第72話 希望と共に(1章完)

 それから月日が経ち、およそ2週間後。


 僕の姿はというと、アルストリア家の自室にあった。


 だだっ広い部屋、その一角にある大きなベッドに腰掛け、ぼうっとしながら、ライムと戯れている。


 ぷにぷにと絶妙な触り心地のライムを抱え、優しくその形を変形させる。

 その度にライムが楽しげな感覚を伝えてくる。


 僕はその様を微笑ましく思いつつ、しかしその思考の大部分は、先日リリィと名乗る魔族と接触したその後の事へと向く。


 あの後、リリィの拘束から解かれた皆さんは、すぐ様魔族の脅威をギルドに報告した。その情報をギルドは重く受け止めたようで、今後主要な冒険者や騎士団員に共有されるという。


 同時に、ギルドでも対策を考えるように言っていた様だが、果たしてあれ程の脅威に対抗できる手段があるのか。

 その辺りはわからないが、何にせよ対抗手段が多いに越した事は無いので、期待をしたい所である。


 また、スタンピードの功績を受けてか、ヘリオさんの個人ランクが遂にAになった。

 残念ながら史上最年少Aランクとはならなかったが、それでも歴史上2番目の早さの様で、その辺りは流石ヘリオさんである。

 ちなみに最年少Aランクは、ウィルさんの所属する夜凪ノ白刃のリーダーである公国の勇者によるものとの事。

 その話を受け、僕はますます興味を抱いた。


 同時に火竜の一撃の皆さんを含め、特に功績の多かった冒険者は国から褒賞が与えられるということで、皆王都へと向かった。


 その際、リアトリスさんはいつも通り僕と離れたく無いとごねたりもしたが、どうも国王から直接という事で断れなかったようで、引きずられるように連れて行かれた。


 ちなみに国への報告の際、僕の存在は無かった事にしてもらっている。

 ヘリオさんの話では、僕にも褒賞を貰えるだけの功績があるようだ。

 しかし、やはり以前も言及したように、植物図鑑の有用性に関してはなるべく広まらないようにしたい為、今回は致し方無しである。


 ──しかし今の状況を考えれば、その行動もあまり意味がなかった様だが。


「……はぁ」


 皆さんが王都を離れてから2週間。実はこれまで、僕は一歩も屋敷の外に出ていない。……いや、出られていないというのが正しいか。


 というのも、実は僕のギフトの事が、一部良い噂の聞かない貴族にバレてしまったのである。


 貴族の中には、殺人や誘拐をしながらもそれを隠し通している者も居る。故に、こうなってしまうと、誘拐等を恐れ、迂闊に外には出せないというのが両親の意見だ。


 申し訳無さそうにそう告げた両親だが、流石にこうも狙われている状況では、僕も外に出るのは気が引ける。


 それに元を辿れば、街を救う為とは言え、僕が自身のギフトの能力を衆目に晒したのが原因である。

 まさかここまでとは思わなかったが、狙われるのはある程度わかっていた事ではあるし、自身のまいた種でこうなった以上、自業自得ともいえる。

 ……いや、能力を開示しただけで自業自得というのもおかしな話ではあるが。


 とは言え、家を出れない日々が続くのは、精神衛生上あまり良くはないし、そもそもこのまま一生家の中という訳にはいかないので、早い事どうにかしなければならない。


 しかしその方法がさっぱり浮かばないのが現状である。


「ライム。僕はこれからどうなるんだろうね」


 目前のライムに話しかける。


 スタンピード前後は中々外に出してやれなかったが、家に帰ってきてからは基本的にずっと実体化状態でいる。

 魔物の実体化に制限があるのかという検証も兼ねてだが、今のところ問題は無さそうである。


 ちなみに、ずっと出し続け、コミュニケーションをとっていたからか、何となく感情が豊かになったような気がする。


 とは言え、勿論喋れはせず、ライムの身体から伸ばした触手によるジェスチャーから感情を読みとっているに過ぎ無いが。


 ライムはうにうにと触手を伸ばし、丸を作る。まるで「なんとかなるよー!」とでも言いたげ。

 そのふんわりした雰囲気と楽観的な感情に、


「……勝手だなぁ」


 と言いながら僕は微笑む。


 ……うん、ライムのおかげで、だいぶ心が軽くなった。


 とりあえずお礼とばかりに下級薬草を実体化し、ライムに与える。

 火竜の一撃の皆さんと野宿をした際に初めて与えたのだが、どうやらかなり気に入ったらしく、あれ以降、ライムは事あるごとに下級薬草をねだるようになった。


 今も下級薬草を見せた瞬間、シュバッと触手で絡みとり、嬉しそうに体内へと吸収している。


 その様子を微笑ましく眺めつつ、ふと思う。


 ……せめて皆さんが居ればな。


 ──と。ここで。突然、窓からノックのような音が聞こえてくる。


「……っ!」


 ピクリとし、そちらへと瞬時に視線を向ける。現在、厚手のレースカーテンが掛かっている事から、外の様子をはっきりとは窺えない。しかし、何やら薄らと人影の様なものが目に映り──


 ……いや、ここ2階だよ!?


 2階の窓から響くノック音と、人影。

 普通ではあり得ない出来事であったからか、僕はかなり動揺する。


 ……まさか人攫い!?


 そして、そう疑心暗鬼になった心のままに、部屋を出て両親の元に向かおうとした所で、


「レフちゃんレフちゃん」


 と、僕の名を呼ぶ可憐な声が聞こえてくる。

 その独特のあだ名で僕の名を呼ぶ存在を、僕は1人しか知らない。


 ……リアトリスさん!?


 知り合いの可能性が高まった事で多少動揺が収まる。しかし、それでも完全に警戒が取れる事は無く、僕は恐る恐るといった様子で窓に近づく。

 そしてゆっくりとカーテンを開ければ、そこにはニコリと微笑み、小さく手を振るリアトリスさんの姿があった。


 久しぶ……いや、だからここ二階だよ!?


