大きな成長
「よし、今日は目隠しアリで山頂までな……もちろん肉体強化や移動魔法は禁止。目標タイムは5分以内」
「何だ、今日はやけに簡単だね?」
シンの言ったトレーニングの内容に驚きつつも、僕は手作り目隠しを装備する。
「トラップも仕掛けてるからな。まぁ今さら忠告する必要もねぇだろうがな」
「んー了解。準備おっけーだよ」
「じゃあいくぞ。用意…………スタート!」
僕はシンの合図と共に特殊スキル【心眼】を発動し、辺りの木々の位置を確認する。
「……」
場所が分かったら大木に向かって駆け出して行き、手の感触で枝を確かめつつ、跳躍して枝に乗る。
そして木と木をジャンプして乗り継いでいき、大胆なショートカットを決めていく。
更に頂上付近に仕掛けてあったトラップを……
「……ほっ!」
華麗な背面跳びで飛び越えた。そして最後の急な坂道を駆け上がって……ゴールの印である旗を取り上げた。
「ふぅ……これでゴール。シン、記録は」
聞きつつ僕は目隠しを外す。
するとシンは若干嬉しそうなトーンの声を出しつつも、僕に悟られないようにいつもの口調でこう言った。
「3分と38秒……あー。もしかして記録更新か?」
「へへっ、やりぃ!」
────
そしてシンは高速で縄跳びをしている僕に向かって、こう話しかけてくる。
「いつもならそれ終わった後は、片手腕立てを30回10セットだが……今日は違う事をしようと思う」
「え? 何するのさ」
「そろそろ俺を人間に戻してもらおうと思ってな」
それを聞いて……僕は思わず縄跳びの手を止めてしまうのだった。
「え?」
「おいおい……お前忘れたのか? あの約束をよ」
「……」
そんなの……聞くまでもないだろ。あんな大切な約束を忘れる訳がないよ。
でも……僕はまだ『最強の冒険者になる』という約束を果たせてないんだ。だから……だから。
「もちろん覚えてるよ。でも……僕はまだまだ強くなんかないよ」
「……」
「ランクは上がったけどまだ最高ランクじゃないし、魔法だってまだ全部は使えない。僕はまだ最強の冒険者なんかじゃ────」
「おいアル!」
シンの声に言葉を遮られてしまう。
ハッとして前を見ると、シンが僕の目をじっと見つめていたのに気がついた。
「な……なに?」
「ホントお前の卑屈っぷりは2年前と変わんねぇなぁ。いい加減それ見飽きたぜ?」
「……」
「確かにお前はまだ世界最強じゃねぇよ。せいぜい地元最強って所か?」
シンは僕の横に座る。
「でもな、お前は変わったんだよ。見える物全てに怯えていたような……あの頃のお前と今じゃ全然違う。ちゃんと何倍にもお前は強くなってんだよ」
「……」
「俺はとっくにお前の事を認めている。もっと強くなりてぇなら、俺を人間にしてからだ。そうしたらもっとマジの稽古してやるからよ」
「……だから心配すんな。アル」
「────っ!」
僕は……シンの言葉が……とっても嬉しくて。何だか目頭が熱くなってきたんだ。
それでこの高ぶる気持ちをどうにかしようと……僕はシンに向かって飛び込んだのだった。
「しっ……しーん!!! うわぁあーん!!!」
「うわ、キショっ! こっち来んな!」
──
「……で。どうやって人間に戻すんだっけ?」
「おい。それは忘れたのかよ……仕方ねぇ。じゃあ俺がおさらいしてやる」
言ったシンは木の枝を両手で持ち、地面に文字を書いていくのだった。
「俺を人間化するには、俺そっくりのでけぇ人形を作らなきゃいけない……ここまではいいな?」
「うん」
「そして人形を作るのに必要な物……それは俺の描かれた絵、それと俺の使っていた防具だ」
「防具? 絵は顔を作るためにいるだろうけど……何で防具も?」
聞いたら「ふふーん」とすぐ答えてくれた。
「俺の防具は全てオーダーメイドによって作られた物だ。だからそれがあれば、身長や体格が鮮明に分かる筈だ」
「なるほどね」
確かにピッタリサイズの物があったら人間化へ、大きく近づける筈だ……でもよ。
「それは分かったけど……その防具は何処にあるのさ?」
「何だそれも忘れたのか? 思い出せよ。クソッタレ勇者の倉庫だよ」
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