豹変

 僕らは急いで勇者様について行き、階段を降りていった。そして……とある大きな地下の部屋に辿り着いたんだ。


 いや、これは地下室と言うよりかは……広いホールと言った方が適しているかもしれないな。


 そんな真っ白な空間には……かつて勇者や仲間たちが装備していたであろう剣や盾、杖や防具がケースに入れたり、そのまま置いてたりして飾られていた。


 そしてその武器類の上には、大きな肖像画も4枚飾られてあった。


「勇者様……これって!」

「ああ。かつて仲間が使っていた武器だ」

「うっわ! ははっ! スゴっ!!」


 それらを見て、僕はテンションを爆上げしてしまう。思わずダッシュで近づいた……時に釘を刺されてしまった。


「……絶対触るなよ」

「あっ、はい……」


 ──


 僕はしばらくの間、装備を眺めてウキウキワクワクしていたけど……1つだけ疑問に思う事があったんだ。


 だから僕はその事を勇者様に尋ねようとした……





 ────今思えば。これを聞いたのが大間違いだったのは明白である。





「でも……どうしてこれらが地下なんかにあるんですか? こんな貴重な物があるなんて、僕は全く知りませんでしたよ!」

「……」


 僕が聞くと、勇者様は全く笑わず僕の目を見て。


「どうしてだと思う?」

「え? それは大切に保管するためでしょうか……? それか盗まれないようにするとか……」

「違うよ……全く違う」


 そう言って勇者様は…………近くに置いてあったショーケースを蹴り飛ばした。


「……あっ!?」

「答えはな……思い出したくねぇからだよ。こんなクソみたいな過去をな」

「…………えっ?」


 ……理解が出来なかった。僕の脳の処理が追いついていないのが分かった。ただ。それだけだ。


「こんな物……捨てたいのは山々なんだが。金になるのは明らかだからな。だからもっと価値が上がった頃に売りさばこうと思ってる」


「どっ……どうしてっ!? だってこれは大切な……大切な仲間の遺品なんじゃないんですか!!」


「……オレの勝手だろ」


「いっ、いいや! そんなの絶対おかしいですよ!!」


 それでも……それでも僕は必死に反論した。目の前で起きている出来事全てが……何かの間違いだと思いたかったからだろうか。


 でも……でも。言葉は届かなかったんだ。


「そんなの……亡くなった仲間達が悲し────」

「知ったような口を効くなよガキがァ!!」

「……っ!?」


 豹変。言葉にするならそれが1番正しい表現だろうか。文字通り……目の前にいる人物は、さっきとは全く変わってしまっていた。


 僕が憧れ、夢に見た勇者の姿は…………もうここには居ないのだ。


「……はぁー。ノノが合わせたい奴がいるだなんて言ったからわざわざ会ってやったのに、こんなクソ失礼なガキだったとはな……」


「……」


「あのな……オレはな。お前ら低ランみてぇに和気藹々やってた訳じゃねぇんだよ。本当の地獄を見てきたんだからな。ずっと苦しかったんだよ。最後の最後まで……」


「でっ、でも、仲間が……」


「仲間仲間うっせぇよ、黙れ。いいかよく聞け……コイツらはな。ただの俺の肉壁だったに過ぎねぇんだよォ!」


「………………」


 ────勇者の信じ難い言葉に……僕は何も発せなかった。


 どんなに豹変しようとも……勇者の口からは。そんな言葉は絶対に聞きたくなかったんだ。


「…………クソが」


 シンの声が微かに聞こえた。


 勇者は言いたい事が言えてスッキリしたのか、完全に壊れたのか知らないが、言葉は止まらなかった。


 そして「仲間の真実を教えてやるよ」と、僕らに向かって……まるでショーでも見せるかのように、手を大きく開いたのだ。


「まず僧侶のザック・ルトリル……コイツは何考えてるかよく分からない奴で非常に扱いにくかった。喋んねぇし……ホント、もう少しマトモな僧侶が欲しかったもんだな」


「……酷いよ。リリス」



「魔法使いのアイナル・グリナー……は確かに魔法の腕は確かだったが……ただそれだけだ。それに謎に自信家で間違いを認めない、面倒な奴だった。やっぱり勉強しか出来ない頭の硬ぇ奴は邪魔だったな」


「お主……!」



「……まぁ2人はいいさ。コイツらは最低限の働きはしてくれたんだからな。問題は……コイツだ。シン・クレイトン。この勇者パーティ1番のお荷物だ!」


「……」


「アイナルと喧嘩ばかりしてムードを台無しにする。作戦を理解せずに特攻ばかりする……そして自己中心的で迷惑ばかり……で、そんな短所のある割にはオレよりも弱い! しまいには魔王戦でも最後まで足を引っ張る、最悪な無能っぷりを発揮するカスだ!!」



 僕は……僕は。今まで感じた事のない感情に襲われた。息が荒くなって、手が震えて……目の前にいる『そいつ』が存在する事にとてつもない不快感を覚えたんだ。


 そして……何か頭の中のリミッターの様なものが。今まで僕を押さえつけていた何かが。『プツン』と切れた音がしたんだ。











「てめええぇぇえぇぇえぇっっ!!!!!」

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