俺たちの祭り

@ie_kaze

第1話

 マンションの一室に男たち4人がビニール袋を持って入ってきた。

 4人は共に仲のいい男子大学生で、今日は花火大会があるから見に行こうと計画をしていたのだが、駅がごった返す、その洒落にならない様子を見てから引き返してきたところだった。

「あんなのまともな奴が行くところじゃねーよ」

「だよな、お前のマンション近くてよかったわ」

 今日のためにバイトを休みにした者もいた、せっかく作った時間で何かできないものかと話し合った結果、友人のマンションで酒盛りをすることになったのだった。

 マンションは大学の近くにあり、その部屋は高い場所にあった。そこから下を見下ろせば、さっきまで自分たちがいたであろう場所が遠くに見える、人だかりで道路が見えない事だけはわかった。

「てかなんでこんな場所にいるのに会場まで行こうと思ったわけ、頑張りすぎでしょ」

「いや、なんか一人で眺めるってむなしくない」

「彼女いないやつらで集まってももっと悲しくなるだけだろ」

「いいんだよ、今日は酒飲んでばか騒ぎするんだから」

 男たちが降ろしたビニール袋の中身は、酒やお菓子やつまみで、持ち寄ったものは一夜を過ごしてもまだあまりそうなくらい大量なものだった。

「てかお前ら買い過ぎ」

「いいだろ、今日なにもする予定なかったんだから、普段バイトでためたお金も使い道がなくなったし、本当はナンパでもして彼女ゲットーとか思ってたんだぜ」

「ゲットしたことなんかないくせに」

「うるせーな、今日その因縁を終わらせるつもりだったんだよ」

 サークルで知り合った4人だからでこそ趣味も似通っていて、そんな彼らが大学生活を通して仲良くなるのにはそう時間もかからなかった。

 ビニール袋から酒を取り出し、家主が用意したコップの中に注いでいく。

「こんなの出さなくても缶のまま飲めばいいのに」

「そうじゃねえんだよ、なんていえばいいのかな」

「雰囲気大事にみたいな感じか」

「そうそれ、分かってんじゃん、缶から飲んだって味気ないだろ、折角家にいるんだからな」

「お前なんかお洒落だな、これなら確かに彼女もできたかもしれねえ」

「お、まじ、よくわかってんじゃん」

「んな事いいからさ、早く始めようぜ」

「ゲームもいろいろあるから好きにプレイしていいぞ」

「用意良すぎんだろ」

 家主の男が3人の前に立ち、その注目を受けながらしゃべり始めた。

「みんな聞いてくれ、花火大会はいけなかったけど、今日はここがおれたちの祭り会場だ、あんまり騒ぎすぎるとあれかもしれないけど、今日ははめ外して行こうぜ」

「くさ、堅物上司はひっこめー、開会の言葉なんかいらねー」

「そうだそうだ、さっさと酒を飲ませろー」

「うるせえアル中どもだな、乾杯だよ、おらのめのめ」


 空き缶が部屋のあらゆる場所に置かれていく。

 ゲームもやった、バカ騒ぎもした、良い気分のまま微睡んでいる。

 誰か一人でも寝始めれば、みんな一斉に寝だすようなそんな祭りの終わり際。

 その時一瞬だけ、光が部屋の外から入ってきたような気がした。そしてその光に吸い寄せられるように4人の男はベランダへと吸い寄せられていく。

 アルミサッシを開き、ムッとする熱い熱気を顔に受けながらベランダに出た。

 そして遠くのビルの少し横辺りから、花火が三分の一くらい見えていることに気付いた。

「あの高層ビルじゃまだなあ、あれさえなければ花火全部見えたかもしんねえのに」

「でもさ、本当だったら俺ら花火も見れないで、悲しい酒盛りするかもしれなかったんだぜ、だったら儲けもんじゃね」

「そう考えりゃそうかもな、ま、ちょっと味気ない花火だけど」

 その間にもビルの端で花火の残影は消えていく。その全身を見られないとしても、何かしらのメッセージや柄物でもなければ十分花火を頭の中に思い浮かべることができた。

「なんか、いいなこういうの」

「こういうのって」

「部屋で男4人むさくるしく集まったなあって思ったけど、馬鹿やって酒飲んでワイワイ騒げて、俺ここ最近じゃ一番楽しかったかも」

「うん、俺も」

 酔いがさめたのか、眠気が多少飛んだのか、それまでのテンションが少し落ち着き、夜の闇に溶けていく。

「またさ、またこういうのやらね」

「いいかもな、でもあんま頻繁には出来ねえけど」

「たまにだからいいんだよ、こういう祭りってのはさ」

「そうかもな、あ、でも彼女出来たらどうすんだよ」

「大丈夫だろ、どうせ出来ねえって、あ、こいつは例外な、お洒落すぎるわ俺らの中では」

「裏切もの―」

 花火のハイライトを背に受けながら、男たちは祭りの約束をした。

「おれは彼女作ってここに連れてきちゃうもんねー」

「無理無理、賭けていいわ」

「ああ、じゃあ競争だ、どっちが先に彼女ゲットするか勝負しろ」

「いいのかなー、おれはお前が思ってるよりはリードしてると思ってんだぜ」

「おい、そんな話聞いたことねえよ、どこの誰だよもっと詳しく教えろ」

 男たちはまたベランダから出ながら、窓も閉めて部屋の中へと帰って行った。

 祭りは終わったのか、ビルの横からその残影が見えることはもうなかった。

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