Part.5 Thursday Midnight Lovers(4)

*暴力と銃撃、流血の描写があります。



        4


 二十二時頃だったろうか。

 突然、廊下を乱暴に歩く足音が近づいて、扉がさっと開かれた。例の陰気な顔をしたターナーと、アイザックだった。ミッキーはがっかりした。


「こんばんは、旦那」


 挨拶するミッキーを、ターナーは暗い瞳で見下ろした。アイザックを振り返る。


「早くしろ。夜が明ける前に、移動する」


 アイザックはぶすっとした表情で彼に近づくと、ズボンの後ろのポケットから小さなカギを取り出した。茫然としているミッキーの腕をつかみ、手錠を外す。次に、無抵抗な彼の腕を後手にして、手錠をかけなおした。

 カチッとカギのかかる音がして、ミッキーは、ぽかんと口を開けてターナーを見上げた。


「どうして……」


 しかし、彼の口元にゆっくり浮かんだ冷笑に出会い、言葉はかき消すように消えた。絶望の溜め息が唇まで上り、そこで凍りついた。

 ターナーは冷酷に告げた。


「残念だがね、安藤君。ラグ・ド・グレーヴスは、我われとの取引には応じないそうだよ。それで、君を帰してさし上げるわけにいかなくなった」


 ミッキーは彼の顔を見詰めて考えた。――成る程。おれを使ってラグを脅そうとしたのなら、そういうことになるのに不思議はない。何をおれと引き換えにしようとしたのかは、想像もつかないが。

 あの男は、自分が守ろうと決めたものの為ならば、たとえリサやミッキーが目の前で死体にされようと眉一つ動かさないだろう。そういう男だとは容易に想像できたので、特に何の感慨も浮かばなかった。

 怒りも、恨む気持ちにもなれなかったが、一つだけ……もうリサには会えないかもしれないと思うと、ある考えが閃いた。


「なかなか立派なスピーチだがね。博士」


 ミッキーは感心した風に言った。


「それならどうして、おれを拘束しているんだ? この親切なアイザックに命じて、今すぐ、おれの頭を撃ち抜いてしまえばいいのに」


 ターナーは黙っていたが、傍らに膝をついたアイザックが、ふん、と鼻先でせせら嗤った。


「こんな所でお前を殺して連合に嗅ぎ回らせるようなことを、俺達がするとでも思うのか。お前を運ぶ車を用意しているんだ。これは、それまでの用心だ。判るか?」


 ミッキーは片眼を閉じ、後ろ手のまま肩をすくめようとした。


「ああ、君の言葉ほど、はっきり判るものはこの世にないよ。……君の、みっともない顔を除くとね」

「減らず口を叩くな」

「喜んで黙るよ」


 ミッキーは澄まして言ってのけた。


「ただ、早まったことはしない方がいいと思うよ。結局、損をするのは君達なんだから」

「二度とそんな手には乗らない」


 アイザックが吐き捨て、ミッキーは口を閉じた。

 ミッキーは、どうしてターナーが急に態度を変えたのだろうと考えた。結局、自分のことを心配したリサ達が警察にでも届けて、自分の失踪が公になり、連中が場所を換える決断を下したのだろうと結論づけた。

 ターナーは、ミッキーとアイザックを残して部屋を出ようとしていた。その時、ドアの向こうで足音がした。顔を上げるミッキーと二人の男達の前で、ドアがゆっくり開いた。

 レナだった。――ミッキーの心臓が少し早く動き始めた。彼女のことをすっかり忘れていた。どうして、ここに来たのだろう?