 かなりの高さの筈だが、一体どうやって……いや、それよりもとりあえず窓を開けて──


 と考え、僕はハッとし、すぐ様伸ばした腕を引っ込める。


 ……まてよ、目の前のリアトリスさんが本物だと何故断定できる? もしかしたら姿声そっくりに擬態できるギフトがあるかもしれないじゃないか。


 思い、僅かな躊躇いを見せる僕に、目前のリアトリスさんと思わしき人は困惑した様子を見せる。しかしすぐ様ハッとすると、


「あー確かに、この状況じゃ疑心暗鬼にもなっちゃうか。……なら、これでどう?」


 言って何やら紙を取り出しこちらへと見せてくる。……それは、精巧に描かれた僕とリアトリスさんの絵で──


 ……あっ、一緒に出かけた時の。


 以前2人で出かけた際に店で描いて貰い、リアトリスさんにプレゼントした似顔絵である。


 ……うん、流石にここまで擬態はできないよね。


 仮に姿形、果てはギフトを真似る能力があったとしても、その人の持ち物まで擬態するのは不可能であろう。


 僕は目の前のリアトリスさんが本人だと確信をすると、窓を開け、彼女を自室へと入れた。


「ごめんね、こんなところから。お邪魔します」


 中へと入るリアトリスさん。リアトリスさんは部屋を見回し、


「へーここがレフちゃんのお部屋かぁ」


 と、ニマニマと表情を緩める。


 ……久しぶりに会っても、リアトリスさんは相変わらずリアトリスさんだね。


 いつもと変わらないその姿に、僕は安心感を覚えながらも、小さく苦笑をした。


 ◇


 何故窓から来たのかを尋ねた所、「みんながまだ王都にいるから」という返答を得た。


 何でも向こうで指名依頼が来たらしく、今まさにそれをこなしている最中だという。

 それなのにリアトリスさんだけがここにいたらおかしいから、バレないようにという事らしい。


「……ところで、今日はどんな用で?」


 窓から来た理由はわかった。しかし何故態々ここに来たのか、その説明にはなっていない。

 そんな僕の問いに、リアトリスさんは何とも言えない微笑みを浮かべると、


「1つは報告。もう1つはレフちゃんの様子見かな」


「報告……ですか」


「うん」


 頷き、少し悲しげな表情を浮かべる。


「それも含めて、レフちゃんのご両親にも伝えたいの。急で申し訳ないけど、今から大丈夫かな?」


「確認してみますね」


 2人に聞くとあっさりOKが出た。

 丁度昼時だったからか、昼食を取りながら話を聞こうと言う事になり、僕はリアトリスさんを連れてダイニングルームへと向かう。

 そこで久しぶりの挨拶をするリアトリスさんと両親。それが終わると、僕とリアトリスさんが隣り合い、両親が向かいになるよう席に着く。


「それで、リアトリスさん。報告というのは……」


「──実は、王都の依頼が終わった後、急用でランターナ公国に行く事になりました」


「……え」


 僕は思わず声を漏らす。


 ランターナ公国はここ、ネモフィエラ王国の属国にあたる国である。隣国であり、国境付近にこの街がある事を考えれば、そう遠く無い距離ではあるが、それでも馬車で2週間程かかる為、簡単には会えない距離と言える。


 ……以前、ウィルさんが伝言があるといっていたけど、そうかあれが──


「そうですか……」


 火竜の一撃程の冒険者となれば、定住する事は珍しい。

