痴漢に間違われたと思ったら、再会を約束した女の子でした

久野真一

プロローグ 再会とお付き合い

第1話 「この人、痴漢です!」

 ある年の4月。外を見ると、桜が満開だ。

 俺、西条幹康(さいじょうみきやす)は、今日から高校1年生になる。

 

 満員電車にギュウギュウ詰めになりながら、ひとり呟いた。


「楽しみだな……」


 周りは皆、この暑苦しい空間で息苦しそうにしている。

 きっと誰もが誰も、早く、この憂鬱な時間が終わってくれるように願っているだろう。

 そんな中、何故、俺がこんなにこれからの時間を楽しみにしているかといえば――


『今日の入学式、楽しみにしてるね♪』


 そこには、俺が想いを寄せる幼馴染の女の子からのメッセージ。


『俺も会えるのを楽しみにしてるぞ。ゆっちゃん』


 月並みな返事しかできないのが少し情けない。

 

 お相手は、小学校の頃に再会を約束した幼馴染の女の子。ゆかりことゆっちゃん。

 ラインIDを交換していた俺たちは卒業後もメッセージのやり取りをしていたのだ。


 それから約3年。


 彼女の親御さんが俺を預かってくれることになることが決まった。

 そうして、晴れて彼女と再会できることになったのだった。

 

 彼女の家庭と家族ぐるみのお付き合いがあったわけではない。

 今もって、預かってくれることになった理由は不明なのだが、そんなことはどうでもいい。


 彼女にこれから会える。しかも、一緒に生活まで。あわよくば、お付き合いまで――

 これは先走り過ぎか。いかんいかん。

 まずは、彼女と再会できるだけでも満足だ。


 突然、電車が突然大きく揺れた。

 あわてて、俺は片方の手を手すりにつける。

 もう片方の手はといえば、誰か女性のお尻に。って。


(まずい……!)


 血の気が引いた。

 痴漢冤罪。

 あわてて、手を引っ込めようとするも時遅し。


「この人、痴漢です!」


 俺の手を引っ張り上げて、そう叫んだ女の子と目があった。

 あれ?どこかで……いや、さっきまで見ていたような。


 そして、痴漢の声にざわつく電車の中で。


「みっくん?」


 聞きなれた、俺のあだ名。


「ゆっちゃん?」


 反射的にそう呼び返していた。

 ということは。


「「えええーーー!?」」


 あまりな再会に驚きの叫び声を上げる俺たちの絶叫で、電車の中は満たされたのだった。

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