 彼女は相変わらず表情の無い瞳で、じっとミッキーを見詰めた。

 アイザックが立ち上がり、苛々と言った。


「何をしに来た? 夕食は、もう済んだだろう?」

「はい。トレイを持って帰ります。トレイの上にあるものが、必要です」

「早くしろ」


 ターナーが頷き、レナは彼の横をすり抜けて部屋に入った。ミッキーには目もくれず、単調な足取りでソファーに近づき、トレイを持ち上げた。それから、彼女はライト・シーリングのスイッチを切ってしまった。


「レナ」

「馬鹿野郎!」


 ターナーが驚きの声をあげ、アイザックが罵声を飛ばした。


「何だって、そんなことをするんだ」

「私は、いつもこうしています。切ってはいけませんか、ミスター」

「いいから、早く出て来い」

「『……あら』」


 暗闇の中で、彼女はミッキーの側に立ち止まり、ややぎこちなく囁いた。


「『すっかり、動けなくなったのね。手も足も出ないみたい』」


 後から考えると、それが彼女の宣戦布告だった。

 ミッキーは床に転がって彼女の台詞を聴いていた。これがあのレナだとは、信じられない。――彼女は彼の手錠に触れ、彼の掌に何か小さなものを握らせた。

 アイザックが怒りをこめて呼んだ。


「さっさと出て来い、レナ」

「はい」

「カギをかけて、それを俺によこせ」


 指示された通りに行う音がして、足音が遠ざかって行った。ミッキーは暗闇の中で布団のように転がっていた。手探りで、彼女が渡してくれた物を確認する。

 ヘアピンだった。


 ミッキーは、レナが遂に自我を取り戻したのだろうかと考えた。彼女との問答を思い起こし、自分が正体をばらすようなことを話しただろうかと検討する。

 いや、それはなかったはずだ……。《SHIOシオ》 のことを訊ねはしたが、自分が 《SHIO》 を良く知っているという嘘はついていない。

 そんなことは、問題ではない。

 いま問題なのは、何がいきなりレナをコンピューターから生身の人間に戻したのか、ということだ。そして、それ以上に重大な問題は、はたして手錠が外せるかということだ。


 ミッキーは手首を捻って手錠のありかをつきとめると、指先にピンを挟んでカギを探った。簡単な仕事ではなかった。手首にはめられた金属の輪で皮膚が破れ、血が流れ出す。腕と手首が攣りそうになるのをこらえ、彼は辛抱づよく作業を行った。

 カチリと小さな音がして手錠が外れると、ミッキーは思わず長い溜め息をついた。暗闇の中で、解放した両手を苦々しく眺める。左手の手首から親指にかけての皮膚がずるりと剥け、生温かい血が掌をおおっていた。

 ミッキーは舌打ちし、軽く手を振って血を払った。とりあえず、ズボンのポケットに入れておいたハンカチを取り出して傷に巻く。少し考えて、外した手錠もポケットに入れた。

 両手が自由になれば、あとは簡単だった。ミッキーは立ち上がり、一つ大きな伸びをした。部屋の明かりは点けないまま、ソファーに腰を下ろして作戦を考える。

 部屋のカギはコンラッドが持って行ったから、レナの援助は望めない。部屋を出られるのは、奴等が自分を連れ出しに来たときだ。


 どうやって、レナを連れて行こう?


 ミッキーは、外していたネクタイを結びなおし、ジャケットを着た。これを残して行くことは、美意識が許さなかった。――出口はドアだけだ。開いた時に影になる場所の壁に貼りつき、息を殺して待った。

 夜は気配を圧しころしたまま、のろのろと過ぎて行く。やがて、大きく膨れ上がって成長するような幻を見せる。一秒が一分になり、一分が、一時間にもなる……。


 ミッキーは、しびれた左掌を握ったり開いたりしていた。右手は無意識に壁の表面を探っている。冷たい合成樹脂の壁面が体温を吸い取って生ぬるくなり、表面のわずかな凹凸を見つけた指が円を描いて動きだす。溜め息に似た呼吸が唇からもれそうになった頃、ようやく足音が聞こえた。

 アイザックが、カギを開けて入って来た。――彼が先だったことは、本当に残念だった。ハンデなしに彼と殴りあえたら、どんなに気持ちが良いだろう!――彼はソファーに向かって歩き、ライト・シーリングのスイッチを探した。ワンテンポ遅れて、ターナーが部屋に入って来る。

