第83話 バーベキュー実況

 俺はFINEを展開したまま、バーベキューに参加する。

 準備の光景を撮っては、送る。


「君、なにしてんの?」


 稗田から質問が飛んできた。


「あ、彼女がスイスにいるんで、バーベキューの風景だけでも届けようかと思って」


「へえー。彼女思いだねー。……ん? スイス!?」


 そこに食いついてきたか。

 そして、稗田の現在彼女、目下のところ愛が冷め始め、新しい恋を探しているらしい粟森も会話に参戦する。


「スイスやべー! あれっしょ。なんか時計作ってるところ」


「なー。彼、スイスに彼女いるんだって」


「遠距離恋愛!? やばーい!」


 大盛りあがりだ。


「いや、スイス在住じゃなくて、夏はスイス旅行してるらしくて……」


「それでも凄いじゃん! 金持ちだなあ」


 非常に俗っぽいところがリスペクトされてる。

 こういうタイプの人達周りにいなかったからなあ。


「なんだとぉ」


 おっ、佃が反応した。


「稲垣ぃ、今お前、彼女とか発したか」


「──うむ」


 すると、佃が目を見開き、唇をわなわな震わせた。


「ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、まさか、まま、まさかまさか」


「……米倉さんと?」


 掛布がぼそっと言った。


「一応、そう。この間の夏祭りで告白しまして……OKをもらいました」


「ぬぐわーっ!!」


 佃がめちゃくちゃのけぞりながら、河原にぶっ倒れた。

 そして、なんか釣りの餌になるミールワームみたいにのたうち回る。


「あああああああああああああああ稲垣がついにいいいいい羨ましい羨ましい羨ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましいいいいい」


「気持ちは分かる……」


 悲しげに掛布がつぶやいた。


「だけどおめでとう、稲垣。良かったなあ」


 掛布はいいやつだなあ。


「そっかー! おめでとう! 今度ダブルデートしようぜ!」


「おめでとー! ついにくっついたねー!」


 布田と水戸ちゃんからの祝福がとっても素直だ。


「マジで!? できたてホヤホヤカップルじゃん。おめでとー!!」


「いいねー! 最初はアツアツだかんねー! アタシらみたく冷え切るなよー!」


 稗田と粟森も祝福してくれて嬉しい。

 ただ粟森さんはあまり将来に不安を抱かせることは言わないで欲しい。


『なになに? 何かあった?』


 あっ、もしや音声が向こうに伝わってた?

 スマホから舞香の声がした。


「あのさ、俺と君のことをみんなおめでとうって」


『────!!』


 向こうでバタバタする音が聞こえた。

 照れてジタバタしてるな。

 可愛い。


 しばらく舞香はおとなしくなりそうなので、この隙に準備しちゃおう。


「そっかー。ついに舞ちゃんがねえ。あんた、ちゃんと舞ちゃん支えなさいよ? っても、稲垣くんならやれるでしょ。清香さんを二回説得したのあんたが初めてだし」


「えっ、そうなの!?」


「稲垣くん凄いねえ。僕は清香さん怖くて話しかけられないよー」


 麦野兄妹からとんでもない話を聞いた気がするのだ。





 さあ、バーベキューの用意が整った。

 みんなで肉を載せて、じゅうじゅう焼く。


「穂積くん、野菜担当かあー。全部肉でもいいんだけど、それだと思ったよりも胸焼けとかで食えなくなるんだよねー」


 トモロウが切り分けた野菜を、器用に串に通す。

 それを肉の隣で焼き始めた。


「トモロウくん、いきなり野菜とかなくね?」


「いやいや将馬くん。肉と野菜は交互。これ鉄則だべ。じゃないと消化とかよくない」


「トモロウくん俺と同類みたいに見えて、やっぱ頭いいよなあ。偏差値いい高校は違うぜ」


「んなことないって。将馬くんだって卒業したら即就職っしょ? すげーって」


「俺の頭じゃ大学行けねえし、それよりもうちに金がねえからなあ」


 将馬がゲラゲラ笑った。

 みんな色々な立場があるのだ。


 ちなみに向こうでは、佃と掛布の間に粟森が入り込んで、二人の純情な男子に粉をかけている。


「へえー。お肉焼くのうまーい。アタシね、お肉焼くの上手な男の子大好きなんだー。上手な方と付き合っちゃおうかな?」


「マジですか!?」


「佃、本気にするなよー」


 掛布もまんざらでもなさそうだ。

 せっせと二人が肉を焼きまくる。


 焼けた肉を、秋人さんが美味しそうにパクパク食べている。


 なんだこれは。


「二人とも、ちょっとお肉生焼けだよー。豚と鳥はしっかり焼こう!」


「いや、麦野さんのお兄さんなんで俺らが焼いたの全部食べてるんですか!?」


「ごめんね、お兄ちゃん常にこういう感じだから……」


 おお、麦野が謝っている。


「ほれ、穂積くん。肉と野菜。こうして焼き上がったのを網の上で並べると絵になるっしょ」


 トモロウに言われて、俺はハッとした。


「あ、写真いいすか」


「もちろん! スイスまでこの匂いを送ってやれー!」


「うっす!」


 ぱしゃっと一枚。


『あ、美味しそう。もう真夜中なのに』


 FINEからは、舞香の切なそうな声が聞こえたのだった。

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