


入学早々オタであることを

カミングアウトするとは

見上げた根性だとは思う


最近はようやくアニオタに対する

女子からの偏見も無くなっては来たが


それでも未だスクールカーストの下層に、

底辺付近に位置されているのは間違いない



なぜなのだろう


男オタが熱く作品愛を語っている姿は

いつ見ても自分には痛々しく思えてしまう

喋り方や挙動が気持ち悪いのだろうか


先程の相澤が野球にかける情熱と

オタが作品に抱く愛情、情熱、

方向性のベクトルは違えど

ほぼ同じぐらいの熱量であるにも関わらず

こうも真逆の印象を与えるのは

なぜなのだろう?


やはりあつければいい

という訳でもないのか


自分は男ではあるが

もし女子の立場だったとして

どちらに憧れるかと問われれば、

体育会系は苦手だと思いつつも

やはり野球少年ということになるだろう


それすらも自分が心の中でオタ相手に

マウントを取っているだけなのかもしれないが




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