第2話 痴漢ではなく幼馴染

「「えええーーー!?」」


 そんな叫び声を出しながら、固まる俺たち。

 何がなんだかわからない。

 そもそも、何で、ゆっちゃんがここに?


 俺たちが混乱している間に、電車は駅についたようだ。

 なんだか、駅の事務員らしき人たちが乗り込んでくる。

 あの、えっと?


 ゆっちゃんの腕は俺をつかんだままフリーズ。

 それを見た人たちがどう思うかは明らかで。


「ちょっと事務所まで来てもらおうか?」


 事務員さんは、底冷えする眼で、俺を睨んだのだった。

 

 動揺したまま、事務員さんに誘導されるように連れられて行く。

 

 視線の先には、何やら保護されたらしき、ゆっちゃん。

 このままだと、やばい。そう思いながらも、流れに逆らうことができない。


 そのまま、俺は駅の事務所に連行されたのだった――


 そして、事務所にて。


「君、反省して罪を認める気はないのかね!?」


 そう威圧的に怒鳴る警察官のおっちゃん。ガタイが引き締まっていて、強面なので、非常に迫力がある。


「いや、ですから、俺はやってないんですってば!」


 怖い。

 でも、このまま罪を認めたらやばい。

 その一心で、必死に抗弁していた。


「複数の乗客の目撃証言もある。被害者の女性は、きちんと君の手を掴んでいたとな」

「いや、ですから、偶然なんですってば!」

「これだけ証拠は挙がっているのに、まだ認めないのかね。まだ若いのに、そんなだと先はないぞ!」


 警察官のおっちゃんが本気でキレている。

 このままだと袋小路だ。

 さっきから、冷や汗が出て止まらない。

 そうだ。


「あの。スマホを使わせてください。あの子は実は俺の知り合いなんです。ラインを見せれば潔白だと……」

「罪を認めないばかりか、今度は虚言か?いい加減にしたまえ。後は署で話を聞く」


 潔白を主張したのが、逆効果だったようだ。

 痴漢、痴漢、痴漢。

 バラ色の高校生活が、灰色、いや、黒色に塗りつぶされていくのがわかる。

 お袋は、親父は、信じてくれるだろうか。

 友達は。ゆっちゃんは。


 そんな色々が、脳裏をかけめぐる。

 その時。


「その人は、私の友達なんです。放してあげてください!」


 事務所の外から、泣きそうな声で、そう必死に叫ぶ女の子。


 ゆっちゃん。


「ん?君は、さっきの……安心しなさい。君は被害者だ。もうこれ以上傷つくことはないんだ」


 俺に対するのと打って変わり、ゆっちゃんに優しい声をかけるおっちゃん。

 駄目だ。話が通じてない。


「ですから、本当に私の友達で、私の勘違いなんです。このラインを見てください」


 そう言って、ラインの画面をおっちゃんに押し付けるように見せつけるゆっちゃん。

 毅然として立ち向かう姿は、不覚にも、少しかっこいいと思ってしまうほどだった。

 

「これが何だというんだね?」

「この、みっくん、というのが彼です」


 そう言って、俺を指差す彼女。

 それで、おっちゃんもようやく自分が何かを勘違いしていると気づいたらしく。


「君、それは本当なのかね?」

「はい。俺のスマホを持ってきてください。それでわかると思います」


 こうして、痴漢冤罪一歩手前の騒動は、ようやく幕を閉じたのだった。

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