第88話 暇つぶしは道楽

 たっぷりと予告編を堪能したところで、まだ90分以上の時間が余っていた。

 途中で昼食を摂るとして……。


「舞香さん」


「なあに」


 傍目で見ても、明らかにテンションが上っている舞香に問いかける。


「このままお昼を食べるか、ちょっとおもちゃ屋に寄って見ていくかどっちが──」


「おもちゃ屋」


 食い気味に来た!

 ということで、舞香と二人で早足でおもちゃ屋に。

 なんという俺得なデートコースだろう。

 でも、これは舞香も得しかしない展開なので正しいのだ。


「まだ見たこと無いの……」


 舞香が熱に浮かされたような表情をして呟く。

 何が、なんて野暮なことは聞かない。


 舞香が見たことがないものは、グランドコンバイナーVに決まっているのだ。

 十体合体する、一度に揃えると二万円超えのジャンボ商品。


「今の俺なら君にプレゼントできる」


「ええっ!? 凄く嬉しい……! けど、映画館に持ち込めない」


「ほんとだ」


 嬉しくて楽しくて、ちょっと俺達はおバカになっているらしい。

 そんな会話をして、二人でけらけら笑って、一直線にライスジャーのおもちゃコーナーを目指す。


 そこそこの数の子ども達がいる。

 そうか、今はお昼時。

 子ども達の多くはご飯を食べているのかも知れない。


『ご自由にお手にとってください』


 というフリーなコーナーで、チョウリュウジャーブレスを見つけた舞香。

 不敵に微笑んだ。


 以前だったら、恥ずかしがりながらも体が勝手に……という感じでやったことだろう。

 だが今は、俺という最高の理解者が恋人としているのだ。


 行け!

 行くんだ、舞香ーっ!


「チョウリュウブレース!」


 おおっ!!

 チョウリュウジャーらしい、ちょっと巻き舌の掛け声!

 その場にいたちびっこ達が、びくっとして、舞香を見る。


 舞香は既にチョウリュウブレスを腕に巻き付け……。

 あれ、大人がつけられるようにベルト位置が調整できるのな。


「クックオーバー!」


 チョウリュウブレスが光り輝き、変身音を鳴り響かせる。


「うおー!!」


 ちびっこ達が盛り上がる。


「チョウリュウジャー!」


 変身音クライマックスにピッタリとタイミングを合わせ、舞香が変身後の決めポーズをした。


「うわー!!」


「おねえちゃんかっけー!!」


 集まり、盛り上がるちびっこ達。

 ちょっと引き気味の周りのお母さん達。


 舞香もさすがにちょっと挙動不審になって、ちらっと俺を見た。


「かっこよかった……!」


 俺がサムズアップしてみせると、彼女は最高の笑顔を見せてくれたのだった。

 可愛いが過ぎる……!




 おもちゃ売り場に来た時の日課みたいなのが終わった俺達。

 その足で、グランドコンバイナーVを見に行った。


 ……でかい。

 明らかに、一抱えにするには無理がありそうなサイズの箱が、そこに鎮座していた。


 十台のバトル耕運機が全て網羅されており、これ一つを買えば今までの合体商品をコンプリートできてしまう。

 いや、トラックベースはまだか。

 トラックベースは、ライスジャー達の基地だ。


 全てのバトル耕運機を搭載できるが、あまりにも大きいので、デラックスでは販売できないだろう。

 ミニサイズのが販売していた。

 同じく、ミニサイズのバトル耕運機シリーズを全て搭載できるようになっている。


「大きい……」


 グランドコンバイナーVを見て、舞香がしみじみと呟いた。


「合体させてみたいなあ……」


「分かる。でもすげえ嵩張る……」


「分かる……」


 場所を取らないためには、箱を処分しないといけない。

 だが、箱もいいんだよなあ……。


 俺の部屋に置くと、箱ごとでは凄いスペースが埋まってしまう。

 舞香の家だと、浮く。

 高級感たっぷりで、趣味の良い調度品に囲まれた舞香の部屋に、グランドコンバイナーV!

 絶対に浮く。


 清香さん怒る。


「うーん」


 俺達二人は真剣に悩んだ。


 ぶっちゃけてしまえば、買わなくていいものではあるのだ。

 だって、翌年には新しい戦隊が出てきて、新しいロボやグッズが登場する。


 毎年そうだ。

 だから、このロボットは一過性のもの。

 すぐに過去になってしまうはずのものなんだ。


 だが、俺と舞香にとって、その過去は一過性のものじゃない。


 俺が彼女に告白した時、話題にしたのは、このグランドコンバイナーVだったから。

 そして、俺達を結ぶのは、米食戦隊ライスジャーという作品そのもの。


 ライスジャーは俺達ふたりにとっての特別だった。


「置き場所について……清香さんと交渉しようか」


「うん……!」


 俺達は決意した。

 戦わねばならないと。


 今回は、俺が舞香を解放するための戦いじゃない。


 俺達が、グランドコンバイナーVの居場所を勝ち取るための戦いなんだ……!!


「それはそうと……そろそろお昼にしようか」


「そうだね! あのね、私、フードコートって初めてで……」


「うん、知ってた」


 何もかも初めて尽くしの舞香を連れて、いざフードコート。

 何を食べようかな。

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