新しいテント
@nakamichiko
第1話本物の太鼓
このあたりの七月末の夕方六時は、まだこれだけ明るいのだと、三十歳前で改めて気が付いた。
「やっぱりバカかな、俺」
人が多めの路線バスの中呟いたので、ちょっと顔が赤くなったのだと思う。でももうすぐ降りるので、恥ずかしいのは我慢して外に目線をそらした。整備したての真新しい四車線の道路には、帰宅途中の車がどこかウキウキとした感じで走っている。でも外から聞こえる音で、俺は次第に泣きそうになってしまった。
「ああ、神社のお祭りか・・・」
今度は別の人の声が車内に響いた。ここにも太鼓の音が聞こえてくる、バスはちょうど道を挟んだ神社の向かいに止まり、数人が降りる中、俺も混じった。
そしてバスが発車し、ちょっとだけ小高い所にある神社には真っ白い新品のテントが張られてあった。上に書いてある町内会の文字も。まだはっきりと読める。
昔から変わらない風景が見えた時、もう誰もいなくなったバス停で、俺は少し唇をかみしめながら
「これで良かったのかな、うれしいけれど」
少しだけ涙が流れた。
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