転移転生者が嫌われる異世界で君主に成り上がる俺

ヨッシー

第1話 翠眼のエルフ

 ―――ペルソナ・ノン・グラータ。 

 外交用語としてよく使われる言葉。

 意味はラテン語で「いとわしい人物」「好ましからざる人物」を意味する。



 俺はいつもの平凡な生活を送っていたのに、どうして俺は今、両手を空高く挙げて、エルフの女の子に銃口を向けられているんだ!?


「………貴方達異世界人なんて存在しなければ良かったのよ。ニホンジンの貴方はここで死んでもらうわ!!」

 

 本当にどうしてこうなったんだああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!



 時間は少しだけ戻る。

 俺の名前は炬紫一翔こむらさきかずと、どこにでも居る、何の変哲もない只の高校生だ。

 そんな俺は、先程まで平凡な学生生活を送っていたはず………。

 それなのに俺の目の前には今までの日常とは思えない光景が目の前にあった。

 周りは煙や霧かよく見えなくて分からないが、血肉や火薬の臭いがして、道の至る所には腸が飛び出た人、顔や手、足が吹っ飛んで「死にたくない」や「殺してくれ」などの多くのうめき声が響き、怪我人やしかばねがそこらじゅうに横たわっている。

 最初この光景を見たとき映画かドラマの撮影、もしくは何かの爆破テロかと思ったが、遠くを見渡しても煙に包まれていて見渡す事が出来ない。

 すると突然、一気に吐き気と恐怖が出てきた。

 多分その場にいる感覚が、臭いが、光景がそうしているんだろう。

 しかし、俺はこの光景をゲームや映画などで何度も見てきたはずだ。 

 

 だが現実は違う、それを思い知らさせる状況だった。


 俺は心が落ち着くことが出来ず、うめき声が聞こえる場所から怖くなり、逃げた。

 同時に何かここでの手がかりを探せるのではないか、そう思い走り始める。

 とりあえず携帯が手元にあったので、真っ先に家族に電話しようとするが、全然繋がらない。

 どうやら電波が届いていない、圏外のようだ。

 俺は携帯をポケットに仕舞い込んだとほとんど同じ頃に辺りの煙も段々と晴れてきた。

 しかし、自分の目に映ったのは見慣れた日本のアスファルトの道と電線、そして同じような家々が並ぶ閑静な住宅街ではなく、石畳の道とレンガや石で出来た家が並ぶ遠い異国の町の風景だった。


 俺は足を止め、「俺は悪夢を見ているのか?」と口から言葉が漏れた。

 しかし、そこらに転がっている物にも触れるし、もちろん定番のほっぺを強くつねった。

 頬が痛くなるまでつねってみたが、じわじわと痛くなるだけだ。

 俺はここで今居る場所が夢ではないことがわかった。

 そこで俺はじっくりと考えていると、俺は二つの仮説に辿り着いた。

 ひとつは有り得ないが時間旅行タイムスリープだ。

 景色を見て、日本ではなく異国、特にヨーロッパの景色にそっくりである。

 そしてヨーロッパは過去に何度も戦争が起きていたが、最後のヨーロッパでの戦争は生まれる数年前に起きたユーゴスラビア内戦が最後だったはず。

 だが、もしユーゴスラビア内戦にタイムスリップをしたのなら、街中では近代的な自動車や電線などが見えるかもしれない。

 しかし、近くにあった壊れた自動車はまるで博物館にあるような古い自動車で、それよりも多く存在するのは馬の死体と焼けたり、車輪が壊れた馬車である。

 そう考えればこの時代はユーゴスラビア内戦よりも前の戦争の第二次世界大戦になるが、その頃はもう馬車は衰退していて自動車が多く存在したはず。

 そう考えるとこの世界は自動車がまだ登場した頃の第一次世界大戦以前という事になる。 

 そしてもうひとつの仮説は異世界に召喚されたかもしれない。

 ただし異世界と言っても俺は小説や漫画などの情報しか無いが、その作品とかを見比べて確認したいと思う。

 まず第一に景色では判別はできない。

 何故なら先程考えた通り、まるで古いヨーロッパの街並みのような景色である。

 なので今できる確認方法は周りに横たわっている死体とかを見ながら人間とは違う種族を見つけるか、天体や空の景色が普通とは違うかを細かく調べる。

 だが生憎あいにく、空は煙の所為か真っ黒に曇っているため太陽、もしくは月などの天体をを見ることはできない。

 なので、人種を調べるため死体を見ることから始める。

 冷静に考えたら俺、何で死体を探ろうとしているんだろうか………。

 普通なら気持ちが悪くて、吐いて、小便漏らしてもおかしくない状況なのに………。

 まるで今の俺が今までの俺じゃないようだ。

 だけどこんな頭がおかしくなっている状況がチャンスだろう。

 とりあえず探ろう、探るしかない。

 


 まず最初に緑色のような迷彩服を着ている人たちを見たが、彼らはみな俺と同じ変哲もない只の人間だった。

 やっぱり俺は時間旅行タイムスリープしているのか………。

 つまり一つ目の仮説が正しければ、俺は何かの衝撃で過去の世界に来たのか。

 異世界だったらこの後どう生活すればいいかも検討付かないし、魔法もそういった物も感じないし、見つからない。

 なら、この過去の世界で予言者とかにでもなって金持ちになるか、もしくは今後起きる災厄から助けるヒーローとかになるのも悪くないな!

