第5話氷の女王と1日の終わり


お風呂から上がりサッと着替えてリビングに戻ると氷の女王が座っていた。

なんか昨日からは想像できないなと自分で思いながら雫の前に座った。


時間にするともう午後11頃だ。


「冬矢、お前どこの部屋で寝る?」

「どこでも」


いつも通りの淡々と答える。


「どこでもって言ったってな、部屋があるかな」

「部屋がないならあなたの部屋で寝るわ」

「そういうの冗談でもだめですよー」

「本気よ?」

「えっ?」


本気という言葉と感情のこもってない声が今回はマッチしていて少し恥ずかしくなってしまった。


「うん。分かった。全力で違う部屋探してくるわ!」


さすがに一緒に寝るというのはマズイ。

黒兎の理性が持つかわからないし、万が一何かあったとき言い訳出来なくなる。


黒兎は全力で家の使える部屋を探した。それはもう、お風呂に入ったあとなのに汗でベトベトになるくらいに。どうにか1つ部屋を見つけたが、それは物置部屋でいまはもう使われていない。

使われていない部屋だがそのせいで、ホコリまみれでとても今から寝れるような環境じゃない。どうしようと悩んでいると雫がひょっこり顔を出した。


「月影くん。この部屋が私の部屋?」


冷たい声で聞いてくる。さすがにこの部屋は女子に対して気を使えてないと思い、ほかの部屋を探すと言おうとしたところ


「いいわ。ありがとう。この部屋使わせていただくわ」

「え?いいの?こんな部屋で」

「部屋で寝れること自体幸せだわ。少し掃除していいかしら」

「あぁ、頼むよ」


そうだったこの女王様は家出少女だったわ。

みるみるうちに雫は部屋を片付けて行く。

あっという間に部屋が綺麗になり、使っていなかったテーブルと、お客さん用の布団を敷いて今日は寝ることになった。


「助かったよ。冬矢」

「ええ。こちらこそありがとう。月影くん」

「明日どうする?」

「あぁ。明日ね。」

「朝からちょっと都会の方のショッピングモールにでも行くか」

「全て月影くんに任せるわ」

「分かった。今日はもう寝な」

「ありがとう。明日楽しみにしておくわ」


そう言って雫は少し笑った。今までほとんど感情を見せない彼女が笑ったのだ。とても綺麗で可愛い顔だった。

それを見て黒兎は少し赤くなってしまう。


「どうかしたかしら?」

「いいや、なんでもない」

「何かある顔をしているわ」

「いや、なに、やっぱ冬矢、笑った方がいいよ」

「っっ!…」


自分が少し笑っているとこに気づいた雫は、少し顔を赤らめそそくさと布団に入ってしまった。

そんな雫を見て黒兎はまた不覚にも可愛いと思ってしまった。

そして思う。やっぱりアイツは笑っている方がいいと。


汗とホコリで汚れてしまった黒兎は、もう1度お風呂に入った。

2回目の風呂のせいか、何かほかに理由があるのか1回目より早くのぼせてしまった。


風呂から上がり雫の部屋を見ると、雫は眠っていた。寝顔は可愛いらしく、普段の女王の顔はもうどこにもなかった。

黒兎は自分の部屋に戻り、今日はすぐ寝ようと思った。今日一日で変わってしまった環境に不安になりつつも、どこかワクワクしている自分に少し驚く。

時間はもう午後0時

黒兎は明日をほんの少しだけ楽しみにしつつ眠りについた。

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