優しさ
────シンが可愛らしいお人形さんになって、はや3日が経過した。
その間シンは1度も魔剣に戻る事なく、体を動かして遊んだり散歩したりして、この人形生活を満喫していたようだ。
一方で僕も僕で完全に魔剣に怯える必要がなくなったため、非常に充実した日々を過ごす事が出来たのだ。
そうだな……例を挙げるなら、片手でご飯を食べたり、魔剣を風呂に持ち込んだりしなくて済む事かな。
……いや、くっ付いている間の生活ってスゴく大変だったんだよ? それにモンスターも中々いなかったから、すぐには離せなかったんだ……ってこんな事は思い出さなくていいや。
自由。そう、僕らは自由になったのだから……!
「おいアル、今日は何処に行くよ」
「えぇー? 今日くらいは休もうよ。何もしない日ってのも中々いいものだよ?」
「うーん。それもそうか……」
と、シンが答えた所で。ノックと一緒に、何やら知ってる声が聞こえてきた。
「シン様! モンスターを捕らえて参りました!」
あーこれはジェネさんか…………ごめん。ひとつだけ言わせてください。
遅い。遅いよ。なんなら僕頼んだ事忘れてたし……もう血を吸収する必要もないんだから。
しかし……ここまで来てくれたからなぁ。追い返すのも悪いよな。
仕方ない。覚悟を決めた僕は扉を開いた。
「あぁシン様! お会いしたかったです!」
「え?」
開くなり、ジェネさんは僕の腰元に刺してる剣の位置に目線を合わせてそう言った……
「えっと……今ここにはシンは入ってませんよ」
「……ん? 何を言って……?」
といった所で、シンが座っていた椅子から飛び降りて。
「あー。遅せぇぞジェネ」
言いながらこっちの扉までトコトコ歩いて来た。
「……ん? えっ、えっ!?」
当然、ジェネさんは困惑する……かと思ったら、すぐに正体に気がついたようだ。
「あっ! もしかして人形に?」
「ああ……そうだよ。そんくらい知ってるだろ」
「いや、それより……!! シン様は女性だったのですか!?」
「違ぇよバカ」
「えっ、こんなヒラヒラの服着てるのに!?」
そう言ってジェネさんは、シンに履かせていたスカートの裾をペラッと持ち上げた……
「……アル。早くコイツ殺せ」
「なっ、何でですかぁ!?」
──
そんで結局、僕らは森の方にやって来た。
理由はジェネさんを痛めつける……という訳ではなく、せっかくモンスターを捕まえてくれたのなら、僕が倒しちゃおう、という事である。
「それで何を捕まえてくれたんですか?」
「スライムです」
「……」
スライムは血を流さないのに……まぁもう血は吸収する必要もないんだけど。
「それじゃあ出しますね」
「あっ、はい!」
そう言ってジェネさんはスライムを解き放つ。僕は剣を構えた。
数は少ない……そして動きも遅い! これなら一振で一掃出来そうだ。
僕は走り込んで……剣術魔法を放った。
「でりゃっ! スラッシュ!!」
……しかし何も反応はない。
「……」
「……」
「えっ、え? そっ……ソードビーム!!!」
無反応。
「ねぇシン! 全然出ないんだけど!!」
「アホ、動きが全然違う」
「前はこれで出たよ!!」
「あー。それはお前の動きに合わせて、俺が勝手に出してやっただけだ」
……えっ。あっ、えっ!? そうだったの!?
色々な魔法はシンのおかげで使えたのは知ってたけど、こんなサポートまでしてくれたのは知らなかったよぉ!
と、焦ってる内にスライムはヌルヌルと近づいてきて……僕に触れる。いや、僕を飲み込もうとしてくる。
「わっ! いや!! すごいヌルってる!! 気持ち悪い!! 助けて!!! シン助けて!!!」
「はぁ……」
僕が助けを求めると、剣は久しぶりに不気味な色に輝いて……
「【
幾つもの斬撃が飛び交った。
そしてそれをモロに喰らったスライム達は切り刻まれ、青色の粒子が弾け飛んだ。
「あっ……ありがとうシン」
「ああ。俺なしでも少しくらいは戦えるようになれよ?」
「うん……そうだね」
前よりは強くなったとは自分でも思っていたけれど、それはシンの力だったんだな。
もっと……僕も強くならなくちゃ。
そしてシンは人形に魂を戻す。
「まぁそんなしょげた顔すんな。ゆっくり強くなりゃあいいんだからよ……そうだな。折角ここまで来たんだし、森林浴でもしていかねぇか?」
はは。まさかシンに気を使われる日が来るなんてな。
なんだかんだ、コイツも優しいんだよな。
「ありがとうシン。ちょっと歩いてみようか」
「ああ」
「ちょっとシン様! ボクも連れてってくださいよ!」
「お前は帰れ」
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