第2章 盲目の猫獣人 編

第73話 その情景を頼りに

 ──私の"特別な眼"は、これまでに様々な情景を映した。


 例えば、母親に殺されそうになり、村から必死に逃げる情景。


 例えば、腕に奴隷紋が描かれ、これから奴隷という立場で売られるという事がわかり、不安から表情を落とす私がいる情景。


 例えば、小さな檻の中に閉じ込められ、小太りの貴族から、嫌な視線を向けられる情景。


 ──と、これら全ては、現在の私にとって、これから起こる可能性のある未来や、実際に起こった過去を俯瞰して視た情景であり、その大半は決して喜ばしいとは言えないものである。


 だから私は、それらを目にし、幾度となく絶望した。


 ──あぁ、私はこの世に産まれた瞬間から、一生苦しみ、そして死んでいくんだな……と。


 そんな、普通の人間ならば自ら死を決断してもおかしくない数々の中、しかし私は生を諦めることは無かった。


 ……何故ならば、私は視たのである。


 穏やかな草原の下で、柔和な笑顔を浮かべる美しい金髪の少年と、白銀色の尻尾を楽しげにゆらゆらと揺らす私、そして私の視点からは障害物ではっきりとは見えないが、そこに存在する4人の男女。

 その6人で楽しげに過ごす未来を。


 勿論これは、実際に起こる訳では無く、起こる可能性のある未来である。


 しかし、それでも私は、その未来を憧憬した。


 ──だから私は今日も生きる。


 これからどんなに辛い事が起ころうとも、というハンデを背負いながらも、いつかその望む未来が訪れる事を心から祈りながら。




 第2章 盲目の猫獣人 編


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