サキは魔性の女

 サキは魔性の女、っていうと語弊があるけど人を狂わせる。はじめは小学一年生の時にクラスの男子のタダシ君が少年特有の好きな子に意地悪する心理でサキの消しゴムを取ったのだけど、サキから物を取る行動がどんどんエスカレートし、最終的にサキの目の前でサキの机を取って「誰にも渡さないんだよ!」と叫んで机を窓から放り投げる、サキに襲い掛かる、先生に羽交い締めをされて「うー! うー!」と叫ぶ。

 家族は年々サキに執着して父親はサキが出かけたりお風呂に入ると下着を盗みだすし、サキが寝ている時に自室に入ってきたりして一線は越えていないけどそれは越えていないというだけで、サキのメンタルをがりがり削るし、母親はサキへの依存と執着と独占欲が強くなりすぎて夕飯の時にサキのスマートフォンが通知を鳴らすだけで机をバンって叩いて叫びだす。サキの家庭教師は勉強を教えるふりをして体を撫でまわして、サキの母親に追いだされる。サキのクラスの男子生徒がサキはそもそも誰とも付き合ってないのにビッチだビッチだと言い出してサキに強引な迫り方をする。

 列挙していくとサキの人格に何かしらの問題がありそうだけど、実際のところサキはとてもいい子だ。困っている人がいれば声をかけるし実際に助けようとサキの力が及ぶ範囲で一生懸命頑張る。

 でも、そうやって手を差し伸べた人すらサキの魅力で狂う。

 サキは傷つく。サキが悪いことは何もないのだ。だけどサキが関わることで人がおかしくなるのはこれまでの歴史が証明していて、サキはそれがもう世界の法則なのだとうっすら気づいているけどそれでも人と関わることが止められなくて何度も傷つく。

 そして泣く。


「もうやだよ、やだよぉ……」

 サキは私に泣きつく。私はサキを抱きしめて慰める。

「サキは悪くないよ。おかしいのはみんななんだよ。どう考えてもサキが傷つく必要なんてないんだよ」

「ありがとう……あなたしかおかしくない人、いないと思う……」

「いるよ、たくさんいる。ただまだサキが出会えてないだけだよ。世界はとっても優しい」


 サキが私に心を許して泣きつくのは小学生からの幼馴染で唯一サキに危害を与えていないで友達付き合いをしているからだ。

 私はサキを傷つけないし、サキはそんな私に心を許してさらに泣く。 

 私はサキのことが好きなので、サキに狂って危害を与える人間に制裁を行う。小学生の時のタダシ君が帰り道を歩いている時に石で頭を殴って、前歯を叩き折って睾丸をつぶして、サキの父親はパパ活に誘い込んで写真を撮って脅したし、サキの母親は毎日毎分のように私から送り続けられる匿名のショートメッセージで気が参っていくし、クラスの男子生徒たちは階段や駅のホームから背中を押して一人一人片付けていく。サキと仲良くなろうと勇気を出した親切な人もいたけれどそんな存在は邪魔で暴力を振るって昏倒したところで服を脱がせて写真を撮ってやると次の日からサキに近づこうなんて誰も思わない。

 サキは何も知らないで私の腕の中で泣いて、帰る場所がないから私の家に泊まっていく。

 明日も今日が続くといいな。〈了〉

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