 だからいつかは訪れると思っていたが、まさかこうも早いとは。


「出発はいつ頃に?」


「3日後に王都を出発して、直接公国へ向かう予定です」


 ……そんな早くに。しかも直接って事は挨拶すらできない?


「突然で申し訳ないです。けど、なるべく早く向かう必要がありまして……」


 一拍空け、


「とは言え、それまで多少の猶予があります」


 王都までは馬車で数日かかる。

 しかし、リアトリスさんは転移を使い、ここまで数時間で来たという。

 リアトリスさん達の出発は3日後。つまり、彼女の話の通りならば、2日近く時間の余裕がある事になる。


 リアトリスさんは真剣な表情のまま、


「レフちゃんの事、人づてに聞きました。私達の留守中に、かなり大変な状況にあったと」


 一拍空け、


「……どうしても時間は限られてしまいますが、何か私に手伝える事はありませんか?」


「貴方……」


「あぁ……」


 お父様とお母様がそう言い頷き合う。

 そして、あらかじめ考えていたのか、真剣な表情を浮かべると、


「リアトリスさん」


「はい」


「不躾なお願いになってしまいますが──もしも可能ならば、レフトを隣国の旅に同行させていただけませんか」


「……えっ!?」


 思わず声を上げる僕。流石にこれはリアトリスさんも予想外だったのか、小さく目を見開いている。


 お母様の言葉に、お父様が続く。


「ご存知の様に、現在レフトは一部貴族に狙われている。何とか屋敷に匿う事で事なきを得ているが、今後もこれが安全とは限らない。それに、例え匿うにしても、いつまでもこのままと言う訳にはいかない」


 一拍空け、


「……何よりも、レフトは魔族にも興味を持たれている。魔族相手では、屋敷に匿う事すら無意味。かと言って、魔族レベルに対抗する術を私達は持ち合わせていない」


 お父様の言葉に続き、お母様が口を開く。


「……それだけではないわ。レフトは貴女達と出会ってから、日々大きな成長を見せたわ。だからこそ、皆さんと共に行動できれば、レフトの夢の実現に大きく近づくとそう思いましたの」


「本当は隣国に行くという話の前に、皆さんに相談をする予定だった。レフトを連れて、別の街に行ってくれないかと」


「それが隣国となれば、尚更レフトの能力は知られていないわ。それに近くに皆さんのような強者が居れば、親としても安心ができる……」


 一拍空け、


「あまりにも難儀なお願いだと思う。しかし、魔族の存在もとなると、私達にはこれしか思いつかなかった。どうかよろしくお願いします」


 言って、お父様とお母様は頭を下げる。


 その姿を目にし、リアトリスさんは真剣な表情のまま、ポツリと言葉を漏らす様に、


「……私個人としては大歓迎です。ただ、流石にこればかりは私だけで決める事はできません。なので、皆に相談をして、また明日、答えを持ってこちらに伺おうと思います」


「わかりました。よろしくお願いします」


 その後、昼食をとりつつ少しの会話をした後、リアトリスさんはヘリオさん達の元へと帰っていった。

 その姿を見送った後、僕は両親の方へと視線を向ける。


「お父様……お母様……いったい」


「このままという訳にはいかなかった。しかし、私達では現状を早々に改善する術を持たない。その上で魔族の脅威もあるとなれば、もはや火竜の一撃の皆さんのような強者に頼る他なかったんだ」


