第4話 間に合わなかった入学式

「ほっ、ほっ」

「はあ、はあ」


 二人して、高校への道をひた走る。

 もう入学式に間に合わないのはわかっているけど、せめて終わるまでには。


 と、横を走るゆっちゃんを見ると、息が切れていた。

 セーラー服は運動向きじゃないし、ほっそりとした手足を見ても、あんまり運動になれているとは限らない。


「ちょっと、休憩しようぜ」

「でも……」


 納得いかなそうなゆっちゃん。


「それだけ息が上がってたら無理だって」

「そうだね……」


 ゆっちゃんも、息切れしていたのはわかるのだろう。

 おとなしく、途中の花壇の近くにあったベンチにちょこんと座った。

 俺も、その横に座る。

 お互い、少し息を整える。

 入学式にはもう遅刻が確定なので、今更だ。

 せっかくなので、今朝のことを聞いておきたい。


「ゆっちゃん。あのさ」

「なに、みっくん」

「今朝だけど、なんであの電車に乗っていたの?」

「私の家からだと、あの電車が一番早いから」


 そんな身も蓋もない声がかえってきた。


「そういえば、みっくんも、昨日のうちにこっちに来れば良かったのに」

「いや、それはそうなんだけどな」


 荷物の発送とかで、それどころではなかったのだ。

 そう説明すると、納得したようだ。


「今頃は入学式、始まってるよね」

「まあ、そうだなあ」


 駅を飛び出したのが9時。今は9時30分。もうどうあがいても手遅れだろう。


「どうせなら、ゆっくり行かないか」

「え」

「今から行っても、居心地が悪いし。せっかくなら、高校までの道を楽しもうぜ」


 半分は慰めだったけど、半分は本気だ。

 1度だけの入学式だし、周りの景色を焼き付けておきたい。


「うん。じゃあ、そうするね」

「おう」


 そうして、俺たちは、ようやく、通う予定の、鈴木が原高校にたどりついたのだった。


 大きな正門に、大きな4階建ての校舎。

 これから、ここにゆっちゃんと一緒に通うのだと、思うと、わくわくしてくる。


「それじゃ、行こう」

「そうだね」


 ゆっちゃんはそう言って、自然に俺と手をつないできたのだった。

 え?俺とゆっちゃんってこんな自然に手をつなぐ仲だったっけ?少し考えたが、嬉しいのは確かだし、俺も手を握り返したのだった。


 正門に入ると、目に入るのは、延々と続く桜並木。

 風が吹くと桜吹雪になって、舞い散るのがとても美しい。


「綺麗……」


 その光景に、何か神聖なものを感じ取ったように、そう言う彼女。


「俺も、同感だな」


 桜並木が並ぶ道を、二人きりで歩くのは幻想的な光景だ。

 入学式に遅れたのは痛かったけど、こうして歩けるなら悪かったかもしれない。


「おまえと仲良くなったときも、桜が咲いてたな」

「うん。よく覚えてる」


 俺とゆっちゃんが仲良くなったのは少し変わったきっかけだ。

 その日にも桜が咲いていた。なんとも不思議なものだ。


「それにしても、もう完全に遅刻だよなあ」

「入学式、終わってないといいんだけど」


 ゆっちゃんの言うこともわかるけど、もう終わってる気もする。

 もう10時30分だし。


 ようやく、校舎前に到着すると、周りからは、近くの体育館から出てきたと思われる生徒がぞろぞろと出てきたいた。やはり、間に合わなかったらしい。

 ま、いいか。


 しかし、俺たちを見る周りが、何か奇妙なものを見る目なのが気にかかる。

 その後、クラス分けが張り出されている紙をみる。

 俺とゆっちゃんは同じクラスらしく、非常にラッキーだ。


「すいません。事情があって、入学式に遅刻してしまいまして。ほんとに申し訳ありません」

「同じく、入学式に遅刻しました。ほんとに申し訳ない」


 揃って教室に入ると、


「お二人さん、付き合ってるのか?」

「入学式の初日に二人で登校とは青春してるねえ」


 などなど。クラスの連中に冷やかされたのだった。

 ちょっとつらい。

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