ドッペルゲンガーと会わせない

「昨日バイト先に来た?そっくりな人みてさー」

「えー、いってないよ私」

「マジで?じゃあドッペルゲンガーかなぁ」

「うっそー、マジ怖い」

「あったら死んじゃうらしいよ」

「ないわー」


 そうしてあなたのドッペルゲンガーが出没していることに私は怖くて怖くて仕方がなくなってしまう。

 だって、ドッペルゲンガーと会ったら本人は死んでしまう。大切なあなたが死んでしまう。

 そう知っていたものだから私はあなたのドッペルゲンガーを探して回る。

 クラスメイトに聞いて回る。商店街を駆け回る。あなたの写真は私の思い出に欠かせないものだから、私のスマートフォンのフォルダにも沢山ある。

 あなたの変な写真を人に見せるのは憚られるから、ちゃんとした、変じゃない写真を選ぶ。

 色々な人が私の話を聞いて変な顔をする。気味が悪いと蔑まれる。ドッペルゲンガーなんて普通じゃないなと私も思う。だから、誰も私の話をちゃんと聞いてくれないの。

 だけどあなたに死んで欲しくないなと思って私はただ走る。

 あなたがいつも乗っている通学電車。私はあなたより先に駅のホームであなたを探す。

 学校からあなたが出たのは十分前。あなたはいつも十五分かけてこの駅に来る。

 ホームにあなたはいないから、ドッペルゲンガーがいないことに私は少しホッとする。

 そうしてあなたが駅へやってきて、私は一緒に電車に乗る。もしも電車にドッペルゲンガーがいたらいけないから急いで駆け乗ってあなたの乗る車両を私はしっかり見張る。あなたの見ていないところも見張れるように少し離れて私は座る。

 あなたは電車を降りてコンビニへ寄る。私は店内を見渡して、ドッペルゲンガーがいないことを確認する。

 スーパーを通り過ぎて、公園を横切って、濃い青色の屋根の一軒家。あなたの家に歩いていく。

 そうしてあなたが無事に家にたどり着いて、私はようやくホッとするのだ。

 そうして見ている。

 ドッペルゲンガーが出てこないように。あなたの生活をドッペルゲンガーが奪わないように。


「あんた、誰……」


 声がして、しばらく前に帰ってきたはずのあなたが私の前にいる。

 ドッペルゲンガーだ。

 あなたのドッペルゲンガーは私に襲いかかってくるけれども私は何とかドッペルゲンガーを捕まえる。あなたと会わせないように私の部屋に連れていく。

 私の部屋に鍵をかけて、ドッペルゲンガーを閉じ込めて、私はあなたの生活を見つめてる。

 出して、出してよとドッペルゲンガーがすすり泣く。

 その声はあなたにそっくりで、私はそんなドッペルゲンガーに怖さと、少しの魅力を感じてしまう。

 あなたとドッペルゲンガーを会わせない。

 今の私が見つめているあなたを失いたくないから。私はあなたを見つめてる。〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る