Phantom redemption〜暁ノ希望〜

夜季星 鬽影

第1章 噂の喫茶店

第1話 はじまり

ここは人間とあやかし、幻獣やエルフ、竜人や獣人、ドワーフといったファンタジー世界のモノ達が共存し、魔法や科学も存在する世界。


その世界の片隅に、ひっそりとたたずむ店が一軒。

名を〈誰ソ彼喫茶たそがれきっさ〉という...





************





私はごくごく普通の人間の家庭に生まれた、ごくごく普通の高校生!…だった。去年までは...



私が入学したのは様々な種族が集まる公立の高校。もちろん、共学だ。

中学までは、1番近場の人間しか居ない学校へ通っていた私。入学がものすごく楽しみだった!


そして入学式。ドッキドキワックワクして前日眠れなかったんだよなぁ...


門をくぐれば周りには綺麗なエルフや小さなドワーフに大きなオーガ。他にも魔女や半魚人、妖精や妖怪なんかもいる...まさしく夢のような空間!

...っと。あんまりにも嬉しくてきょろきょろし過ぎた...入学早々遅刻なんてマズい!慌てて自分のクラスへと向かった。


席に着くと隣は長く透き通るような、みどりの髪をツインテールにした女の子。


「おはよう!隣の席だから、これからよろしくね!」

「は、はい!!よ、よろしくお願いします...」


振り向いた顔には眼鏡。耳は長く尖り、頬は少し赤くなっていた。

困ったような表情にちょっと暗めの桃色の瞳。ヤバイ、可愛い...


「私、霧氷むひょう 綟華らいか!貴女はエルフ、だよね?」


念の為に確認。これで間違えていたら恥ずかしい...


「はい。そうです...えっと、私はメイ。メイ•ラング。純粋なエルフ族です」


良かった、間違ってなかった...

ほっと一安心。


この世界のエルフは3種類。

長く尖った耳を持つ白い肌の純粋種に、同じく耳が長く尖った、けれど肌の色が黒いダークエルフ

最後にこの世界特有のその両者のハーフ、または人と両者のハーフの3種類となる。(厳密には4種?まぁいいか!)


「メイちゃんか!可愛い......っと!私は見ての通りただの人間だから」


可愛さのあまりうっとりしながら見つめてしまった...変なやつだと思われなきゃいいな。


「そうなんだ...私、エルフ以外とお話しするの、初めてで...」

「そうなの?私もそう!メイちゃんは、魔法使えるの?」

「う、うん。回復魔法が得意...」

「うわぁ!いいなぁ...ここで勉強したら、私も使えるかな...」


他愛のない話で盛り上がった初対面の日。

入学早々できた友達は、これから1年を通して家族ぐるみで仲良くなった。もちろん、親友と言えるくらいに!




************




......そして月日は流れ、現在高校2年生の夏。

忘れもしない、がやってくる...


その日は定期テスト終わりの半日休みの日。私はいつも通りメイを誘って近くのファミレスへと入った。


「あっついねぇ...」

「夏、だからね...」


私はこのじめっとした高い湿度が嫌いだ。メイはそうでもないみたいだけど。


「私これ!メイは?」

「私も同じので...」


2人とも注文し、料理を待つ間に最近人気のある“噂”について話す事に。


「この間から急に話題になった〝黒名刺〟って噂、メイ知ってる?」

「ん?聞いた事はあるよ?」


梅雨が明けてすぐの頃、その噂話は爆発的に広まった。

原因は私達の通う高校での自殺事件。


その事件は、梅雨が始まる前に起きた......



ある日のお昼直前。もうすぐ昼休みとあって生徒達はそわそわとしていた、そんな時。

「きゃー!!」と言う複数の悲鳴で、それまで静かだった学校内が騒然とした。

体育でグラウンドにいた生徒達の悲鳴だったようだ...

何事かと窓を一斉に見る生徒達に、それを抑えようとする先生。事態を把握していないので対処しようも無く、その時間の授業は強制終了された。

私も窓の外は見れなかったけど、サイレンやら先生や警察の人達の声がしていたのは覚えている。


目撃者の話では、学校の屋上にふらりと人影が現れたかと思ったらそのまま落下した、との事だった。

状況からして即死のはず(学校の屋上からコンクリの地面へ向かって頭から落ちたんだよ!?)だったが、数日後には何事もなかったかのように登校してきたらしいその生徒。現場を見た人達からは“あり得ない”と言われていた...

私のクラスの人ではないから、聞いた話なんだけどね!


で、何故即死確実で生きていたのか?

奇跡的に生きていたとしても、怪我もなく登校してきたのはどうしてか?などなど...

