第8話 白昼での水浴び

 レナのために今回の戦争の情報を掴む前に、まずは彼女の服を買いに服屋に向かうが、その前に体を洗ってもらう事にする。

 汚い身なりままでは可哀想だし、俺が不審な目で見られるかもしれない。

 不審な目で見られると、変装がバレてしまう確率が高くなる。

 そして日本人とバレる可能性が高くなる、多分。

 まあそういう事を考え、小川か水汲み場を探すため、まずは路地を通りながら大通りの反対側の道に出ようとする。

 反対側の道に出ようとすると、奥に木々が植えられている緑豊かで小さな広場に出た。

 その広場の真ん中に立派な水汲み場がある。

 水汲み場の見た目は半分が蔦に隠れていて壁に刺さった数本の管から水が流れ、管の上の壁には国旗が描かれた盾を持ち、旗を掲げる女神の絵が彫られていた。

 その水汲み場がある広場は意外にも閑散としていて誰もいない、他人の目が気になるヴァイスの体を洗うには充分の場所だった。

 あ、良い子はこんな所で全裸になるような真似しちゃ駄目だぜ!

 俺は辺りを見渡し、水汲み場に向かう。

 俺は水汲み場に着くと、水温を確かめるため、水に手を当てて確認する。

 ううっ…水がキンキンに冷えてやかるっ……!


「……ヴァイス、この水冷たいが大丈夫か?」


 まるで氷水が流れてるのではないか?

 と思う様な水がチョロチョロと管から流れていた。

 それもそのはず、雪が積もっている山脈に囲まれたこの国の地下水がその山脈の雪解け水だからだと俺は考える。

 心配そうな目で俺はヴァイスを見るが、彼女はケロッとしていて、 「はい、大丈夫なのです。」と、ヴァイスはそう言いながら頷き、突然着ていた服を脱ぎ出す。

 俺はそれを見て、慌てて直ぐに自分の両手で自分の目を隠す。


「ままま、待て!ここで今脱ぐのか!?」


 ヴァイスはキョトンとする。

 少し指と指の隙間を一瞬開けてみると、背中しか見えないが既に彼女は裸になっていた。


「ですが、服を脱がなければ体を洗うことは出来ないのですが」

「そうだけど、それなら隠す努力を……って出来ないよなぁ………」


 もう一度辺りを見渡し、大量の数の正方形の木箱を見つける。

 推測すると運搬用の箱だと思われる。

 近づき、持ってみた。

 ―――――軽い。

 まだ荷物を入れる前の箱なのだろう。

 俺はすぐに彼女の周りに積んでいく。

 積み終わったら彼女に背を向け、声を掛ける。


「もういいぞヴァイス。いや、もう脱いでいたか」

「別に私の体を見られても気にしないのですが………?」 

「それでも俺は気になるんだよ!………ったく」

「はあ………そうなのですか」


 まるで照れているような小さな声を出していた。

 どれほどの時間が経ったのか、彼女も終始無言で黙っていた。

 箱を軽く叩き、そっと箱の囲いから出てくると、彼女は綺麗な姿で出てくる。

 彼女の白い肌は一段と綺麗な肌を見せる。


「終わったのです………」

「そ、そうか」


 ヴァイスは緊張で震えているのか、小刻みに震えていた。

 すると腕を組み、彼女は俺に尋ねる。


「あの、服はどうすれば良いのでしょうか?その………寒いです」 「…………………はっ!」


 しまった!

 ヴァイスの替わりの服を用意していなかった。

 というより、震えてるのは緊張じゃない、寒いからだ。

 俺は馬鹿か!早く何か着せないと。

 でも着ていた服は泥や煤、埃などで汚れてるし、所々破けていた。

 俺はヴァイスの服の状態を見てをどうしようか考える。


 「クシュン!」


 ヴァイスは寒かったからか、くしゃみをする。

 ヤバイ、早くしないと、彼女が風邪をひく。

 急いで考えた結果、自分のシャツを彼女に着せ、下は少し汚れを取っておいた彼女の半ズボンを着させた。


「えへへ、シャツぶかぶかなのです」


 シャツが大きいからか、萌え袖みたいになっている。

 なんか、可愛いな……。

 

「今はそれで我慢してくれ、な?」

「はい、私はこのままで良いですけど」


 すると、彼女は俺のシャツを嗅ぎ始める。

 俺はヴァイスの突然の行動に戸惑う。


「待て、お前何してるんだ?」


 彼女は俺の言葉にキョトンと呆ける。

 俺はその反応に何か変な事を言ったんじゃないかと思った。


「何って、嗅いでるんです」

「いやいや、それだけは止めろ」


 俺は真顔で嗅ぐのを止めるよう話す。

 するとヴァイスは残念そうな顔をする。


「でも私、この匂いが好きなんです。それでもダメですか?」

「ああ駄目だ、恥ずかしいから」

「そうですか、わかったなのです………」


 ヴァイスはションボリと悲しい顔をしていた。

 というより、女の子はそうやっていつも人の服を嗅ぐのか?

 しかも、俺の匂いが好きとか物好きだな。

 いや、そんな事をしている場合ではない。

 早く服を買って、情報を聞き出してレナの所に行かないと。

 

「もう着替えたか?着替えたら早く行くぞ」

「あ、はいなのです!」


 ヴァイスは良い返事をし、俺の腕に抱きつく。

 俺は恥ずかしく感じたと思ったが、凄い力でメキメキと音を立てながら俺の腕を潰すような力だった。


「あ、ヴァイス、その離れてくれないか、もしくは力を弱めることは出来ないか」

「ええええ、これだけは許してくださいなのですよカズト様。」

「いやいや、腕潰れるから!優しく、優しく抱きついてくれ!!イタタタイタイイタイイタイ!!!おい聴こえるか?腕がメキメキいってるんだよ!!良い服を買ってあげるから、だから優しくしてくれ!」

「わーい!カズト様、だーいすきっ!!じゃあ、力を弱めるのです」


 そう言いながら彼女は力を弱め、痛みが引いていく。

 というか最初から弱くしてくれ。

 ヴァイスはガッチリ離れないまま、ピッタリくっつく。

 もう仕方無いからこのまま歩いて服屋へと向かう。

 というか、これを拒絶したら何をしでかすか分からないからな。

 その前に木箱をヴァイスと協力して直すが、その時だけは離れてくれた。

 彼女は物が入ってないとはいえ、俺の何倍の個数の木箱を運ぶ。

 ヴァイスの民族は人間より腕力があるのだろう。

 テキパキと箱を元の場所に置くと、すぐさまヴァイスはまた腕に抱きついた。

 ちゃんと力を弱めて。


「では服屋へ行くのです!服屋へ!!」


 ヴァイスは凄い力で引っ張る。

 まるで大型犬に突然引っ張られるような感じがした。

 急に引っ張られた俺は前方に倒れそうになるが、体勢を立て直した。

 それにしてもホントに力が強い。

 こんな華奢な体なのにプロレスラーみたいな力を秘めている。

 これが魔族の力なのか。

 そう考えながら来る前に来た路地とは逆の路地を通る。

 暗い路地を通り、俺たちは明かりの強い方へと向かっていく。

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