 ミッキーは、壁に当てていた右手を拳に変え、力いっぱいターナーのこめかみに叩きつけた。


「…………!」


 ターナーは吹っ飛び、壁にぶつかって呻き声をあげた。同時に明りが点き、アイザックが熊のように吼えかかる。

 ミッキーは部屋の外へ出ると、ドアをばたんと閉め、カギをかけた。次の瞬間、ドアの向こうでは、アイザックがありとあらゆる罵詈雑言を叫びながら体当たりを始めた。

 ミッキーは溜め息をついて、そこに立ち尽くした。しかし、のんびりしている暇はない。人の気配がして、他の男の声が階段の下から聞こえてきた。


「どうした、アイザック。何かあったのか?」


 壁にはりついて身を隠すミッキーの右腕に、小さな手が触れた。彼はぎょっとして振り返り、息を呑んだ。

 レナが側に立っていて、黙っていろと言うように、右手の人差し指を唇に当てた。

 ミッキーは唖然とした。


「君は……」

「『黙って。こちらです』」


 彼女は彼の手を引き、さらに階段を昇らせた。ミッキーは早口に訊ねた。


「出口は? 他に、あるのかい?」

「『待って下さい』」


 レナは、階段の一番上で耳をすませる仕草をした。

 ドアを蹴ったり殴ったりしている音は、すさまじかった。ビルの解体工事をしても、こんなに騒々しくはないだろう。見覚えのある黒服の男が二人、部屋の外からドアを破ろうと躍起になっている。

 レナはミッキーを振り向いた。


「『彼等は、貴方がまだあそこにいると考えています。アイザックの言葉が聞き取れないのです』」


 ミッキーは彼女を凝視みつめたが、白い面からは何の感情もうかがえなかった。


「君は、いったい……」

「『私が、彼等の注意をひきつけます』」


 彼女は廊下の曲がり角から、大きな花瓶を引っぱり出した。

 ミッキーは眼をぱちくりさせた。彼女はその陶器の首に長い紐を括りつけていた。


「『貴方は、カギを持っていますか?』」

「あ、ああ」

「『私に下さい』」


 ミッキーは、先ほどドアから抜いたカギを、レナの手の中に入れた。彼女は淡々と説明した。


「『私は戻ります。貴方は、私が彼等と話をしている間に二階へ下りて、階段の後ろに隠れて下さい』」


 ミッキーは頷いた。レナは、彼の傷ついた掌に紐を握らせた。


「『二階の階段の、こちら側に戸棚があります。貴方はそこに隠れて、私が彼等を外に出したら、この紐を引いてください』」


 なんて古典的なトリックだ。


 ミッキーは口を開け、何か言おうとした。しかし、レナはすらりと立ち、身軽に階段を下りて行った。

 ドアを殴る男達の罵声に混ざって、涼しげな彼女の声が聴こえた。


「『どうしたのですか?』」


 ミッキーが階段の上から首を伸ばして見ると、男達が彼女を押し戻そうとしていた。


「こんな所に来るな」

「下がれ。キッチンへ戻っていろ」


 ミッキーは、用心深く階段をとび下りて身を潜めた。レナは、いつもの機械然とした口調で言った。


「『私は、三秒前にカギを拾いました。この部屋のカギだと判定します。これを使って扉を開ける方が、合理的です』」


 男の一人がそれをひったくり、直ちにドアを開放した。猪のように飛び出して来たアイザックの後ろで、ターナーは片手で額を押さえていた。

 アイザックが叫んだ。


「どこに居る? 捕まえたか?」

「何のことだ?」


 訊き返す男達の顔が、みるまに引き攣った。アイザックはぎりぎり歯軋りをして、再び吼えた。


「逃げたんだ!」

「そんなはずはない。逃げたのなら、我われの前を通ったはずだ」


 ミッキーは薄笑いを浮かべると、握っていた紐を引っ張った。頭上でガタン、と音がして、男達は一斉に天を仰いだ。


「上だ!」


 アイザックが叫び、三人は、どたどた階段を上っていった。ワンテンポ遅れてターナーが、よろめきながら後を追う。

 彼等が去ってから、ミッキーは駆け出した。


 ミッキーは佇むレナの腕を引いて階段を駆け下りた。一階のロビーには誰もいなかった。ミッキーは玄関に駆け寄り、扉を開けた。

 振り向くと、レナの姿がなかった。


 ミッキーは、一瞬、呆然と立ち尽くした。彼女は二階に戻ったのか? 何故?

