馬車トーーク

 馬車乗り場の前まで辿り着くと、もうそこにはミミルさんが立っていた。そしてミミルさんは何かの容器とスプーンを手にしている。


 気になった僕は近づいて声をかけてみた。


「ミミルさん、何食べてるんですか?」

「ん、遅いぞアル……見ればわかるじゃろ。これはすいーつじゃ」

「スイーツ?」

「うむ、最近流行りだと言うからウチも食べてみたが……どうもこれが甘すぎてな」

「スイーツってそういうものじゃ……」


 それにそのスイーツはかなり前から流行っているものなんだけど……それは言わない方がいいのかな。


「ええと、それで勇者様のお友達は?」

「あやつもまだ来ておらん……そろそろ来るはずなのじゃがな」


 ……と言った所で。


「ごめんなさーい!遅れちゃいましたー!」


 杖を持った緑髪の女の人が慌てたように、こちらに走って来た。それを見たミミルさんはスイーツを食べる手を止めて、「はぁ」と一言。


「遅いぞ、ノノ」

「ふゃぁ、すみません団長……! ってまだそんなの食べてるんですか!? 古っ!」

「……」

「そんな時代遅れの食べ物より、今はこれですよ! ミックスジュース……って団長!」


 ミミルさんはノノと呼ばれた女性の会話を途中から無視をして、馬車へと乗り込んだ。


「あれれ……どうして団長怒ってるんだろ?」

「……自覚なしなのかよ」


 ──


 馬車の中。


 僕とシン、ミミルさんとノノさんで対面で座り、勇者様の元へと向かっていた。


 それで向かっている間……僕らは軽い自己紹介のようなものを行っていた。


「ん、一応紹介しておくが……コイツはノノ。ウチのギルドに所属しているヒーラーじゃ」

「よろしく! アルくん!」

「あれ、僕の事知ってるんですか」


 そう言うとノノさんは「にしし」っと笑い。


「団長からキミの活躍話をよく聞くからねー!多分キミは団長のお気に入り……いや、それ以上の……!?」

「おいノノ……ここから追い出されたいのか?」

「ふひっ……!?」


 ミミルさんに睨まれたノノさんは震え上がり……


「……あ。あーごめんウソウソ! 本当は団長キミの事、クソザコFラン冒険者ってもうボロクッソに言ってたから!」

「……」


 いや、そっちの方が傷つくんですけど。それでミミルさんは何でウンウン頷いてるの。それでいいのかよ。


「……え、えっと。それでアルくんはどうして勇者に会いたいの?」


 この変な感じになった空気を変えようとしたのか、ノノさんは僕に質問してきた。


 僕はシンの存在は隠しつつも、素直に答えてみる。


「それは……僕は勇者様に憧れて冒険者になったから、ずっと会いたかったんですよ! まぁそれとシン……様の事とか仲間の事も聞きたいなって思って!」

「……」


 するとノノさんは顔を曇らせて……窓の外を見た。


「ノノさん?」

「んーそういう事かぁ……楽しみを壊すつもりはないんだけど……あまり期待はしない方がいいかもよ?」

「えっ……?」

「ん? おいノノ、それはどういう事じゃ?」


 僕が聞く前にミミルさんが問いかけた。そしてノノさんは振り返って。


「すぐに分かるよ」


 そう言ってまた外を眺めだした。ミミルさんもこれ以上聞けないと判断したのか、浮かない顔をして魔導書を読み始めるのだった。


「……ふあーあ。寝みぃ」

「……」


 ……さっきとはまた違う、少し嫌な空気が車内には流れるのだった。

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