第71話 まさかの友情?

「ってことで、トモロウさんのレクチャーだぜ稲垣くん」


「いつの間にレクチャーになったんですか」


「いいのいいの! あのさ、君は米倉さんに告るんだろ? これ、どんだけいけるか自分で分かるべ?」


「どれだけけるか……?」


 そんなもの、分かるわけが……。

 そう思って、トモロウがさっきまで言っていた話を思い出す。


 曰く、告白は確認作業。

 するまでの間に、勝負は決まっている。


 俺が告白するまでの間、舞香とどんな時間が過ごしてきたかが肝だってことだろう。


 ……。

 思えば、随分いろいろな事を彼女としてきたな。


 一緒にお喋りするだけだったのが、ヒーローショーデートして、麦野と巻き込まれた付き合ってる騒動を解決して、プラモ作って、ヒーローショーまでやって、この間はプライベートビーチに行って……!


「とりあえず、凄く濃厚な時間を過ごしてきたのはあるかなあ」


「濃厚な時間? ああ、ならあれだ。稲垣くん」


 トモロウは笑いながら、俺の肩を叩いた。


「男なら、ガーンとぶつかれ! 俺から言えるのはそんだけ。当たっちまえ!」


「当たって砕けろってことですか」


「んー? 砕けるかどうかは、あれだろ。悔しいから俺は何も言ってやらねえ。でさ、この後暇ある? カラオケ行かね?」


「は? 俺とですか? 女子じゃなくて!?」


「女子とは普段から付き合ってんだから、いっつもそればかりじゃ息が詰まるんだよ……! 男と男ってのはハートっしょ。俺は、こう、あっついハートの通う男の付き合いがしたいんだよ!」


 おおっ、トモロウが燃えている。

 なんか、男同士の付き合いに飢えているようだ。


 確かに三股とかしてるような人、同級生からするとアレだもんな。

 案外男友達がいない人なのかも知れない。


「まあいいですけど。なんか色々話を聞かせてもらったお礼に」


 ていうか、結論ははぐらかされた気がする。

 俺は舞香に告白して、成功するの? 砕け散るの?





 とりあえず、あの告白を見た日には想像もできない状況になった。

 水田トモロウと二人きりでカラオケである。


 あと、トモロウ歌上手い。

 めっちゃ上手い。


「流行りの歌は必ずチェックするわけよ。流行ってるってことは、聞いてる女子も多いじゃん? で、どっかに共感してたりとか音がスキだったりとかすんの。だから割と、俺はヒトカラで鍛えてる」


「先輩、努力の人なんすね」


「その先輩ってのもなんかさ、他人行儀じゃね? トモロウでいいわ」


「じゃ、じゃあトモロウさん」


「おう、穂積くん」


 そっちも名前呼びしてくるのかよ!


 しかしこの人、表向きはチャラチャラしてて、その実チャラチャラして三股をするための努力を裏で必死にやってるんだな。

 社会的には悪かもしれないけど、俺はこの人嫌いになれないな。

 まあ、トモロウが舞香に振られたからかも知れないけど。


「よっし、じゃあ練習終わり。あとは趣味の歌な」


 と言ってトモロウが歌い出したのは、俺もびっくりだった。


 女性ボーカルのアニソンだった……!

 すげえ裏声上手い。


 あー、これは確かにデート中に女子の前じゃ歌えないよなー。


 トモロウは歌い終わって、凄くいい顔をしていた。

 俺も盛大に拍手をする。


「ありがとう! いやー。男同士じゃなきゃ歌えねえべこれは……。こういうのスキな女子が理想だけどよ、なんか俺の行動範囲にいねえんだこれが……。あと、そういう女子は俺の理論だとまだ落とせなさそう」


「トモロウさんが最終的に落としたい女子ってそういうタイプなんですか?」


「そ。こじらせてなくて、フツーっぽくて、アニソン裏声で歌ってもゲラゲラ盛り上がってくれる女子。な? 俺って理想が高いっしょ。でも、こういうのに会ったらぜってーに結婚する」


「おお……!」


 ちょっと感心してしまった。

 この男はこの男で、芯が通っているのだ。


「ほい、次は穂積くんじゃん? 何これ。ヒーローの名前? ヒーロー、ヒーローショーって……あー! あーあーあー!!」


 おっ、トモロウが今、心の底から理解したらしい。

 そう、ヒーローとはこれだ。

 特撮だ……!!


 アップテンポのイントロが流れ出す。

 曲はもちろん、『Bay・Shock! ライスジャー』!


 俺は立ち上がると、マイクを握りしめ、小指を立てて熱唱した。

 あえて小指一本を使わないことで、マイクを握る手に緊張感が生まれる。

 すると、全身に力が漲るのだ。


 余計な力みこそ、ヒーローソングを歌うために重要な要素!!

 音が外れたって気にしない。

 命を賭けて歌い上げろ、俺のヒーローソングを……!!


 途中から、トモロウがタンバリンを使って盛り上げに入ってきた。

 これがもう、凄くうるさいのに絶妙なタイミングで入れてくるので、歌に力が入ってしまう。


 最後のサビを歌い切り、演奏がやがて止まり……。


「うおー!!」


 トモロウがめちゃくちゃ拍手してきた。


「いやー、よく分かんねえけど、良かったわ! あれだ。俺、小学校に入るまでは見てたわこれ! そっからはガキのもんだと思って見なくなってたけど、俺の好きなアニメと一緒だもんなあ……。好きには年は関係ねえよなあ」


「トモロウさんがまだ特撮見てて、俺が見てなかったら、俺達の立場は逆だったかも知れないですね」


「だな。でも、それが運命ってやつだ! おい穂積くん!」


 トモロウは俺の胸に拳を当ててきた。


「俺の仇を取ってくれ! 一発、ぶちかましてこい!」


「うす!」


 ってことで、俺のFINEに新しい友だちが追加されることになったのだった。

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