第39話 男子チーム結成
俺、佃、布田、そして掛布。
かつて舞香の創作ダンスを動画で盗み見たこの四人が、再び集い、同じ目的に向かって邁進することになるとは……。
俺達は今……道場にいます……!!
なんでだ!
その理由は、今俺達の目の前にいる。
「はい、四人とも注目!」
「はいっ!」
俺以外の三人がとてもいい返事をして、彼女に注目した。
そう、彼女とは、米倉舞香の護衛である芹沢旬香なのだ。
そしてここは米倉グループが所有する道場の一室。
芹沢さん、ここで学んで国際大会まで行ったのだとか。
「では、みんなにはこれから短い期間だけど、特訓に励んでもらいヒーローショーに耐えられる体作りと動きの基礎鍛錬を行っていきます」
「稲垣。お前、いつの間にあんな大人の美人と付き合いができたんだよ……裏切り者めえ。だがお蔭で俺が美女に手取り足取り色々教えてもらえることになるから許す……」
憤怒の形相から菩薩の顔へと早変わりする佃。
元気だなあ。
米倉舞香の立てた、育児施設でのヒーローショー計画。
これにはクリアしなければならない関門がいくつかあった。
その一つが、男子メンバーのスカウトなのだった。
というわけで、俺は悪友三人に声をかけた。
表向きは、舞香が主催するボランティア活動だ。
俺達としても内申書に影響するし、参加して悪いことはない。
そして、舞香、麦野、水戸ちゃんの三人が参加するのだ。
「クラスでもトップの……いやいや、学年でもトップの美少女が二人いるんだぜ。しかも講師がまた美女とかどういうことなんだ……。これは俺にも運が回ってきたのでは」
「おい佃訂正しろ。美少女は三人だ……」
「は? 布田、お前まさか水戸ちゃんのこと言ってるの? 水戸ちゃんは小動物だろ。美少女じゃない」
「なんだとてめえ」
「おうなんだリア充」
「やるか陰キャ」
おっ、いつものが始まった。
「ほう……元気が有り余ってるみたいだねえ」
芹沢さんがにっこり笑った。
怖い。
メガネを外し、道場の隅に置き、そして振り返る。
「それじゃあ、元気な方からかかってらっしゃい。私がお相手してあげる」
「うひょー! マジですか! うりゃあ」
佃が早い!
凄い勢いで芹沢さんに向かう。
これはルパンダイブでもしそうな構えだ。
「ぐへへへ、美女と乱取り……は?」
次の瞬間、佃の体が宙を舞っていた。
襟口を掴まれながら、踏み込んだ足を払われたんだ。
そして背中から落ちる佃。
芹沢さんが上手くコントロールしてるから、ちょっと受け身を取ったような落ち方になる。
「ぐへえー」
佃が衝撃で大の字になった。
「……君、このままでも戦闘員としてはやっていける動きじゃない?」
俺もそう思った。
「はい、注目ー」
「はいっ」
今度はさっきとは別の真剣さで、布田と掛布が芹沢さんに注目した。
二人とも、冷や汗をかいているな。
「柔道の授業じゃないけど、私は護身術や殺陣に通じる動きを多少使えます。まだ君達に教えるというレベルではないかもだけれど、精一杯、教えていくね。君達がこの勉強会が終わった後、一人前の戦闘員となれるよう願っています」
「は、はいっ」
「優しくお願いします!」
おっと掛布から本音が出たぞ。
掛布は基本的にあまり前に出ない男だが、心のなかにスケベな魂を飼っているごく一般的な高校一年生男子だ。
今回は初めてこういうイベントに誘われ、ノリノリでついてきたのだろう。
果たして天国になるか地獄になるか。
「稲垣……」
「どうした掛布」
「寝技は掛けてもらえるんだろうか」
「ヒーローショーの殺陣メインだから無理じゃないかな」
「そうかあ……」
あ、がっかりしてる。
だが、すぐに彼は立ち直った。
「でも、あの米倉さんと麦野さんと一緒に参加できるんだもんな! 講師の芹沢さんは大人の魅力だし。これで内申書までよくなるならボーナスステージだわ。俺頑張るわ」
「前向き……!!」
俺は掛布を見直した。
俺達男子の脳内は、性欲が80%くらいなんだが、掛布はこの性欲をポジティブな方向に昇華したんだ。
なかなか凄いやつだ。
俺なんか、舞香との距離を測りかねて常に悶々としたり、麦野の俺を異性として見てない無防備な動作で悶々としたり、芹沢さんの俺を弟みたいに見て接してくるのに悶々としたりしているのに。
俺の自制心も大したものだな……!
いや、チキンなだけなのでは……? いやいや。
「じゃあ、まずは基礎体力から。柔軟やって、道場の回りを走りましょ。それから動画を鑑賞して、それをテキストにして手さばき足さばきの練習!」
ハードスケジュール……!!
俺達の戦いは始まったばかりなのだ。
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