自己紹介

体育会系

「えー、それでは

これからみなさんには

自己紹介をしてもらいましょうか」


高校最初のホームルーム、

担任の男性教諭はそう言った


「まぁ、最初ですからね」



自己紹介


四十人以上の

まだよく知らぬ人達の前で、

注目を一身に集めて発表する……


そう考えただけでも

鼓動が早くなってドキドキしてくる


ムズムズ、ソワソワして落ち着かない

気が気ではない


さらに問題は内容だ

他人に紹介出来る程の内容を

自分は持ち合わせてはいない


高校を入学すれば

最初に自己紹介がある

そんなことは

十分予想出来る事態なのだから

事前に何か考えておくべきだった



相澤直樹あいざわなおき、十五歳です」


クラスの左端の列、先頭の席から

早速自己紹介ははじまる


今は『あいうえお』順に

座っているのだから

当然そんな感じの名前が

最初に出てくるだろう


「おいおい、

ここに居るのは

ほとんど十五歳だから」


担任がそうツッコミをいれると

クラスからは笑いが起こる


なんだかこういう雰囲気が

個人的にはたまらなくたまれない


馴れ合いと言うか、

予定調和と言うか、

『ハイ、ここ笑うとこですよ』

そう指示されているようで

見ていてこっちが恥ずかしくなって来る


もっと悪く言うならば

薄ら寒さすら感じてしまう


みんなこれが

本当に面白いと思っているのか?


もしそうだとしたら

ここに居る人達とは

大きな隔たりしか感じられない


愛想笑い、

担任に付き合って忖度して笑っているだけ、

そうだと思いたい



「小中とずっと

野球をやって来たので、

高校でも野球部に入ります!

……甲子園目指して頑張りますっ!」


この手のタイプは

自分からすれば

キラキラ輝いていて眩し過ぎる


そんな明確にやりたいこと、

ちゃんとした目標を持っているなんて

素直にすごいと思う反面


どこかで

その分かりやすさを、単純さを

馬鹿にしている自分もいる


いやそれはこの輝きに対する

嫉妬も含まれているのか?



別にdisりたい訳ではないのだが、

どうしてもイメージ的に

体育会系は脳筋馬鹿

というのが先行してしまう


いやそれも妬み嫉みから

そう思いたがっているのか?


運動神経抜群のスポーツマン、

その持って生まれた明るさから

これからクラスの人気者になるだろうし

おそらく彼女だって出来るだろう


だからせめて脳筋であって欲しいと

心のどこかで願っているのかもしれない


もしそうであったなら、

奴がこの先どんなに恵まれた

高校生生活を送ろうとも


『まぁ、あいつ馬鹿だから』

たったその一言で自分は

精神バランスを、

心の安定を保つことが出来るのだ



聞くところによれば

体育会は礼儀や規律になどには

非情に厳しいらしい


全く縁が無い自分からすれば

まるで軍隊のようにも見える


そこでずっと野球をやって来たという彼


中学校のグランドで、

炎天下の中、

監督やコーチに大声で怒鳴られ、

辛く苦しそうな顔をしている運動部の姿を

見掛けることは多かったが、

その度に彼等は総じてドMなのだろうかと

思わざるを得なかった


おそろしいぐらいに

これまでの人生を

自分とは異なった環境で

生きて来ている


おそらくこの手のタイプとは

一生分かり合えないだろう、

そう思わせるのが

体育会系の人間だった



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