第45話氷の女王と終業式
学校でも、基本無表情、無言、無感情の冬矢雫は、氷の女王なんて呼ばれている。
そんな氷の女王さんは、月影黒兎の家でひょんなことから居候をしている。
そんな2人は最近ではお互いの大切さを知ったようで、前よりも、もっと素直な自分で相手に接するようになっていた。
そのきっかけの、なんちゃって告白もどきから、2週間ほどたった頃、今日は1学期の終業式だ。
「冬矢ー起きろー」
「起きてるわよ」
「冬矢が早起きなんて珍しい」
珍しいことに雫は黒兎が起こすよりも早くに起きていた。
「私をなんだと思っているの?」
「ご飯とお金には素直な、怠惰の権化?」
「まあ、間違ってはないわね」
「なに?最近、開き直るのがマイブームなの?」
「多分そうね」
「なんと潔のいい開き直り、そこまでいくと気持ちいいわ!」
「そこまでイクとキモチいい?」
「表現の仕方!ほら、なんかイヤらしくなってるよ!」
という事で朝の会話を見てもらえれば分かる通り、学校では女王をしている雫さんも、黒兎の家ではこの通り。
自由奔放、ボケ担当のドライな野郎に早変わり。
そんな雫に振り回されつつも今日も今日とて、楽しく (たぶん)、共同生活を送っているのはクラスでは空気、友達はイケメンお坊ちゃんと、イケメンチャラ男、明らかに場違いな3人組のツッコミ役、月影黒兎だ。
「月影くん、私たち2人の紹介しているところで悪いのだけど、ご飯まだかしら?」
「おい!そういうこと言うなよ。雰囲気が台無しだよ!それに、悪いと思ってんなら声掛けてこないで!」
「反省はしている。が……」
次にくる言葉はだいたい分かる。一緒にもう2ヵ月ほど過ごしているのだ。
ていうか『反省はしている。が』に続くのあれしかない。
「後悔はしてないんでしょ。分かるから!あと反省も後悔もしろ!」
「よくわかっているわね。さすが私の大切な人 (仮) だものね」
今日は何時にまして朝の会話が多い。これもきっと……
「おいそこ! (仮) 要らないだろ!」
「いるか要らないかは個人の自由だと思うのだけど」
「そんな自由、知らない」
「よかったわね、知れて。またひとつ賢くなったわね」
「そんなこと知って賢くなりたくない!」
そうこれもきっと……明日から夏休み!効果である。テンションが2人共、いつにまして高い。
朝ごはんを用意した黒兎は、ササッと制服に着替え、リビングに降りてくる。
リビングでは雫はご飯を食べ始めている。
この2人の関係は基本学校のみんなには内緒なので、同居している事がバレないように、2人は学校の登校時間をずらしている。
「それじゃ先に行くわね」
「いってら。学校でな」
いつもの様に先に雫が家を出る。その後、戸締りをして、10分後くらいに黒兎も家を出る。
学校の正門前。
「よっ!黒っち。おはよー!」
「黒兎、おはよ」
今は死語なんじゃねぇかと思う、黒兎の事だけを、『っち』っと呼んでくるのはイケメンチャラ男の坂口聡だ。
そしてもう1人、お坊ちゃんらしからぬ適当な挨拶のやつが1人。イケメンお坊ちゃんの冴羽陽だ。
「おう。おはよう。明日から夏休みだな」
「黒っち。いっぱい遊ぼうな」
「程々にな」
「また黒兎の家に遊びに行くわ」
「無断で来んなよ」
「それは分からん」
「なんで分からねぇんだよ!」
そん割とイツメンな3人組。
この、明らかに場違いなクラスの空気とイケメン2人組は、最初こそ、なんであの3人なんだ?なんて言われたが、実際は同じ中学から友達で、今ではいつもの3人という認識に変わっている。
教室につくと、雫の周りに2人仲良さそうな女子がいる。
「雫、明日から夏休みだね」
「ええ。そうね」
「雫ー!いっーぱいあそぼうね」
「優心は相変わらず元気ね」
あの氷の女王の唯一 (2人だから二?) の友達である。
スポーツ少女で、美人、さっきの聡の彼女でもある山谷咲良。スポーツが得意で動くことが多いため、基本髪型はポニテだ。