 だが、次に調べた軍人によって時間旅行タイムスリープの考えが揺らぐ。

 次は自分と見た目が同じ軍服を着ているが、軍服は紺青こんじょう色や鼠色で、頭頂部に鉄で出来た角のような鉄兜てつかぶとをつけている人を見つけた。

 瞳孔は青色や緑色が多く、鉄兜を外すと黄金色こがねいろに輝く金髪のロングヘアーが多い。

 というより、全員だ。

 しかも、耳の先は尖がっている。

 

 あ、エルフだ。

 

 と思ったが、その事実が分かった瞬間落胆した。

 ははは、冗談だと言ってくれよ………。

 異世界なら何で近代的な武器とか持ってるんだよ、杖を持てよ、剣を持てよ、弓を持てよ。

 何で鎧じゃなくて軍服なんだよ、おかしいだろ!

 体力も強くなったように感じないし、変わったのは死体も弄れる様な頭のおかしい精神じゃん。

 ええええ、じゃあ俺は知識豊富で近代化された世界で一体どう無双するんだよ!


 パキッ


 すると後ろから小枝が折れる音がした。

 振り向くとそこに銃を構えた一人の兵士が立っていた。

 

 「う、動くな!一歩でも動いたら殺すぞ!!」

 

 えっ、いや嘘だろ!?

 俺はここに来てそんなに経ってないのにもう殺されるのか?

 って、そんな事を考えている場合じゃない!

 ヤバい……体が震えてる………。

 俺は恐怖で怖がっているのか。

 クソッ、冗談じゃない!早く逃げなきゃ。

 ………いや待てよ、銃から逃げれるわけないじゃん。

 逃げても追い込まれて殺されるだけだ!

 なら、ここで戦うか?

 俺はそう思って、近くに落ちている泥だらけの拳銃を拾い上げる。

 その俺の行動を見た兵士が、俺に銃口を向け、引き金に指を乗せる。

 そして沈黙が数秒続いた………。

 

 「………って、無理だあああああああああああああ!!」

 

 俺は拳銃を投げ捨て、銃口を構える兵士に向かって走り出す。 

 というか、銃なんかそもそも撃った事が無いのに当てれるか!!

 クソッ、これならどっかの高校生探偵の様にハワイで親父に教われば良かったんだ!!

 だが、一か八かだ。

 どっかの番組で銃口の先と引き金をよく見れば弾は避けれるって見たような気がする。

 それを行って、弾を避けて、あいつにタックルをすればイケる!!

 って、バカか俺は!そんな事普通の人間が出来る訳が無いじゃないか!!

 厨二病だった頃に弾を避ければなんかかっこいいとか考えてた時に、確か約毎秒900メートルのスピードってどこかのサイトで読んだはず。

 約毎秒約900メートルのスピードで飛んでくる弾をどうやって避けるんだよ!!

 冷静さ失ってるし、もう疲れてきたよ。

 嗚呼、神様!

 今度生まれ変わったら、収入は普通より上の家庭で、幼馴染と義理の姉と妹と、それに許嫁いいなずけが居る世界に転生させてくださいっ!!

 すると兵士は俺の行動に驚いたのか、急いで引き金を引き、銃を発砲する。

 俺は死ぬと思い、目を瞑るが、近距離で発砲した弾は顔の右側を掠める。

 そして、ボルトアクション式のライフルだからか、装填に時間を要している。

 多分新兵なんだろう、ただ引いてまた装填するだけなのに、それとも慌てているのか?

 なら今がチャンスだ!

 タックルをして、どんな手段でも気絶させよう。 

 俺はそう考えながら、その兵士の目の前に来る。兵士は驚いた表情で銃を装填しようとするがもう遅い。

 俺はその兵士に抱きつき、一緒に地面に倒れる。

 

 「よ、よし捕まえた、あとはこいつをどうしようか………って、あれ?」


 その兵士は俺がタックルで押し倒した衝撃で気絶していた。

 俺はそれに気づくと、疲れが肩にどっと来て、溜め息を吐きながら俺は言う。


「よ、よかったぁ………!!!」

 

 ………いや、まだ安心するのは早い。

 俺はその兵士が気絶では無く死んだのかを確認するためにそっとひっくり返し、鉄兜を外す。

 

 ―――――寝ているだけで、まだ息はある。

 死んでいるのではなく、気絶しているだけか………。

 俺はすぐに殺すべきか考えたが、俺にはそんな度胸がない。

 とりあえず逃げるべきか。

 そう思った俺はこの兵士の近くで顔などをよく見てみるとただの女性の兵士だと思っていた兵士が女エルフだったことに俺は気づいた。

 俺はそれに対して、空に拳を天高く挙げ、ガッツポーズをしながら心の中で叫ぶ。

 

 (き、金髪翠眼きんぱつすいがん美少女エルフだあああぁぁぁ!!!!!!!!)