 何が何でもレナを連れて行くつもりで、ミッキーは身を翻した。

 階段の上が騒がしくなった。男達の罵声に混じり、レナの声が聴こえた。


「『あの人物が、外に出ようとしています。このままでは、捕獲できません。急いでください』」


 ミッキーは眼をまるくした。どういうことだ? おれに逃げろと言っているのか? 

 階上にいたターナーがミッキーを見つけ、銃を構えた。その前にレナが立ち塞がったのを、ターナーは突き飛ばした。


「どけ! レナ!」


 ミッキーの頭に、血が一気に駆けのぼった。


「『何という事態でしょう! ルツ・ヨーハンに解説を求めなければなりません。私は、ルツの所へ、戻らなければなりません。マオを迎えに行かなければ……』」

「レナ!」


 彼女は突き飛ばされて壁に身体をぶつけ、早口に叫んだ。ミッキーの耳元をレーザーの光芒が掠める。ミッキーは怯むことなく、まっすぐ階段を駆け上った。

 レナを救けるのだ。

 アイザックが彼を見つけ、怒声をあげた。


 階段をとびおりて来るアイザックを、ミッキーは迎え討った。今度こそ、イタチ男の顎に綺麗にストレート・パンチが決まり、アイザックは後ろにいたターナーとぶつかった。

 別の黒服の男が、光る物をミッキーに向ける。轟音がして、再びレーザーが彼の頬を掠めた。

 ミッキーは、早めにこの家を出た方が健康の為だと判断した。しかし、レナを置いては行けない。壁際にうずくまっている彼女の腕を引き起こし、一階へ戻ろうとしていると、玄関の扉が開いてドウエル教授が入って来た。

 教授は、階段途中のミッキーとレナをみつけ、息を呑んだ。それから、すぐに銃を構えた。


 ミッキーがそちらを振り向いたのと、雷のような音がしたのは同時だった。彼は階段の壁に叩きつけられた。眼前に火花が散り、視界が真紅に染まる。

 黒服の男が、銃を収めて掴みかかってくる。

 ミッキーは苦痛を噛み殺しながら、男を手すりの下へ投げ落とした。


 レナがしがみついて来た。ミッキーは、起き上がろうともがく黒服の男をマットにして、彼女と一緒に階段からとび下りた。衝撃が右の肩へ突き抜けるのを、歯をくいしばって耐える。アイザックの怒鳴り声を聞きながら、彼女を連れて駆け出した。

 ドウエル教授は階段の下へ来ていたので、玄関には誰もいなかった。追って来るレーザーの光芒を無視して、ミッキーとレナは外へ出た。おそらく彼を迎えに来ていたのだろう、家の正面に停められていた黒い車の横をすり抜け、ミッキーは、三日前から置き去りにしていた自分の車のところへ駆けて行った。

 レナが彼を支えようとしているのが判った。

 右の肩が焼けるように熱い。


 エア・カーは律儀にそこで待っていた。ミッキーは運転席にとびこみ、エンジンをかけた。レナはナヴィゲーター・シートに乗りこんだ。

 人影が例の家の前に現われて銃撃を始めた。ミッキーは構わずアクセルを踏む。車は即座にスタートした。


 いりくんだ夜の街を、車は恐ろしい勢いで飛んで行った。すぐ後を、もう一台、黒い車が追って来る。容赦のないレイ・ガンの光芒が時折リア・ウィンドウを掠め、ミッキーに舌打ちをさせた。