その隣の明らかに元気なクラスのムードメーカー
高橋優心。身長は156cmの小さいヤツ。
しかし、運動神経よし、頭も結構いい、んでもって可愛い。いつも明るい雫の対極のような人である。
「お!咲良。今日早いのな」
「まぁね。それより明日から夏休みだよ!この6人で遊ぼうよ」
「いいな」
聡と咲良が提案してくる。
「黒っちは来るだろ?」
「なんだよ、半強制かよ。まあ、行くけど」
「陽は?」
「みんな来るんだったら行く」
「雫は?」
「咲良達がそう言うなら行くわよ」
「優心は?」
「行くー!夏は遊ぶぞー!」
みんなが賛成し聡があっという間にグループL☆NEを作る。
グループ名はイツメンになっている。
そう。この6人は明らかに色んな個性のぶつかり合いが頻繁に起きる。悪く言えば、めんどくさい、よく言えば、飽きない。そんなグループである。
先々月の林間学校で一緒に過ごしたこの6人は、いつの間にか、イツメンになるまでに仲良くなっていた。
そしてこの6人は、雫と黒兎の関係を唯一 (6人だから唯六?) 知るメンバーである。
いつしかこのグループはクラスからいつもの6人と認知されるようなれ、クラスからは、別名なんで?なんて呼ばれている。
理由は、
聡と咲良はカップルだから一緒なのは分かる。
陽の優心はどっちもクラスの中心で、誰とでも仲良くしているから分かる。
雫は明らかに人との交流を嫌っているのに、あんなに大人数のグループにいる事が分からん。
黒兎はクラスの空気が、イケメンお坊ちゃん、イケメンチャラ男、スポーツ美少女、ムードメーカーの元気っ娘、圧倒的孤高の極み、氷の女王のいるグループにいる。分からん。1番分からん。
との事だそうだ。まあ、他からどう見られようがどうでもいいので、最近はこの6人でいる事が多い。
というかほとんど。
「ほら、並べー。終業式行くぞー」
担任の声で皆が廊下に出て並んでいく。
黒兎達も外に出る。
終業式後。
ホームルームも終わり下校になる。
「それじゃ夏休み遊ぶぞー。後で決まったらLI☆Eするから」
夏休みの遊びの計画は聡と咲良のカップルがやってくれるのであとは任せて皆下校する。
「それじゃ少し先に行くわね」
「おう。俺も遅らせて行くわ」
雫が先に学校をでる。
これは下校中に一緒に帰ってるところ見られる挙句、同じ家に入るところを見られないようにするためである。
「不便だな。黒兎も」
「だよねー。黒兎もいっその事みんなにこの事言えばいいのに」
「いいよ。めんどくさいから」
「めんどくさい……ね」
「なんだよ。含みのある言い方だな」
「なんでもないよ」
「それじゃ陽、帰ろ」
「ん。わかった」
「「それじゃバイバイ」」
陽と優心は帰ってしまう。
そろそろかと黒兎も学校をでる。
最近は優心と陽は仲が良くなっているのが分かる。
見ている方は妹に付き合わされてるお兄ちゃんみたいな関係に見えなくもない。
そんなことを考えながら家に帰ると雫が掃除をしている。
「おかえりなさい。あなた」
「なんだ?夫婦漫才でもするか?」
「それいつもの事って読者は思っているわよ」
「はいはい、そうやってすーぐ意味わからんこと言い出す」
「あなたには意味は分からなくてもいいわ」
終業式だったのでお昼はまだ食べていない。
「それより月影くん。ご飯にしないかしら?」
「お前は本当に食欲に素直だな」
「やだ。素直な良い娘なんて……」
「言ってない」
「月影くん」
「なんだよ」
雫は掃除の手を止め、言ってくる。
「夏休み。楽しくなるといいわね」
最近の家での雫は氷の女王の見る影はほとんどない。
バイトなんかして、最近は知らない人の前でも愛想良く頑張っているみたいだが、きっと今の方がもっといい顔をしている。
黒兎は雫の目を見て答える。
「ああ、今年の夏は楽しくなるぞ!」
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