第42話 ジムと彼女と今後の予定

 舞香に誘われて、ジムにやって来たのだった。

 まさか、練習の後でさらにジムで運動するとは……。


 でも、芹沢さんの特訓を前から受けていた俺としては、それなりにこの運動量に耐えられるようになってきている。

 おかげで、舞香と二人きりのジムと考えると……。

 悪くない、悪くないぞ、ふふふ。


 最近、佃達と一緒に練習することになって、舞香と喋る時間も減っていたからな。


「ここがね、私の通っているジムなの」


 舞香が指差すのは、なるほど……。

 いかにも高層ビルの中にある、豪華そうなジム。

 会員制だって。

 ひええ。


「ちなみに会費はおいくらくらい……」


「ええとね」


 舞香に耳打ちされた金額は、目玉が飛び出るかと思った。

 いや、一応五桁なんだけど!


 そして耳元でささやく彼女の声が心地良い。


 彼女に誘われてジムの入り口をくぐる。


「ようこそ、米倉様。本日はお連れ様もご一緒ですか?」


「はい。友達と一緒で。いいですか?」


「ええ。米倉様のご紹介ということで、ゲスト様としてご入場できます」


 俺はゲスト用のリストバンドをもらった。

 そして、更衣室に分かれ……。

 軽くシャワーで汗を流してから、中で合流だ。


 タンクトップ姿の舞香がそこにはいた。

 髪をポニーテールにまとめている。

 舞香のポニーテール。


 眼福なのだ。

 今だけは、俺が彼女を独占している、みたいな気持ちになる。


「それじゃあ、体は随分動かしたと思うから、ストレッチとかヨガとかやっていこうか」


「あ、機械は使わないんだね」


「一日にする運動の量は決まってるの。やりすぎはよくないんだよ」


 なるほど、そういうものなのか。


 そんなわけで、彼女と一緒にトレーナーについて、ストレッチをしたり生まれてはじめてのヨガをしてみたりした。

 ソフトな奴らしくて、あんまりきつくない。


 こう……。

 舞香と一緒でざわざわしていた気持ちが落ち着いていくような……。


 ふと横を見たら、目を閉じた舞香の姿があった。

 なんか、ヨガのポーズをしてる。

 なんて言われたっけ。魚のポーズ?


 制服とも、私服とも、体操着とも違う、ジムの中だけで着るようなタンクトップにスパッツ姿。

 つまり、体の線とか分かるわけで、これは大変年頃の男子の心を揺さぶる。


 あわわわわ。


 一通り終えた後、俺の心臓はばくばく言っていた。

 隣には、うっすらと汗を浮かべた舞香がいる。

 首にかけたタオルで汗を拭っているのだが、なんとも色っぽい。


「どうしたの?」


「いや、大変眼福……じゃない。なんか、気持ちが落ち着いてきたよ」


 落ち着くどころか、ドキドキしてるけど。


「そう? 顔が赤いよ。大丈夫……? 無理な動きしちゃった?」


「してない」


「それならいいけど……一休みしよっか。あのね、ジムにはプールもついてるから、そこで泳いでもいいんだよ」


「プールが!?」


 俺の妄想が働き始める。

 プールということは水着にならねばならないではないか。

 舞香の水着姿……?


 高校で出会ったばかりの彼女の水着姿なんて、俺はまだ見たことがない。

 見たい。

 とても見たい。


 だが、ここでガツガツするべきではないだろう……。

 第一、彼女は水着を持ってきてないだろうに。


「そのうち行きたいな」


 なんとかそれだけ言った。

 すると舞香は、ちょっと考えたようだ。


「そっか、そうすると、稲垣くんの水着が……」


 何をぶつぶつ言っているんだろう。

 舞香の頬がちょっと赤くなった。


「どうしたの? 米倉さんの顔が赤いけど」


「う、ううん、なんでもない。なんでもないから」


 舞香が真顔で否定してきた。

 なんだろうか……。


「それより、稲垣くん。もうすぐね、頼んでいた特別講師が来るの」


 話題が変わった。

 ちょっと強引な気がするけど、聴き逃がせる話題じゃない。


「特別講師?」


「そう。実際に特撮に携わっていたスーツアクターの方でね。兄さんがあちこち駆け回って探してきたって」


「一竜さん、なんでそんなに必死になるんだ。絶対あの人、特撮好きでしょ」


「うん、きっと大好きだと思う」


 二人で顔を見合わせて笑った。

 あのクールで腹の底が読めない一竜さんも、特撮好きだと思うとなんだか可愛く思えてくるから不思議だ。


「アクターさんに指導してもらって、そこで仕上げ。あとは衣装の完成を待つだけだよ。あ、ボランティアの日はね、期末テストに近いから勉強もやっていかないと……」


「そこは大丈夫。勉強しないと小遣いが減らされるからちゃんとやってる……!」


「お小遣いが!? き、厳しいんだね」


 きっと、テスト勉強などせずとも、期末テストでトップクラスの成績を叩き出すであろう舞香。

 彼女は自分の知らない世界の話を聞いて、神妙な顔になるのだった。


「それはそうと、プールは今度来よう……! 練習がない日とかどうかな」


「いいけど、勉強は大丈夫なの?」


「大丈夫にする」


 走り出した俺の気持ちは止まらないのだ。

 ヒーローショーの練習をする。

 テスト勉強もする。

 舞香とプールにも行く。


 全部やらなくちゃいけないのが、リビドー溢れる男子高校生の辛いところだな……!

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