2月5日

 計画は順調だ。

 今日は、僕のことを見下していた男子後輩に会いに行く。


 もちろん、偶然を装って、だ。


「お、倉本センパイじゃないっすか。奇遇ですねえ」


 ヘラヘラしながら、僕に近づいてきた。

 奇遇もなにも、オマエが此処に来ることは分かりきっていたんだ。


「相変わらず、調子良さそうだな。たまには連絡よこせよ」


「いやぁ、俺だってそれなりに忙しいんすよォ。センパイもあれっしょ? 暇してるんじゃないっすか?」


 いちいち小馬鹿にした口調にイラつく。コイツは既に「大嫌いボックス」に分類されてあるから出来るだけ関わらないようにしていた。しかし、僕もそんなに我慢強くはなく、堪忍袋の緒が切れる寸前に手を掛けようと実行に移したのが今日。


「んな居眠りでもしてる暇はないって。……中で話さないか? こんな暑い中突っ立って喋るのも嫌だろ」


「そうっすねぇ。あ、奢りっすか?」


「馬鹿、割り勘だ」


 近くのアンティーク調の喫茶店に入り、後輩を待っていた学生時代の教師とも再会した。


「どれだけ待たせてんの、星斗せいとくん。……あれ? もしかして、倉本くん? 久しぶりじゃない! あれだけ細かったのにたくましくなって……」


 この紛い者の教師おんなにも恨みがある。この前、手に掛けた筋肉馬鹿に虐められていた時、見て見ぬフリをしていた。それだけではまだ良かったのだが、正義心か何か下らない心理がはたらいたんだろうね。単細胞野郎の連中を注意し始めた。そのおかげで虐めはエスカレーター式。もっと酷い目に遭ったよ。


「先生、感動の再会はよして下さいよ……」


「ほらセンパイも迷惑がっているじゃないっすか。落ち着きましょうよ」


「ああ、ごめんね……。懐かしくって、つい……」


 何が“懐かしい”だ……。青春を謳歌できなかったのはオマエのせいだろう…! っと、取り乱してしまった。


「俺、珈琲。センパイは……っと」


「クリームソーダ。いい加減覚えろよ」


「好きだよねぇ。昔っからクリームソーダ」


「いいじゃないですか……。珈琲嫌いだし」


 1時間ほど喋り続けた。こんなに長時間座っていて楽しいとは思えなかった行為だったが。

 内容もくだらないもので、仕事の内容がキツイとか、世間がああだとか、レベルが低過ぎて欠伸を5回連続で出してしまっていた。


 それから帰宅し、出直した。

 そして、しばらく歩いたところにある一介のアパートに到着した。


 玄関の扉は鍵が掛かっていて、蹴破ると中には後輩あいつと《おんな》がベッドの上に寝転がっていた。


 いきなり入ってきた僕に対して、驚きと困惑の表情を交えた顔を見せた。

 そんな二人に目もくれず、僕は持ってきたサバイバルナイフで後輩の胸を一突きにした。返り血が思い切り顔にかかり、真っ赤に染まる。


 次に、教師おんなの方へ歩み寄り、素の身体を自分に近づけ、首筋に刃を当てた。

 ひどく怯えた目をしていて、気分がとてもよくなった。これまでの恨みを思う存分にぶちまけたい。その一心は、刃を引く引き金となり、絶命させることに成功した。


 死体はいまだ、恐怖に満ち溢れている表情をしていた。叫んで助けを乞うこともやらなかったので、大した人間だと感心させられたよ。


 二人の腕を切り取って、手を繋いでおいた。


 これで、僕の復讐劇はおしまい……っていう訳でもないんだ。

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