真相を知る者は居らず、その生徒も何も話さなかったらしい。学校側も生徒は生きていたから、と自殺事件として世間に公表したのだ。


ちなみに自殺を考えた理由は“いじめ”。その生徒が死んだと思ったいじめっ子達は自首して退学処分となった、と聞いている。


いじめと自殺。学生はもちろん、世間がこんな話を放って置く筈もなく...ひっそりと、しかし確実に広まった噂話......


「...でね?あの事件、実はその〝黒名刺〟が関係してるんだって!」


そこで使われたとされる物にちなんで、この噂話は〝黒名刺〟と呼ばれる。


「えっと...確か願いを叶えてくれるんだっけ?」

「そう!しかも、誰でも貰える訳じゃないんだって。本当に必要な人のところにだけ、現れるっていうか、使えるようになる?らしいよ?」


何か悩みを抱えた人や願いのある人の元に忽然こつぜんと現れる、またはいつの間にか手に入る代物との事。

見た目は名刺サイズの真っ黒い紙。何も書かれていないけど、必要になった時に文字が浮かび上がるって内容だった。


「えっと...なんて書いてあったんだっけ??」

「もう綟華らいかってば話振っといてうろ覚えなの?」

「えへへ...ごめんごめん」

「書いてあったのはね、店に来るようにって事と、必ずその名刺を持って来る事...だった筈だよ?」


メイは成績優秀で記憶力もいい。とても頼りになる相棒兼親友だ!


「そうだった!お店の名前は確か...」

〔〈誰ソ彼喫茶たそがれきっさ〉だよ。噂好きのお二人さん〕


私達の話に入ってきたのは料理を持ってやって来た、男性店員さんだった。


「あ、ありがとうございます...」


驚きつつ料理を受け取ると、店員さんは八重歯見える口でにっこり笑い、


〔噂話はあんまりこういうところでしない方がいい。誰が聞いているか、分からないからね?〕


悪戯っぽく笑ってウインク。え、かっこいいじゃん...


「あの、どうして知ってるんですか?」

〔ん?その噂って結構ネットでも話題だからね...ほら〕


メイの問いに親切にスマホを見せてくれた店員さん。


「ほんとだ...特設サイトまであるし、私達の高校も載ってる」

「うわ〜...制服とか名前も載っちゃってるんだ...」

〔ああ、そうか...見たことある制服だと思ったら、そこの生徒さん達か!〕


店員さんは驚いたようにスマホと私達を見比べてからスマホをポケットへ。そのまま何かを取出し、私達に差出した。(店員さんのスマホケース、黒猫型で可愛いな...)


「...え!?」「これって...」


2人同時のリアクション。店員さんが出したのはなんと!噂の〝黒名刺〟だった...


「なんで、店員さんが?」

〔内緒。困り事や悩み事、願い事とかあったら、その喫茶店に行ってみるといい。きっと力になってくれるから〕


周りに聞こえぬようにヒソヒソと囁く店員さん。


今はまだ、何もないただの黒い紙。偽物の可能性も十分にある。実際、そうやって何十万とかで買っちゃった詐欺のニュースも聞いたし...

その思考を読み取ったのか、私が単純に顔に出やすかっただけなのか...店員さんは優しそうな笑みを浮かべ、


〔安心して。これ渡すだけでお金は取らないよ。必要ないなら、捨てちゃってもいいからね?〕


それじゃ。ごゆっくり...と言い残して去って行ってしまった...


「メイ。黒名刺これ、どうする?」

「ん?取り敢えず、食べちゃお?」

「あ、うん...」


メイに言われて先に料理を食す。あ、やっぱり期間限定ってだけあって美味しいな...


食べ終えてファミレスを出てから、結局持って来てしまったその黒い紙を改めて見る。

名刺サイズの真っ黒いだけの紙。透かして見ても、何も見えない。強度も名刺のそれと変わりないようだ...


「これ、本物なのかなぁ...?」

「どうなんだろうね...?文字でも浮かべば分かるんだけど...」


2人してうんうん唸っても拉致らちがあかない。こうなったら...


「メイ!学校戻ろ?」

「綟華、まさか...」

「そう!そのまさか。噂になった生徒に聞きに行こうよ!」

「で、でもテスト終わりでみんな居ないんじゃ...?」

「どうかな?居るかもしれないじゃん?1回家帰って荷物だけ置いたら行こ?」

「う、うん...分かった」


こういう時の私は自分で言うのもなんだが、決めたら即行動する猪突猛進タイプ。制止は効かない!それを分かっているメイは、渋々ついて来てくれる。止められないなら、せめて側で見守ろうという事らしい。


「じゃ、学校集合ね!」

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