1-4 対戦格闘ゲーム「バスターレッド」大好評稼働中!
「頼人! アンタまたありすや叶恵に変なことしてないでしょうねーっ!?
あれ? いないわね……?
これ頼人のカメラが床に落ちて割れてるじゃない、さっきまで居たっぽいわね……外に出たのかしら。
全く……頼人、アンタがありすや叶恵に、下種で汚らわしい手を出そうものなら……
この、
「むーっ!」「ケッ!」「はあ……」
俺の右腕にありす、左腕に叶恵がぎゅっと抱きついて、ありすと叶恵が睨み合って、三人くっついて一緒に外を歩いている。
側から見れば二人の美少女を侍らせて嬉しいだろうっておもーじゃん? だが現実は非情である。
先程のコスプレ撮影で、ありすも叶恵も、そして俺も暴走した挙句、俺は我に帰り二人の求めを拒否してしまい、その結果ますますこの二人の仲を険悪化させてしまった。
しかし、俺はこの子達にひどい拒否をしてしまったし、俺を嫌いになっても良いはずなのだが……またこうして俺に密着してきて、大きな胸を俺の腕に押し付けてくる。
どんだけこいつら、俺という女の子を幸せにすることもできないダメ男のことを盲信してるのか……いい加減目を覚まして欲しい。
ゲーセンに行く約束はしたので、ゲーセンにとりあえず向かってるが……こんな状態でゲーセンに行ってゲームを楽しめるのだろうか?
しかし、この二人は不機嫌なところ申し訳ないが……服装がとてもお洒落で、魅力的だ。
詳しく説明すると……
ありすの服装は、リブ生地のベージュ色のハイネックセーター。露出は少なめだが、大きな胸にぴったり服がくっついていて、乳房の形がよくわかってしまう。
そのセーターをウエストインした、黒色のふわふわした、チェック柄のミニスカート。
脚は白色のニーソックスを履いていて、太ももに近いところに小さな赤いリボンが付いている。
靴はピンク色の厚底ブーツ。
総じて、可愛らしいゆるふわな印象で、こんな子におねだりされたら逆らえないような、ありすの魅力を存分に引き出すファッションだ。
叶恵は、黒光りするスタイリッシュなジャケットを前を開けた状態で着て、中はタンクトップを着ている。タンクトップにはおどろおどろしい形で『INFERNO』と書かれてある。今のこの状況を表しているようだ。
やはり胸にぴったりくっついていて、胸の形がよくわかる。
そして、タンクトップが短くて、またしてもお腹を出している。よほど、自分のウエストに自信があるんだな……実際、細くて綺麗だからな。
さらにタイトなダメージジーンズを履いていて、所々剥がれていて太ももが見えている部分がなんとも眩しい。腰、お尻、脚にぴったりくっついていて、美しいラインもよくわかる。
靴は赤のハイヒール。
総じて、攻撃的でかっこ良くて、男を振り回しそうなほど気が強そうな、叶恵にとても合致したファッションだ。
ああ、二人とも、とってもお洒落で可愛くて美人で。この子達にこうして密着されたら、またドキドキしてしまう……
しかし、恐いのは、通行人がそんな俺達を見てくることである。
俺達を見て、驚いたり、睨んだり、複数人がヒソヒソ話していたり。
完全に変な奴らって思われてるなー……
俺達の行きつけのゲーセン『ラウンドテーブル』に入る。
このゲーセンでは他の格闘ゲーマーの間でも、格闘ゲームが盛り上がっているゲーセンとして有名だ。
……てか、二人が俺の腕に抱きついてる状態で、ここの客達に見られたくねーんだけど!?
