第11話 悪役女帝と剣奴とハンバーグ④
「……そうか。そう言えば、どうして軍師のアンタが、この場所に?って質問していた最中だったな」
「どうして、この場所にですか? それは」とリンリンは思い出した。
自分は、何のために来たのか!
「そうです! 私が背負っていたカバンです! カバンはどこへ!?」
「カバン? そう言えば見かけたな」
「どこですか? どこにあったのですか?」
「ちょっと待ってな。取ってくるよ」
そう言うとアルスは駆け出した。 それから少しの時間があって
「これか?」と大きなカバンを持って戻ってきた。
「それです! よかった」とホッと息をつくリンリン。
それから、思い出したかのように
「アルス殿、実はある方から頼まれている物がありまして。これは貴方への贈り物です」
「俺への? それを軍師のアンタが持ってくるって事は……えっと?」
アルスの脳裏には、不思議とエイルが思い浮かんだ。しかし、それをすぐに否定した。
(まさか、アイツが俺へ物を送る事なんてないだろう。しかし、困った。心当たりがない……いや、1人いるが……)
「それを送った人物って、もしかして食堂のお姉さんか?」
「え? どうしてそれを?」とリンリンは言った後に後悔した。
確かにアルスに送った人物は、帝国の最高権力者エイルであるが……
同時に、アルスが言うと事の食堂のお姉さんでもあるのだ。
そのため、リンリンは反射的に肯定してしまった。
もしも、ここは「エイル陛下から労いの品である」と言えば、話は複雑化しなかっただろう。
「そうか、あのお姉さんには、庶民の出にしては、どこか気品? みたいなものがあった気がしたが、帝国軍部のトップであるアンタと交流があるのか……一体、何者なんだい?」
「それは、あの……」としどろもどろになるリンリン。 彼女は、下手に嘘をつくよりも真実を混ぜた方が効果的と判断した……残念な事に。
「彼女は、身分を隠していますが、帝国の由緒正しい身分の出です。アルス殿も、このことはくれぐれもご内密に」
「あぁ、すまない。ただの剣奴が知るべきことではなかったか。ちなみに、『貴方は知り過ぎました!』なんて殺されたりするような事案じゃないよな?」
アルスの冗談であるが、彼があまりにも真面目な顔をするものだから、リンリンの脳内では
(だめです。彼女の正体をアルス殿が知ってしまったら、エイル陛下は顔を真っ赤にして悶え苦しんで死んでしまいます!)
その様子に
「冗談のつもりだったが、それほどの身分の方だったのか。もしも、俺の持ち主が彼女だったらなぁ……」と小さな声で呟いていたが、それはリンリンの耳にも届いていた
「え? 今、なんと言いましたか?」
「ただの戯れ言ってやつさ。まさか、こんな言葉で女帝陛下への不敬として処刑されるわけでもないだろ?」
それは、不遜とも言えるアルスの態度であるが、リンリンはそれどころではなかった。
(はわはわ……もしかしたら、エイル陛下とアルス殿は両想い! これは、一大事……あれ? でもアルス殿はエイル陛下の事を敵だと思い込んでいて、好きなのは食堂のお姉さんとして働いてるエイル陛下であって……あれ? あれ?)
「? どうかしたのか?」
「いえ、あまりにもな自体に混乱を、お恥ずかしい姿をお見せしました」
「……いや、そんな事よりも、食堂のお姉さんからの贈り物と言うことは、食べ物でじゃないのか? でも、この辺境から帝国までの距離を考えたら……」
「いえ、ご安心ください。このバックの内部では、食堂の主たるおばちゃんの秘蔵魔具がはいっているのです」
「へぇ~ 何度となく帝国と女帝エイルを救ったって言われる食堂のおばちゃん。何度も食堂に足を運んだ俺でもその姿は見た事がないが……実際する人物だったのか」
「えぇ、そのおばちゃんの秘蔵アイテム。それだけでワクワクと胸が弾んできませんか? ……いえ、私には弾むほどの胸はありませんがね」
リンリンはわざとらしく胸を張って見せる。しかし、その直後に膝から崩れ落ちた。
「そんなに精神へ苦痛を受けるとわかっていて、どうして自虐を? 加えて、嫁入り前の女の子が男性の前で口にするような自虐ネタではないと思うのだが……」
「すいません、自虐方向に走るのが少し癖になっているみたいです。……忘れてください」
「あ、あぁ、なんか俺も悪かった。 それじゃ、その秘蔵魔具と見ようじゃないか?」とアルスも気を使って、話を変えた。
「そうですね。それじゃさっそく見てみましょう!」
「……感情の起伏が激しい子だな。きっと、エイル直属の立場で疲れているんだな」と聞こえないようにアルスは呟いた。
リンリンは、勢いよくバックを開いて見せた。すると――――
「ん? 涼しい風が」
「中が冷えて、食料の保存が効くようになっているのです」
「へぇ~ それで食料ってのは……そのハンバーグかい?」
「その通りです! と言いたい所ですが、ここからもう一工夫が入ります」
「もう一工夫?」
「はい、カットしたパン。さらにレタスと
「その2!? その箱にしか見えないのが?」
「はい、この箱に入れて、少量の魔力で雷属性を流してやれば……あれ? 調整が難しいですね。こう? ですかね?」
「おいおい、大丈夫か?」
その直後、異音が響いた。 具体的には『チーン』という異音だ。
「はい、完成です」とリンリンが箱から取り出した物をアルスに手渡す。
「これは、ハンバーガーか? でも、温かい。チーズも溶けている!」
「なんでも、これは電子レンジと言って冷えた食材を温め直す魔具らしいのです」
「すごいな。 おばちゃんの魔具が2つあれば、世界の食糧事情が変わってしまうぞ」
「その通りなんですけどね。残念ながらおばちゃんは、そういうのには非協力的なんですよね」
「そうなのか?」とアルスは、
(じゃ、なんで今は、そんな魔具をリンリンに貸したりしてるんだろ?)
と疑問に思った。
もちろん、エイル陛下の恋心を叶えるためだけに門外不出と言える魔具を貸し出しているとは、アルスには知らなくていい事である。
「そんな事よりも、早く温かいうちに食べてくださいよ。エイ……いえ、食堂のお姉さんのご厚意を無駄にするつもりですか?」
「あっ! そうだな」と慌てて、アルスは口に運んだ。
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