鋼鉄のグラディウス

那須高

第1章 鋼鉄のグラディウス

第1話 狭い檻の死闘①

「──やぁッ!」


 正面から一太刀、振り翳される片刃の細剣。

 雷のようなその閃きを、今にも砕けそうな両刃剣で受け止める。

 欠けた刃に細剣を重ね、強引に引きずって振り払う。体制が崩れると見るや否や、傷だらけの男は大きく一歩、相手の懐に踏み込んだ。


「────」


 左肩に体重を全て載せ、細身の美男子の胸を容赦なく打つ。

 よろめけば、この剣でも首くらいは切り落とせよう。しかし……


「ぐっ……まだ……ッ!」


 男は諦めなかった。細剣で空を裂き、これ以上の追撃は許さない。

 ──間を取ること5歩。お互いに「まだやれる」とニヤリと笑みを浮かべて向かい合っていた。

 それは、息を飲む様な男達の剣闘。命と命を惜しみなく投げうった遊興を前に、闘技場コロシアムの観客達は大いに沸き立った。


「やれーッ!アウグスト!いけすかねぇ異国の色男なんか殺してやれーッ!」

「負けるなレヴン!ここで負ければ陛下に合わせる顔がない!戦争前にをつけるつもりかッ!!」


 血気立つ民衆は皆白熱していた。ドーム上の観客席なんて安全な場所にいて、札束を握りしめながら怒号を放つ。


 ああ──なんて、なんて醜い生き物なのだ。


 何千回と抱いた嫌悪感をその身に感じながらも、アウグストはただ、目の前の異国の剣士を見据えて剣を構え直した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る