アルの決断

 その魔剣の言ったことに……また僕は酷く動揺してしまった。魔剣に血を吸収させなきゃいけないって……しかも生き血じゃないと駄目なんて、いくら何でも無茶苦茶過ぎるだろ!


「そんなの出来るわけないだろ!」


 すると魔剣は呆れたような口調で返事をしてきた。


「はぁ。出来るか出来ないかなんて、やろうとしてから言えっつーの。幸い今は夜で辺りは暗いし……人間の1人や2人くらい簡単に斬り殺せるだろ?」

「おっ、お前何を言って……うっ!」


 そこまで言ったところで僕はもっと気分が悪くなってしまい、ドサッと座り込んでしまった。


 それを見ていた魔剣は、更に機嫌が悪そうな声をして言う。


「チッ……ならお前は魔力を吸いつくされて死ぬだけだぞ」

「えっ……!? う、嘘でしょ!?」

「嘘じゃねぇよ。このまま何もしなかったらお前は死ぬ。確実に……死ぬんだよ」

「……」


 それを聞いて僕は全身の力が抜けたような……頭の中が真っ白になったような……そんな気がした。


 ──人は多かれ少なかれ魔力を持っている。当然、魔力は魔法が使えない僕にだって存在しているのだが……その体内にある魔力が尽きてしまうと、人は死んでしまうんだ。


 つまり魔剣が僕から魔力を吸収し続けているということは……死へのカウントダウンが進んでいるのと同じ。それを理解した僕はこれまでにない程の恐怖を感じて、震えが止まらなかったんだ。


「ったく……やっと拾ってくれた奴が現れたと思ったら、こんな腰抜けだったとはな。実に残念だぜ」

「いっ……嫌だ! いやだよ!! 僕は死にたくない!!」

「ならその辺の奴殺して血を奪えばいいだろ」


 死にたくない。そんなの当たり前だ。でも生き延びるために人を殺すなんて……そんなの僕には出来ないよ!


 くそっ……一体どうすればいいんだ……!!



「おーいどこにいるのアル君ー? このハンナちゃんが迎えに来てあげたよー?」



 ふと、遠くからハンナさんの声が聞こえてきた。きっとごみ捨てが遅い僕を探しにきたのだろうけど。まさかこんなタイミングで来るなんて……!


「お、良かったな。まさか獲物から来てくれるなんて。お前相当ついてるぞ?」


 魔剣はヘラヘラと僕を嘲笑うかのように言った。


「ばっ……バカを言うなぁ……!! 僕はっ……絶対にハンナさんを殺したりなんかしないぞ……!」

「へぇ、そうかい。ならお前は大人しく死ぬだけだ」

「ぐぅっ……」


 更に意識が遠のいて行く。このままだと僕は死んてしまう……それは明らかだった。


 それでも……やろうと思えば暗闇に乗じてハンナさんを不意打ちするのも出来なくはないだろう。


 ……でもそんなのは絶対。絶対ににしちゃ駄目なんだ。


 だけれどっ……このまま大人しく死を待つのも……駄目だ!! 何か。何か行動を起こさなくては……!! 生き残る方法を考えなくちゃ!!


 考えろ……今動ける範囲で、すぐに血を手に入れる方法を……!!




 ……あった。1つだけある。でもそれは根本的な解決になってないのかもしれないけど……


 ──もう選んでられない。このまま何もせず死ぬよりは……何倍もマシだ。


 僕は上手く回らない口で魔剣に問いかける。


「……おっ、おい……魔剣。『生き血』なら……本当に何でもいいんだよな?」

「ん? ああ。やっと殺る気になったのか?」

「うん……それなら……良かった……よ」


 そう言うと僕は力を振り絞り……魔剣を上げて手首を回し刃を自分の体に向けて……左手を添えた。……そして。


「……おっ、おいまさかお前!」


 魔剣は僕が何をしようとしたのか、その時やっと分かったようだけど。


 ──もう遅い。止めれる訳がない。


 その魔剣で自分の腹を思いっ切り突き刺した。


「──っッ!!!」


 痛い……いや痛いなんてモノじゃない。熱い。焼ける様に体が熱いんだ。苦しい……!!


 そして僕は……死を直感した。死ぬ。クソっ、僕は死ぬ。


 でも……どうか。……どうかこいつだけでもっ!!


 僕は震えた手で、自分で突き刺した魔剣を引っこ抜いた。


「──ッがぁあぁああっ!!」


 当然、僕の体内からは大量の血が溢れ出してきて……


 僕は倒れた。それと同時に……カランと魔剣が地面に落ちる音も聞こえたような気がした。


「おい嘘だろっ!?」

「……へっ……へへへっ」


 僕は魔剣に笑ってみせた。『これが僕の答えだ』と。


「……正気かよ、コイツ!?」

「へへっ……へ……」




 そこから先の記憶はない。

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