「お父様とお母様はどうするのですか?」


 僕が離れた所で、貴族連中が何をするかわからない。


「その点は問題ない。既にイハナに話を通してある」


「イハナ兄様に!」


 イハナ兄様は、僕の兄弟で、アルストリア家の次男である。

 とても優秀な魔術師であり、現在王城で宮廷魔術師として働いている。


 記憶を辿ると、1年前、つまり前世の記憶を思い出す前に一度帰郷した兄様と顔を合わせたのが最後である。

 かなり内気で頼りない見た目と性格をしているのだが、ひとたび仕事となると、人が変わったかのように優秀になる面白い人なのだ。


 ……なるほど、イハナ兄様が関わってくれれば、大抵の脅威を退けることができるか。


 僕がそう思うだけの強さを、イハナ兄様は有している。


「私達の心配はいらない。……その上で、レフトはどうしたい」


「僕は……やっぱり冒険者になりたいです。お父様やお母様の誇りになれるような、困っている人々のヒーローになれるような、そんな凄い冒険者に!」


 一拍空け、


「……そういう意味では、火竜の一撃の皆さんはまさに理想です。もし皆さんと共に行動できれば、間違い無く夢にグンと近づくと思います」


「ならば、私達と意見は同じという事だ。……あとはリアトリスさんの言葉を待とう」


「はい」


 この日の話はこれで終わった。

 そして翌日、リアトリスさんがやってきて、皆歓迎していたと伝えてくれた事で、お父様達のお願いの通り、僕は皆さんと共に隣国へと向かう事が決定した。


 この時、リアトリスさんは僕の両親を心配していたが、イハナ兄さんの事を話すと、大層安心した様子であった。


 ちなみに、どうやら王都の方で知り合いにお願いをしたとかで、近々2組のBランクパーティーが、この街にやってくるらしい。


 両パーティー共かなりの実力者との事で、これで火竜の一撃が離れても、街の安全をある程度確保できる様になった。


 と。こうしてトントン拍子で話が進んでいき、遂に出発の日がやってきた。


「お父様、お母様」


 僕は向かい合う2人の名を呼ぶ。

 今回は別れも屋敷の中で済ませる事となった為、現在両親の後方にはずらりと並ぶ使用人の姿がある。

 と、ここでお父様が口を開く。


「レフト。あまり皆さんに迷惑をかけない様にな。それと、もし何かあったらシャクナを頼りなさい。必ず力になってくれる筈だ」


「シャクナ兄様……はい!」


 シャクナ兄様はアルストリア家の長男である。現在は公国騎士団の1番隊隊長という立場で、公都に居る。

 国の中枢を担う存在であり、何かあった際には間違いなく頼りになるであろう。


 と、ここでお母様が、僕の横に並び立つリアトリスさんへと視線を向けると、


「リアトリスさん。レフトの事、よろしくお願いします」


「はい。お任せ下さい」


「……お父様、お母様。そして使用人のみんな。それでは、行ってきます」


「あぁ、気をつけてな」


「頑張りなさいね」


「はい!」


 僕はリアトリスさんへと視線を向ける。


「……リアトリスさんお願いします」


「うん。じゃあ、行こっか」


 言葉の後リアトリスさんと手を繋ぐ。

 瞬間、僕の身体を浮遊感が襲い──こうして僕は、両親や使用人に見守られる中、10年過ごした屋敷を離れた。


 ◇


 休憩を挟みつつ何度か転移をする。


 その間、やはり両親の元を離れるというのは寂しいものがあり、僕の瞳には涙が滲んでいた。

 前世は大人だが、どちらかというと今の身体に精神年齢が引っ張られているからか、どうしても涙が抑えられないのである。


 そんな僕を、リアトリスさんは時折無言でギュッと抱きしめてくれた。


 と、そんなこんなで数度の転移を繰り返した所で、遂に馬車付近に到着した。


 とは言え、周辺に馬車は見えない。

 どうやらここからは少し歩いて向かう様だ。

 リアトリスさんの指示に従い、彼女と手を繋ぎながら歩いていると、およそ10分ほどで、前方に簡素な、しかししっかりとした馬車と、3人の人の姿が見えてくる。


 火竜の一撃の皆さんである。


 ちなみにウィルさんは別件があるとかで、先に公国へ帰ったようである。

 とは言え、ウィルさんの所属パーティーは公都が拠点というし、向こうに着けば恐らくすぐに会える。