俺はそんなことを思っても二人はお構いなしに、ゲーセン内の格闘ゲームコーナーに行く。
格闘ゲームの大会や交流会の予定が書かれたホワイトボードやカレンダーがまず目に入る。
その奥の方に、格闘ゲームの筐体が多数並んでいる。
その筐体の周りに、常連の格闘ゲーマーの男達が集まっていて、いつもと同じくゲーム画面の中で激しい戦いを繰り広げている。
その男達に、さっそくありすと叶恵が、
「みんな〜こんにちわ〜♪
今日もありすと一緒に遊ぼ〜っ♡」
「よぉ〜お前らー♪
今日もアタシがビシビシしごいてやるからな〜っ☆」
と、元気よく挨拶した。
こいつら、俺にべったり迫るくせに、他の男に対してもこんな親しげに話すんだよな。
いや、別に嫉妬とかじゃないし、俺以外の男と仲良くするのは良いことじゃねーのかな、うん。
二人の挨拶に、男達がこちらを向いてくる。
先程まで格闘ゲームで闘争心を燃やしていたので、ギラリと怖い目つきをしていた、が……
「やぁーありすたんこんにちわ〜♪
今日もよろしくね〜♪」
「叶恵様ぁ!
今日もよろしくオナシャース!」
「フヒヒッ♪」
途端にありすや叶恵に対して嬉しそ〜な対応をする。うわー男ってこえー。
そういやこの男達、ありすや叶恵のファンだったな……
まあ、俺も挨拶しとこうか。
ちゃんと親しげに普通に挨拶しよう。
「やあ、こんにちは。今日もよろしく」
その瞬間、ゲーセンの男達の、鋭く突き刺すような、殺意マシマシの冷たくも攻撃的な目線が、一斉に俺へ向けられる。
「(ありすたんや叶恵様を侍らせてるクソ隠キャ野郎……許すまじ!)」
「(あんな冴えない男がなんで絶世の美少女達にモテまくるんだよ!
きっと弱みを握っていうこと聞かせているんだろ、この鬼畜変態野郎!!)」
「(フゥゥゥ……!!)」
実際に声を発していなくても、この男達の心の声がはっきりわかるようだ。
いや、俺普通に挨拶しただけなんだが!?男って、こわ……
まあ、そりゃ、公共の場でもお構いなしにありすと叶恵が俺に迫ってるところを、周りの人たちに誤解されるのも無理はねーかも知んねーけどさ……
その後、俺達三人は常連の男達と共に、格闘ゲームを始める。
今俺達がやり込んでいるこのゲームのタイトルは『バスターレッド』。
さっきも少し説明した、ハイファンタジーな世界観とスタイリッシュなキャラクター、そしてキャラが多いのにゲームバランスが奇跡的に優れているのが魅力の格闘ゲームだ。
俺はありすに挑んでみた。
ありすの選択したキャラクターは、魔法少女な可愛らしい見た目をした、飛び道具を多数撃ったり設置したりする、遠距離戦が強いキャラクターだ。
俺は、大剣を持った女戦士のキャラクターを選択。大剣攻撃の届く、近〜中距離戦が得意なキャラクターだ。
俺とありすの対戦。
結果から言おう。俺の負け。
ありすのキャラクターの鉄壁の守りに、ほとんど近づくことさえ出来ず、飛び道具連射されてダメージを喰らいまくって、1ラウンド目は体力が0になり、2ラウンド目は時間切れによる体力差で負けた。
その対戦中にありすは筐体の向こう側から
「ありすはこのままタイムアップでも良いんだよ〜☆」
と煽ってきた挙句、対戦後に俺に、
「限られたルールの中で、勝利条件を満たしただけだからっ☆」
と追い討ちの煽りを決めてきた。
その後、叶恵に挑んでみた。
叶恵の選択したキャラクターは、さっき叶恵のコスプレ撮影の時にも触れた、セクシー魔女のキャラクターだ。
弾速が遅く、相手をホーミングする飛び道具を撃ちつつ、それを盾に斜め上に浮遊するような独特のダッシュで近づき、相手に近づいた時に怒涛のラッシュで相手の体力を削り切るテクニカルなキャラクターだ。
俺はさっきと同じキャラクターを選択して挑む。
