第82話 FINE・フロム・スイス

 その夜、舞香からFINEでメッセージが来た。


お米『みんなでバーベキューをすると聞いたんだけど』


稲穂『麦野さんが教えてくれたの? そうだよ』


お米『私がスイスに行ってる間にそんな楽しそうなことー!!』


 あっ。

 凄く参加したそうだ……!


稲穂『もしかして……一緒にやりたかった?』


お米『そうだよー! 私、バーベキューしたことないんだから! やりたいやりたい、やりたいやりたい!』


 うわあ、舞香が子どもみたいにゴネてる!

 こんな彼女は初めてだ。

 これってもしかして、俺に甘えてたりするのだろうか。


稲穂『じゃあ君が帰ってきたらまたやろう! もちろんみんなを呼んでさ!』


お米『やる!! あとバーベキューの写真撮って送って下さい』


 おお……新たなミッションが下されてしまった。


お米『スイスは毎年行ってるんだけど、こっちだとライスジャーがチェックできないから……』


 なるほど!

 いわゆる、日本的な娯楽が無いのね。

 俺は彼女のことを思い、このミッションを了承したのだった。





 翌日。

 めいめい、野菜や肉を持って集まってくる。

 俺は母が持たせてくれた、大量の野菜。


「ご近所さんが作ったもののおすそ分けだから! 無料だから!」


 毎年、どう消費していくか困ってたもんな!

 ということで、図らずも俺は野菜担当になった。


 トモロウと彼のナンパ友達は、鉄板や焼く道具を持ってくるんだそうだ。

 つまり、肉は俺の悪友達に掛かっている……!!


 集まったのは、学校に近い河原だった。

 ここは個人所有の土地なのだが、後始末することを条件に持ち主に許可をもらっている。


 まさか水戸ちゃんの知り合いだったとは……。


「えっへん。あたしがいて助かったでしょー」


「本当、水戸ちゃん様々だよ!」


 久々に会った悪友四人組で、水戸ちゃんを崇め奉る。

 夏の水戸ちゃんは手足がむき出しの、水色のワンピース姿。

 麦わら帽子をかぶっていて、肌は小麦色に焼けていてかなり可愛い。


 普段の四割増しくらいで可愛い気がする。


「普段の五割増くらいでは」


 佃が口に出して、水戸ちゃんは喜び、布田がいきり立った。


「お、お、俺の南海なみを狙ってるのかあー! 渡さんぞー! 南海は絶対渡さんぞー!!」


 まだまだラブラブだなあ。


 そして、河原の上にバンが到着した。

 そこから、麦野が降りてくる。


 なんとトモロウ達も一緒だ。

 そして運転しているのは……麦野秋人さんである。


「おまえらー! 春菜がいいお肉を持ってきてやったからねー!!」


 なんだと!


 盛り上がる俺達。


「おーい、手伝ってくれー! 機械が重くてさー!」


 トモロウからヘルプ要請が来た。

 みんなで駆けつけ、ナンパ友達氏と一緒に機械を運ぶ。

 男子が五人もいれば、機械も楽に運べるというものだ。


「はじめまして。俺は稗田ひえた将馬。トモロウくんの友達でさ。君等、城聖の学生何だろ? 頭いいんだなあ」


 本日のニューフェイスの一人、稗田将馬は逆三角形ボディで、真っ黒に日焼けした肌と白い歯が印象的なナイスガイだった。

 高校3年生らしい。


「春菜ちゃん肉担当なの? やばい、その肉マジでやばい……! やっぱ夏って言えば肉だよねえ」


 稗田が連れてきた、彼女さんが茶髪のほっそりした女子。


「あっ、アタシはねー、粟森心愛あわもりここあ。将馬くんとちょっと愛が冷め始めてる高校二年生! 乗り換え先募集中です!」


 キャピッとか効果音が見えそうな、あざとい仕草をする人だ。


「心愛ちゃん痩せてるのにお肉食べていいわけ? 春菜はなんでも食べるけどさー」


「すっごい。なんでも食べるからそのおっぱいとお尻してるのね!! ってか、ウエストそれで細いとか半端なくね? ヤバい。あ、アタシ? アタシはねー。炭水化物はちょい減らしてて、でも肉はいくら食べてもオッケーなの」


「こいつ肉食女子だからよ! 気をつけろよー?」


 稗田が言うと、佃と掛布がゴクリと唾を飲んだ。

 相手のいない男子にとって、心愛は刺激的だろうなあ……。


「はーい、みんなお肉を運ぶよー。量だけあるけど質はそこそこだからねー」


 秋人さんがこの場にスッと入ってきて、そこの空気をマイペースに巻き込んでいく。

 麦野家が用意した肉は確かに多い。

 昨日、すぐに業務用スーパーに行って山程買ってきたらしい。


 ちなみに、野菜を持ってきたのは俺だけ。

 佃は鶏肉。

 布田は豚肉。

 掛布はホルモン。


 なんでお前らは奇をてらってくるんだ。

 麦野家が牛肉を用意してくれなかったら大変なことになるところだった。


「あたしはねー。お豆腐」


 水戸じるしのお豆腐だ!!


 わいわい騒ぎながら、みんなでバーベキューの用意をしていく。

 大きな機械と、網を載せて。


 秋人さんと稗田は、日よけのシェードを組み立てる。


「秋人さん指太いのに器用ですよねー」


「そう? 僕、なんでも自分で作っちゃうからねえ」


 水戸ちゃん、麦野、粟森の三名は野菜を刻み、肉を切り分け、キャッキャとおしゃべりしながら串に通している。


 俺はこの光景を、パシャリと一枚。


 すぐにFINE伝いで舞香に送る。

 反応は即座に返ってきた。


お米『いいなあ……。こっちはもう夜中。スイスでもバーベキューしてみたいけど……こっちにはみんなはいないしー。帰ったら絶対。絶対だからね?』


稲穂『もちろん!』


 この会話をスクリーンショットして、麦野にも送り、情報を共有する俺なのだった。

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