 右肩から鮮血がどくどくと溢れて、腕からハンドルへと伝わっていた。心臓の鼓動に合わせ、脈打って流れている。動脈を傷つけたのかもしれない。右へ左へハンドルを回す度に、気の遠くなる程の痛みが全身を貫いた。

 ミッキーはうめき声を噛み殺し、懸命に前方を見据えた。

 早く、止血をしなければならない……。判っていても、追跡車は、こちらの動きを読むように一定の距離を置いてついてくる。

 奴らは、おれの行き先を知っている。気づいて、ミッキーは苦渋を飲んだ。

 信号を無視し、けたたましいクラクションに追い立てられながら、彼は必死に考えた。――奴らは、おれの家を知っている。帰るわけにはいかないな。


 ミッキーは唇を噛んでハイウェイに車を乗せた。濃紺の夜の底を、一筋のイルミネーションのように駆け抜けていく。そのままフリーウェイに車を乗せ、祈るように空を見上げてから、車をリニア・モードに切り替えた。

 敵はついて来ていたが、さすがに撃っては来なくなった。

 こうなったら持久戦だ……。溜め息をついて、ミッキーはシートにもたれかかった。途端に呻き声をあげて右肩を押さえる。左手を覆ったハンカチが、みるみる血に染まっていく。背広が駄目になってしまったことを知り、彼は苦笑した。


 三百メートル程後ろに、追跡車のライトがある。ミッキーはバック・ミラーを睨みながら、左手に縛っていたハンカチを右肩に巻きつけた。ネクタイをほどき、口と左手を使って上から縛りつける。

 レナを安心させるように首を振ると、ナヴィゲーター・シートに備えておいた窓拭き用のタオルを、さらに上から当てがった。

 さすがに、レナに話し掛ける余裕は無かった。ミッキーはシートに頭を預けて溜め息をついた。呼吸がかなり激しくなっていたことに気づき、眼を閉じてゆっくり息を吐いた。そうすると、少し身体が楽になった。


 バック・ミラーの中で、故郷の街の灯が徐々に遠くなって行く。ドーム都市のイルミネーションは、明るく幸せそうに瞬いている。しかし、背後からは死神達が追いかけて来る。

 車は人工の夜の街から、宇宙が創り出した真の闇の空間へと滑りこんで行った。

 振り切らなければ……。眼を開け、ミッキーは口の中で呟いた。リサのところへは帰れない。あの娘を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 どこへ行こう? どこが、一番安全だろう。


 遠くぼんやりとした光の点の集まりだったRUNAルナ・ CITYシティが近づくにつれ、ミッキーの頬に苦笑が浮かんだ。ぎこちなく、右手でハンドルを掴む。

 バック・ミラーに映る彼の黒い瞳は、背後の闇に融け、星の煌きが宿っていた。追ってくるヘッドライトに、皮肉をこめて嗤いかける。

 こいつらを振り切らなければ、話にならない。全くもって不本意ではあったが、それが現状だった。

 ミッキーは行き先を決定した。まず、ルナ・シティに下りて勝負をかけよう。それから……あいつの居場所を、ちゃんと聞いておけば良かったな。

 まあ、何とかなるだろう。



            ◇



 午前二時。銀河連合SPACEスペース・ CENTERセンターの宇宙港に、ミッキーとレナはたどり着いた。

 深夜の呼び出しに応えて 《VOYAGERボイジャー号》 のエア・ロックを開けたラグは――三日間、髪をろくに梳いていなければ髭も剃っておらず、血まみれの服を着たミッキーが、レナに支えられている姿をみつけ、眼をまるくした。咥え煙草のまま口を開け、皮肉を探す。

 しかし、結局、ラグは何も言えなかった。

 多量の出血とうち続いた緊張に疲労困憊して倒れこんだミッキーを抱きとめて、自分のベッドに放りこむのに、多大な労力を費やさなければならなかったからだ。





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