第86話氷の女王と文化祭後編1
キーンコーンカーンコーン。
チャイムがなる。
周りの気温も上がっているのは、単純に今、昼過ぎだからだろうか?それとも、文化祭最終日後半の生徒たちのやる気のせいか。
そんなわけで後半戦。
黒兎たちは店番を終え、いよいよイツメンで文化祭を回る。
1日目2日目とあまりゆっくり文化祭を堪能できたと言えば嘘になるので、楽しみにしているのは間違いない。
「よしっ!まわるぞ」
「「おおー!!!」」
陽の声で約6人ほど声を上げる。
黒兎、雫、咲良、聡、優心そして露だ。
何やら、少し元気のなさげだった陽も今はいつも通りと言った感じだ。
「どこから回る?」
「おいおい、まずは飯だろ?」
陽の定番の質問に、聡が答える。
「ええぇ、じゃあ、うちのクラスでご飯食べる?」
「それは面白くないぞ」
良かれと思って言った黒兎の回答になんだか面白くなさそうな顔をして聡が返してきた。
「まあ、ずっと自分たちのクラスより、他のところも回りたいよね。ほら、敵情視察てきな?」
咲良の提案にみんなうんうんと、頷く。
今は一応、他クラスと売上勝負をしているので、咲良の提案は理にかなっていた。
「そんじゃ決まりだな」
陽は1組、4組のどちらかに店を絞る。
どちらも喫茶店であり、ライバル点でもある。
1組は王道メイド喫茶、4組は純粋に喫茶店。
どちらもシンプルだが、ハズレということはない。
1組はメニュー的には黒兎たちのクラスと被ることが多いが、4組は本格的な喫茶店なので、こんなことを言うなのはなんだけど、味なら4組が勝っているだろう。
「どうするのかしら?」
雫が少し困ったようにみんなの顔を見つめる。
「確かに……これ、迷うね」
優心もうーんと言いたげな表情で答えを出せずにいる。
「なら、二手に別れたら?」
露の当たり前じゃない?と言いたげな表情で早速、グループ解散を提案する。
「え?それじゃグループ解散にならない?せっかく、みんなでいるのに」
咲良がみんなの気持ちを代弁するように言う。
「ま、それもそうだけど、敵情視察って言うんなら、2つ行けば良くない?それに、このグループの中でもきっといつも一緒にいる人なんて限られてない?」
どういうことだ?と言いたげに全員首を傾げる。
「簡単に言うとさ、例えば黒兎と雫は一緒にいるけど……」
言われて黒兎と雫は互いに目を合わせる。
少し照れ臭くってすぐに逸らした。
「黒兎と優心が一緒にいることは少ないでしょ?聡と私とか、咲良と優心と雫とか。こんな風にきっと遊んだことの無い組み合わせもあるんじゃない?ってこと」
「なるほどな、それは面白そうだな」
黒兎に賛同するようにみんな頷く。
「おっけ、そんじゃ決まりだな」
「だけどよ、メンバーどうやって決めるんだ?3人4人のグループに別れるんだろ?」
そんな聡の質問に優心が『聡と咲良、陽と私、雫と露と黒兎でグーとパーで良くない?そしたらいつも一緒にいる人とは別れるよね?』と言った。
「それもそうだな。よしっ!やるか」
結果。
1組に行くメンバー
聡
優心
黒兎
露
4組に行くメンバー
陽
咲良
雫
という面白い組み合わせになった。
「それじゃ先いくわ」
陽のチームは4組へ向かう。
その時、
『雫、あんまりモタモタしてると、黒兎貰っちゃうよ?』
露が何やら雫に耳打ちをする。
すると雫は拗ねたように、ふんっ、というかのようにスタスタと歩いていってしまった。
「露、なんかまた雫余計なことを言っただろう?」
「えへへ。愛情の裏返しだよー」
「たく、雫と露は仲が悪いのか良いのか……」
優心がため息を着くように言う。
「ほんと、不思議だよな。そう思うだろ?黒っち」
「ほんとだよ」
ほんと、仲が良いのか悪いのか。
そんなこんなで1組に着いた。
中は賑わっているようだ。
黒兎たちのクラスとは違い、純粋に男は執事服、女はメイド服と、シンプル故に、求めているものがしっかりと当てはまる。
「結構人いるなぁ。うちのクラスもまあまあだったけどここも多いね」
優心がつぶやくように話す。
「だねー、メイドさんは可愛いし、男の子はかっこいいし、どっかのクラスとは大違いだよ」
露は黒兎を見てニタニタ笑う。
「カッコ悪くて悪かったな」
「いやー、黒兎はかっ、かっこ、ふは、かっこいいよ」
「いや、笑ってんじゃん。失礼極まりないなお前」
なんで、俺まで馬鹿にされなきゃいけないのか。
そんなことを思いながら露を睨み返す。
「愛情の裏返しだよ?」
白々しく露は言ってくるので、『それはどうも』と受け取っておく。
「案内致します。ご主人様」
接客の生徒が来てくれた。
「よっしゃ、敵情視察といきますか」
「ちょちょ、それ言っちゃいけないし!」
聡の声に慌てて優心が止めに入る。
「ま、いいんじゃない?それに敵情視察と言いつつも、普通にお腹すいてるだけだし」
露の楽観的さというか、ほんとこのグループで大丈夫か?
4組メンバーは黒兎たちより早く席に着いていた。
「お待たせしました。こちらアイスコーヒーとカフェオレ2つでございます」
店員の生徒が持ってきたドリンクは、なかなかに本格的で、店内もコーヒーの、匂いでいかにも大人って感じの雰囲気だった。
人の量も少なくなく、上級生の女子生徒や、カップルなんが、複数組みえる。
メイド喫茶とは違って、男子比はあまり多くない。女子たちの憩いの場的な感じだ。
そんな、若干男子アウェイの空間に、美女2りを連れている陽と言えば……
「そういえば、雫はアイスコーヒーにしたんだ。大人っぽいね」
「ええ、まあ、そう言って貰えると嬉しいわ」
「咲良は俺と同じにしたんだ」
「うん、まあ、特に何でも良かったしね」
……気まずい。
会話は続かないし、普段一緒にいることの無い集まりだと、あまり話すことも無い。
危うく、『今日いい天気ですね』なんて、廊下側の窓のない席で言いそうになるくらいだった。
「陽……?」
咲良がこの、なんとも言えない空気の中、陽に話しかける。
「ん?なんだ?」
「思ったんだけど……別に無理して会話しないで良くない?これがこのグループの雰囲気だし、それにたまにはゆっくり、心を落ち着かせることも大事だよ?」
そんな気の利いた咲良の提案に陽は安堵する。
「それもそうだな。それでいいよな?雫も」
「すいません。パンケーキと、いちごのショートケーキ1つ。それとあと、ホットたまごサンドも。陽と咲良は何にするの?」
「……」
「…………」
「え?どうして黙っているのかしら?それじゃあ、ミックスサンドを追加で」
空気の読める咲良と、気を使う陽、食べることに夢中の雫。
ほんと、このグループ大丈夫か?
そして、この時ばかりは、雫に対して殺意の沸いた陽と咲良であった。
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