対戦前に叶恵は、
「負ける要素ねーし☆」
とか煽ってきて、俺は叶恵を負かして泣かせてやるっ!と思った。
結果、俺の負け。
流石大会上位入賞の腕前と言ったところか……
叶恵のキャラクターが俺のキャラクターの大剣による長いリーチと広い範囲を持つ攻撃をかわしつつ近づくのは、本来ならばかなり辛いはず。
しかし叶恵は、遠距離からは飛び道具でプレッシャーをかけて俺を焦らせ、俺の攻撃を上手いこと付かず離れずの位置でかわしつつ、空振った隙を見て一気に近づきラッシュをかけてくる。
そうなれば、叶恵の怒涛のラッシュをかわすことなど、俺よりも強いプレイヤーであっても至難の技だ。
叶恵のターンになってしまえば、俺は為す術もなく圧殺されてしまった。
叶恵が勝った後も、
「弱攻撃見てからカウンター余裕だったぜっ☆」
とか煽ってきやがった。
俺が顔真っ赤になって泣かされてしまった。
その後、俺は他の常連客と対戦を何度かする。
勝ったり負けたりという感じ。やはり、今ここで格闘ゲームやってる中では、女の子でありながらありすと叶恵が抜きん出て強いようだ。
俺が休憩がてら少し観戦していると、
ピロリン。
俺のポケットの中のスマホの通知音がなる。
それを取り出し、画面を開くと、「ナイン」のメッセージの通知で、内容は……
幸果<アンタ今どこ?ありすや叶恵と一緒?
ゲッ……幸果!?
ありすや叶恵のようにいつもいるわけではないが、歴とした大学内の俺の趣味の部屋に入ってくる女の子の一人。
名前は清町幸果。
この子の詳しい紹介は、実際に顔を合わせた時にしようと思うが……
ありすや叶恵には優しいが、俺には厳しい、そんな女の子だ。
恐らく俺達三人が部屋を出た後に、幸果がその部屋に来たのだろう。
俺としては、幸果もとても可愛くて美人で素敵な女の子なので、穏便に接したいのだが……まあ、あいつが俺に厳しいのもわかるしな。
幸果に嘘を言うと後々恐そうだし、別に俺はありすや叶恵にやましいことなどしないし、俺は、
頼人<ああ、ありすや叶恵とゲーセンにいる
と、入力した。するとすぐに、
幸果<わかった
と返信してきた。
まあ、幸果は俺達と違ってゲームが趣味じゃないから、ゲーセンに来る可能性は少ないだろう……
叶恵は常連の男達相手に無双している。
もう10連勝してる……素直に凄いと思う。
相手との対戦終了後も、感想戦なのか楽しく喋っているようだ。
一方のありすは、今現在5連勝したところか。
ありすは叶恵のように大規模な大会に出場することはしないが、それでもかなり強い。
こちらも対戦を終えて相手の男と笑顔で話しているのが伺える。
叶恵は、そんなありすの楽しそうな様子を、対戦中にも関わらず、チラチラ気にしてイラついてるようだった。
ありすも、叶恵に対してドヤ顔で返していた。
お前ら、相手のこと気にしなきゃ良いのに……
そして、男と話しているありすが、叶恵の方をチラッと見て、こう発言した。
「そんなに褒められると嬉しいな〜♪
ありす調子に乗ってかなちゃんだって倒しちゃおうかな〜っ♪」
それを聞いた叶恵、男と対戦中にも関わらず、ガタッ!といきなり席を立つ。
13連勝してたのに、捨てゲーしてしまう形になる。勿体ない……
その場の俺を含めた男達は、凍りついたように黙り、ありすと叶恵を見つめる。
叶恵は、ありすに向かって歩いていく。
そして、重苦しい静寂のなかで、口を開く。
「ありす、アタシは、オメーに……
『野球格ゲー』を申し込むっ!!!」
……は?『野球格ゲー』???
ものすごーく、嫌な予感がする。
そして、俺の嫌な予感は、的中する。
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