ノットリ
「おはようございます」
「あれ?どうしたんだお前」
俺が出社すると課長が不思議そうな顔で聞いてくる。
「え、何がですか」
「おはようございます、ってさっき出社して俺としばらく会話してたじゃないか」
「え、ええ?」
「トイレ行くとか行って離席して……寝ぼけてたのか?」
そう言われて混乱しながらトイレに行くと俺と出会う。俺がもう一人いる。
「え、ええええ?」
「うっわあ、鉢合わせたか。やっぱり」
「なんなんだよ、なんなんだよ……」
「はい、いいから帰った帰った」
そのままトイレから引きずり出される。会社から放り出される。これはあれか、ドッペルゲンガーってやつか。
そうして俺は家に帰って一日過ごす。
夜になるともう一人の俺がやってくる。
「ほら、出てった出てった」
「え、ちょっと説明を、説明を」
「お前の生活、もらうから」
そう話しながらもう一人の俺は強引に俺から追い出す。俺の家から。
夜道を歩きながらスマートフォンで職場メールの日中の履歴をチェックするとばっちり仕事している。
「これはすっかり俺の生活を乗っとるつもりらしい」
それからというもの、朝になると俺と同じ学校でもう一人の俺が出勤して、俺が職場へ行くと俺はもう一人の俺につまみ出される。自分の家に帰れば夜にはもう一人の俺が帰ってきて放り出される。
そして誰もそれに気づかない。
俺はすっかり社会の居場所をもう一人の俺に乗っ取られてしまったらしい。
「なるほど、なるほど」
そうして俺はにっこりと笑った。
* * *
「おかしいぞ?」
男は銀行で思わずそう呟く。今日給料が振り込まれたはずの口座の残額が少ない気がする。
給料が振り込まれていないのでは、と会社で経理に尋ねてみるが確かに振り込んだと逆に文句を言われてしまう。確かに履歴も残っている。
それからというもの何かがおかしい。買ったはずの高い酒の減りが妙に早い。
それに思っていたよりも仕事がどうにも忙しい。はじめはやりがいと思ってごまかしていたがこんな仕事を毎日続けていたら体を壊してしまう……
そんなことを考えていると虚しくなって男は呟いた。
「はぁ……誰か代わってくれないかなぁ……」
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