第26話 お風呂上がり

 こんこん。夕食を終えて、漫画をぱらぱらと読んでいると何やらノックが。


「入ってもいい?」


 ゆかりの声だ。部屋を見渡す。隠さないといけないものはないな。うん。


「いいぞ」


 入ってきたゆかりの姿を見て、胸がどくんと高鳴る。暑くなってきたせいか、薄手うすでで袖も短めになったパジャマ上下に、長い髪をお団子状にまとめている。お風呂上がりなのか、髪が湿っていて、それがまた色っぽい。


 落ち着け。深呼吸だ。


「どうかした?」


 ゆかりは、すーはーすーはーとしている俺を見て不審に思っている模様。


「い、いや、なんでもない」

「息が荒いよ。大丈夫?」


 少し心配そうに近づいてくる。そうされるとますますしんどいんだが。


「熱、あるんじゃない?」


 おでこに手を当てられる。どんどん顔が熱くなってくるのがわかる。


「ちょ、ちょっと。風邪とかじゃないんだ」

「でも、顔も赤いよ」


 ここに至っても、理由に気づいていないゆかり。ああもう、言うしかないか。


「そ、その。ゆかりの風呂上がりの姿が色っぽくてさ。それだけなんだ」


 自分で言ってて恥ずかしくなってくる。そして、ゆかりはというと。


「ふふ。みっくん、照れてたんだ」


 少し小悪魔っぽい笑みを浮かべて、にじり寄ってくる。


「こんなに照れてるの、初めてかも」

「そりゃ、パジャマもなんか薄くなってるし、お風呂上がりのいい匂いもするし……」


 しどろもどろでそんなことを言っていると、俺の胸にぎゅっと耳を押し付けて来た。


「凄くどきどきしてるんだね。そんなに良かった?」


 鼓動を聞かれるのがこんなにも落ち着かないとは。そして。


「そ、そりゃあな。つか、なんでゆかりは平然としてるんだ」

「別に平然としてないよ」


 今度は、俺の頭がゆかりの少し薄い胸に押し付けられる。ドクンドクンドクンドクン、と素早い鼓動だ。


「あ、ああ。確かに、ゆかりもドキドキしてるな」

「でしょ?」


 笑顔でそんなことを言われると、ますます鼓動が高鳴る。限界を感じた俺は、あわててゆかりから距離を取る。


「ちょっとタンマ」

「むう」


 ゆかりは不満げだ。


「このままエッチなことしてもいいよ?」

「今日は俺の方が限界だから、勘弁してくれ」


 ものには限度というものがある。ここまでドキドキしていると、行為の最中にクラクラ来そうだ。


「……仕方ないか」


 諦めて引き下がってくれたようで、助かる。


「その代わり、しばらくぎゅっとしてて?」

「わ、わかった」


 そうして、しばらくの間落ち着かない時間を過ごしたのだった。少し装いを変えるだけでここまでドギマギさせられてしまうとは、不覚。

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