 ……リーダーの勇者も、他のメンバーも気になる。会える日を楽しみにしていよう。


 思いながら、僕は皆さんの元へと急ぐ。


「お久しぶりです!」


「おう!」


「久しぶりだな! レフト!」


「久しぶり」


 久しぶりに会えたのが嬉しくてニコニコと微笑む僕。

 そんな僕を、ヘリオさんは何やら優しげな瞳で見つめてくる。


 思わず僕は首を傾げる。


「挨拶は済ませてきたか?」


「はい」


「そうか」


 言葉の後、ヘリオさんは僕へと近づくと、無言で僕の頭を荒っぽく撫でる。


 ……もしかして、目元赤くなってたかな?


 きっと突然親元を離れる事になった僕を、心配してくれているのだろう。


「レフト」


 続いてマユウさんが側にやってくる。


「……何かあったらすぐに言って。お姉ちゃんが何でもしてあげる」


 言葉の後、僕をぎゅっとし、


「もちろん、ハグも可」


「マユウさん……!?」


「……ちょ、マユウ! むー……レフちゃん! マユウみたいな包容力の無いペッタンコより、私の方が良いわよ!」


 マユウさんは僕から離れると、リアトリスさんの方へとジト目を向け、


「リア、流石にそれは聞き捨てならない。私はリアの様な駄肉がついていないだけ。断じてペッタンコなんかではない」


「だ、にゃ……!? ……ふふーん、そんな事言って、本当はコレが羨ましいんでしょー?」


「…………そんな事ない」


「あ……! 今、間があった! ほら、やっぱり羨ましいんだ!」


「違う」


「羨ましいんでしょ〜」


「ない」


 何やら突然2人のじゃれあいが始まる。

 その姿を苦笑いを浮かべながら眺めていると、


「レフト!」


「グラジオラスさ……わわっ!」


 突然グラジオラスさんに抱えられ、その大きな肩に乗せられる。


「ガハハ! レフトは軽いな!」


 グラジオラスさんは僕を肩に乗せてもびくともしない。そのがっちりした身体はとても安心感があり、何やら心が落ち着いてくる。


 ……昔お父様や兄さんに抱えられたのを思い出すな。


 思いながら、僕はグラジオラスさんの肩の上で微笑む。


「……ちょ! レフちゃん!?」


「……もしかしてレフトはお兄ちゃん派?」


 そんな僕の姿にリアトリスさん達が声を上げ、いよいよカオスな雰囲気になってくる。

 しかし、この空気感こそが火竜の一撃であり、僕にとっては凄く心地良かった。


 と、そんな僕達様子を静観していたヘリオさんが、ここで苦笑の後、


「ほれ、そろそろ行くぞ」


 と声を上げる。その言葉に、


「ん」

「そうね」

「おう!」

「……はい!」


 と声を上げ、頷いた後、僕達は馬車に乗り込む。そしてすぐ様、


「おいで、ライム」


 と言いつつ、ライムを実体化し、抱える。


 折角の門出だ。どうせなら一緒に迎えたいとそう思ったのである。


 客車に座る僕の視線の先には、御者台に座るヘリオさんとグラジオラスさんの頼もしい背中が見える。


 そしてその先には、長々と続く人工の石道が目に映る。

 それは地平線まで伸びており、一切終わりが見えない。


 それがまるで、これからの冒険を表している様に思えて、次第に僕の心をワクワクが支配し始める。

 と、そんな僕の心情を察したのか、リアトリスさんが満面の笑みを浮かべる。


「ワクワクだね、レフちゃん」


「はい!」


 ……一体、これからどんな冒険が待っているんだろう。どんな植物と出会えるんだろう。


 思い、沢山の期待を胸に抱きながら、僕は憧れの皆さんと共に新たな一歩を踏み出した。


================================


これにて1章終了です。


ここまで随分と時間がかかりましたが、それでも変わらず応援してくださる皆様には、感謝しかございません。


いつもありがとうございます。

そして今後もよろしくお願いいたします。


さて、この植物使いという物語は、1章がいわば物語のプロローグにあたります。

つまり、ここからが本番です。

どうか楽しみにお待ちいただければと思います。

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