うつほ草紙

遠堂瑠璃

第1話 始まり

 コオロ……、コオロ……。


 聴こえる。

 荘厳な重い鈴の音のように。

 混濁の海を、穏やかに掻き回す。


 一本の太い棒を、互いの手で交互に握り、契りを交わすが如く動かす。

 時折顔を上げ、楽しげに笑い合う。

 そして、眼を重ねて確かめ合う。


 遠い神々から、この場所を仰せつかった。

 二人で造りあげる、國。

 こうして共に、全てが交じる海を掻く。

 握った太い棒の先に、その海の重みをしかと感じながら。


 この中に、命となる全てが沈んでいる。

 二人の子となる、全ての命が。


 互いに生まれたばかりの、無邪気な夫婦神。

 ここにはまだ、二人以外の何も生まれ出でてはいない。


 命を宿す前の、國と子たち。


 どのように育んでいこうか。

 眼と眼を重ね、考えあぐねる。


 

 やがて目交まぐあいて、確かめ合う。


 ここに生まれ出ずるは、二人の子。

 愛しい可愛い、我が子たち。


 喩え骨を持たずに生まれようと、この母の躯を焼こうとも、一人たがわず愛しい我が子。

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