 

 実際に大声で口から叫びそうになったが、死体や怪我人が多数転がっていたり、横たわっていたりしている場所だ。

 この状況を見ると未だにこの町では戦争が続いている場所かもしれない。

 だから、こんな所では大声は出せない、ホントは声を出したいけど………。

 だが、よく見ると本当に綺麗な女の子のエルフだ。

 髪の毛も腰まで届くほど長く、そして繊細だ。

 顔もモデルやアイドルのように奇麗に整っていて。

 これがモデルや俳優、女優で見られる顔の黄金比か、って言う位に完璧だ。

 そういえば銃を向けられた時のあの目はエメラルド色に輝いていて、

 背の高さは俺より少し低めだが、見た目は俺と同じ高校生とも変わらない高さだ。

 しかし、見惚れている場合ではない。

 左腕から血が少しだけ流れて、服が血で染まっている。

 出血が酷い、倒れた衝撃で出血したのかと思ったが、後頭部とか背中には目立つような大きな傷はない。

 俺を殺そうとした奴だし、このまま放置しようとしたが、見殺しにはできない自分がいる。

 それに助けたら何か恩返しをしてくれるかもしれないし、助けるのも悪くないかもしれない。



 そう思った俺は近くの兵士の死体から傷口を洗うための水筒と、偶然衛生兵の死体も近くにあったので包帯もゲットした。

 いやー、ここで元保健委員の技術が試されるとは、まあこんな大きな怪我をした人を助けたことが無いから出来るか分からないけど………。

 よし、まずは服を脱がさないとな。

 決してエルフの裸が見たいとか………思ってないし。



 ―――――とりあえず左腕を洗って、包帯で巻いた応急処置は終わった。

 女性の体を触るとか前の世界でそんな事が殆どなかったからな。

 役得、役得………いやいや違う違う。

 本当に助かってよかった、うん、良かった。

 すると突然、その怪我をしていた女エルフは目を覚ます。

 彼女は辺りを見渡し、俺を見つけた瞬間、怯えた顔で呼吸が荒々しくなり、すぐにまた辺りを見渡す。

 その女エルフは近くに落ちている拳銃を見つけると、その銃を手に取って銃口を俺に向ける。


「両手を上げなさい、ヒューマン!」


 彼女の顔は怒りと恐怖で満ちていた。

 俺は言われた通りにすぐに両手を挙げ、この世界が違う世界だから言葉が通じるわけないと思ったが、一応日本語で言う。

 ………あれ? そういえば俺、ちょっと前からもそうだが彼女の言葉を理解してなかったか?


「俺はお前を助けようとしただけだ。た、だから他は何もしていない。信じてくれ」


 すると、彼女は驚いた表情で話し始める。


「あ、あなた、ヒューマンの言葉じゃなくてエルフ語を喋れるの?」

 

 そう言った彼女だが、次の瞬間痛みに襲われたのか、突然声を出す。


「ッッ!?」

 

 彼女は右手で自分の左腕を押さえ、持っていた銃を地面に落とす。

 俺は痛む彼女に心配して近づく。


「あ、動かない方が良いよ、怪我してるから。」


 そう言うと、彼女はまた銃を拾い銃口を向けるが、数秒で溜め息を吐いて銃口を下に向ける。 


「あ、貴方が私を処置をしたのね。一応感謝はしておくわ。でも、私は貴方の敵よ。な、なぜ私を助けたの?」

 

 彼女はそう言うが、俺は思っていたことを口に出す。


「そ、それは、人として当たり前のことだから、かな?」

 

 そう言うと、彼女は呆れた顔をする。


「はっ、ヒューマンなんて、貴方達なんか野蛮なオーグと同じよ! 下衆げすで残酷で下品なのよ」


 俺はエルフのその態度にムッと胸糞悪く感じ、彼女に反論する。


「オイオイ言いすぎじゃないか?あと知らねぇよ、ンな事。だって俺はこの世界の人間じゃない、『日本人』だからな? この世界の事なんか全然ミジンコほど知らないからな、フン!!」

「あなたそれ本気? 私達のエルフの国とあなた達ヒューマンの国はもう長く戦争をしているのに知らないなんて………って、そういえばさっき貴方ニホンジンって、まさか貴方!?」


 そう言うと、突如彼女はまた銃口を俺に向けた。

 俺は彼女の行動に驚き、銃を下すように説得する。

 

「ま、待て!! 落ち着けって、取りあえず銃を下せ」

「落ち着け? その無駄口を叩くのは止めなさい!!」


彼女は大声を出し、睨んでくる。

俺は理由を聞こうと彼女に質問をする。


「無駄口って、俺が一体何をしたって言うんだよ」

「ニホンジンの分際でしらばっくれないで!」


 そして彼女が吐いた次の言葉を俺は信じることができなかった。


「あなた達ニホンジンのせいで私達の世界はとても長い戦争期に入ったのよ!!」 

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