第6話 ラングル鉱山

その名を聞いた瞬間、ルナの眉根が微かに動く。

リックは嫌そうな顔を隠しもせず頭をかいた。


「ラングル鉱山ねえ…これまた面倒そうな案件を…」


報酬三十万と聞いても文句を言わざる得なった。


それもそのはず。


ラングル鉱山は高さ約二千五百メートル、半径十キロにわたる樹海を有している。


比較的大きいといえば大きいだろう。少なくとも老若男女誰でも攻略出来るかと言われれば確実に否である。


しかし、転じてただ登るだけと考えればこの山岳環境は特に珍しいことも無い。ましてや導線の無い道を歩き慣れた冒険者や日々鍛錬を続けるリックならばいとも簡単に麓まで制覇することだろう。まず問題にすらならないといった感じだ。


ならば何故苦言を呈したのか? 問題は呪詛山の由来に起因する。


半径十キロの樹海。

ここではキール族という独自の民族が生活を営んでいるのだが、この民族が厄介だ。


彼等は呪術を用いるのだ。


呪術とは生贄により『魔』を刺激し『呪』をこの世に原型させる。


キール族は外界との接触を断ち自らの生活圏を絶対保有と考えている。


樹海は呪いの温床とかしていた。

つまるところ、それは樹海を含むラングル鉱山一帯である。


彼等は蛇のように絡まった樹木で光を遮り敵を見つけては闇に乗じて葬り去る。

樹海には魔が練り歩き文字通り怪物も巣くうとされる。


別名『帰らずの森』


キール族含めラングル鉱山一帯は謎に包まれていた。


「争うどころか殺されそうなんだが? 襲われたらどうすんだよ」


「いや…まあ確かに危ない所だとは思うが噂に尾ひれが付いたのも事実だし…」


「危ない所って自分で言ってんじゃねえか」


「ダッハッハ……」


その返しに、さすがのクラブの苦笑いするしかなかった


キール族は自分たちの生活圏を守ろうとしている。逆にいえばその生活圏を荒らしさえしなければ彼らは決して襲ってきやしないのだ。


ただの好奇心で人の櫓を覗き見るなどして良いはずがなかった。


「大体ラングル鉱山なんかに行ってどうすんだ? 謎ってなんだいったい」


「そのことなんだが……」


クラブは軽く咳払いをすると真っ直ぐにリックを見つめた。…どうやらただの好奇心というわけでは無さそうだ。


「もちろん謎は多い所なんだが俺が解き明かしたいのは只一つだ。――なあリック。これだけ文明が発達したのに彼らは何故樹海から姿を現そうとしないか分かるか?」


「…自分達の文明を残すためか?」


「それも確かにあるかもしれん。だが呪術までつかって徹底的に人を遠ざける理由がどこにある。あれじゃあ自分達もおちおち樹海を歩けんだろう」


「確かに。じゃあなんだ?」


「―――断言する。彼らは何かを隠してるんだ。世紀に残る何かをね」


「どこにその証拠が…」


「ある。だがここではマズい。来てくれるならその証拠を見せよう」


「………」


誰もが思うだろう。信じたら負けだと。


冒険者とは厄介だ。


自己の利益のみを優先で人の庭を荒らすというのなら言語道断。報酬は確かに魅力だが事が事だ。断る以外の選択肢はなかった。


それがどうだ。


齢五十近くのオッサンが夢を語っている。宝箱を見つけた少年のようにキラキラと目を輝かせて。


ここで断ったら何でも屋でもなんでもない。

ただ意地の悪い大人だ。


「……死んでも文句言うなよ」


文句の一つはご愛敬。

旅支度をすますとリックはクラブの馬車に乗り込むのだった。

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