第69話氷の女王と文化祭準備
約1週間前。
「はーい、それじゃ今から文化祭の出店を何にするか決めていきまーす」
陽の声でクラスがいっせいに考え始める。
そう、今日から文化祭期間。
約3週間後に行われる文化祭の準備期間である。
クラスの出店、部活や、生徒会の出店もあったり、地域の人の劇があったりと色々大がかりな文化祭のための準備期間だ。
そして今日はそのクラスで何をするかというのを決めることになっている。
そんなクラスを取りまとめるのはもちろん陽だ。
「はい!やっぱりメイド喫茶がいいと思います!」
クラスの活発球児、武田が真っ先に案を出す。
「メイド喫茶ね……いいと思うけど、たぶんほかのクラスとか、ほかの学年とかから被る可能性は高いと思う」
そんな提案に少し考えながら陽は答える。
確かにメイド喫茶は文化祭の定番ではあるし、ほかのクラスや学年から被る可能性は否定できない。
「そうか……でも、せっかくなら喫茶店とか、屋台とか食べ物系やりたいよなー」
武田言う。
クラスの皆もそれに賛成なのか、『せっかくならなー』や『私も食べ物系やりたいな』などといった声が聞こえてくる。
「それなら、食べ物系ってことで絞って考えよう。それに喫茶店って言ってもメイド喫茶が全てじゃないだろ?」
そんな陽の提案に皆が頷く。
やっぱりあいつはみんなをまとめるのが上手い。さすが陽と言うところか。
そして30分ほど話し合いが行われたあと……
「男女逆転メイド喫茶ってもうあるの?」
1人の女子生徒が言う。
霞田露だ。
「男女逆転は今のところないな。早めに決めておけば他クラスにはないものになるかもしれない」
陽と露の受け答えを聞いてみんながいっせいに『それでいこうよ』や『面白そう』などといった賛成の声が聞こえてくる。
黒兎もこれには文句無く、頷くだけだ。
聡と咲良も頷いている。
「よしっ!それじゃ俺たちのクラスは男女逆転メイド喫茶に決定だ。そんため、男子にはメイド服を、女子には執事服を来てもらうぞー」
そして今。
これからは衣装の制作や、借りれるところは借りたり、採寸などが待っている。
「月影くんの女装は素直に楽しみね」
雫が声をかけてくる。
「うるさいわ。それに冬矢も執事服だろ?……想像したけどなんか似合わなそう」
「失礼ね。私の執事服なんて……想像できないわね。月影くんのメイド服は容易に想像できけどね」
雫がクスッと笑う。
「おい!今何想像した?」
「いえ、何も……。ふふっ、あまりに滑稽すぎて……」
「こいつ……。にしても酷いこと言いやがるな」
雫はクスクスと笑ったまま、採寸に行ってしまった。
『あれ?冬矢さん笑ってる?』
『何かしら?私だって人間よ?笑うことくらいあるわ』
『そうだよね……。なんか今の冬矢さん、すっごく可愛いよ。普段あんまり笑うほうじゃなかったからびっくりしちゃった』
『そうね。笑う方ではないけれど、可愛いと言われるのは悪くないわね』
『うん。今の冬矢さんすごくいいよ。最近何かあった?』
『いえ、まあ、そんなところよ』
雫が黒兎の知らないところで成長して言っているのはまた別の話。
そしてそんな中……。
「おいおい、誰得だよ」
「いや、まじで」
「暑苦しいぞ」
ここは男子の更衣室。
採寸や、メイド服を実際着てみたりしているところだが……。
まあ、いかんせん需要がない。
暑苦しいし、どこ見てもメイド服の男子がいる。
「おいおい、我慢しろよ」
そんな中メイド服を着た陽が言う。
「おいおい、天使かよ」
「嘘だろ……。可愛いだと……!?」
「違和感が仕事してないんだが」
そう、陽はとてつもなく似合っていた。
「やめろ。お前たちに好かれても俺は嬉しくないぞ」
陽も腰に手を当てて言い返す。
だが、その仕草が可愛い。
「陽可愛いなぁ、おい」
聡が陽の肩を組んで言う。
そんな聡は……
「似合ってない……」
元々スポーツ系の聡がメイド服を着ると肩とかパツパツでなんかキモイ。
「黒っちもおいでよ」
「やめ、痛いから」
強引に引っ張られて聡の元に行く。
そして、黒兎のメイド服に対する皆の反応は……
「うん。なんともいえん」
「普通だな」
「キモくもないし、似合ってもない」
なんとも普通すぎる結果になってしまった。
「別に、似合ってなくていいし」
「なんだ?すねてんの?」
「うるさい!」
ちょっと不貞腐れる黒兎はメイド服で廊下に出る。
そして……。
「あら、滑稽というより、言うことのない一番面白くないやつね」
執事服の雫が立っていた。
「冬、冬矢?」
「今は2人よ。雫と呼んで」
「は?2人って教室には……」
そこまで言って声が遮られる。
「……呼んで」
そんなことを言われれば呼ぶしかないじゃないか。
「雫」
「ええ。私、似合っているかしら?」
「似合ってるって……」
それはもう、似合っていた。
いつもの雰囲気から執事服になることで、クールさを残しつつ、かっこよさがプラスされてそれはもう、抱かれてもいいと思えるほどだった。
「似合ってるかしら?」
「……似合ってるよ」
「そう。ふふっ。ありがとう。黒兎、あなたの格好も好きよ」
「なっなんだよ。そんないきなり優しくされると照れるわ」
「そう、照れてる顔も可愛いわ」
「お前なあ、からかいやがって……」
「……からかう、ね。……本心のつもりだったのだけど」
「なんだよ。ごにょごにょいいやがって」
「なんでもないわ。そろそろ戻るわね」
雫は戻って行った。
(なんだアイツ。それにしても……アイツあんなかっこかわいかったけ?)
「なーにニヤニヤしてるんですかー?」
振り返ると露が立っていた。
「つっ露、なんだよ。」
「なんにもないよ?それにしても幸せそうだなーって」
「幸せってなあ、別にそんなんじゃねぇよ」
「ほんとかなぁ?ふふっ。まあいいや。それより私似合ってる?」
「それは……」
似合ってるっていうか可愛い。
執事服を着てても隠しきれない女の可愛いさが出ている。
執事っていうか、なんというか……。
とにかく可愛いのだ。
「似合ってるっていうか、可愛いというか……」
「かっ可愛い?」
「まあ、お前は顔もいいし、スタイルもまあ、いいし」
「なによ。私一応あなたの邪魔者よ?」
「まあ、邪魔者っていうか、可愛いのは確かだし」
「そーいう事ね。理解した。そりゃあの子があんな顔してるわけだ」
「なんだ?」
「別に。まあ、黒兎もそこそこ似合ってるんじゃない?」
「お世辞でも有難く受け取っとくよ」
露は呆れた顔で教室に戻って行った。
(何がしたかったんだ?)
そんな黒兎を陽が教室に戻るよう、声をかける。
そして黒兎も教室に戻って行った。
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