転生したら村を任されたので、発展させていきます。外伝2

白藤 秀

最高のお祭り

 俺が前世と呼ばれる記憶がある事を明確に意識したのは、リオンとして生きて五歳の頃、俺は流行り病にかかり生死の境をさまよった。

 その結果として、俺は日本と呼ばれる法治国家で農業を生業として生きていたことを思い出す。趣味と呼べるほどの物はないが、好きな事はあった。歴史書を読んだり、アニメや漫画を鑑賞したり、うまい料理を作ったり食べること。

 まあ、不幸にも熊に襲われその生涯を閉じ、第二の人生をリオンとして歩み始めた感じだ。


 今日、俺は最高のお祭りで至極の気分をリングの上で味わっている。

 そう、大陸全土から集まる魔獣使いの最高峰を決める大会・魔獣武闘会にて相棒のブルとともに出場し、見事ブルは優勝した。

 大歓声の中、俺とブルはリングの上をぐるりと一周して、歓声に応えた。

 会場中の人間が俺たちを見ている。実に気分がいい。

「大会を見事優勝したリオン・ブルペアには、賞金として一千万ゴルドーが贈られます!」

 リングの中央へ四人の男たちが木箱を担ぎ、リング中央に下ろすとリングを後にしていく。その中には勿論金貨がぎっしりと詰められていた。

 一千万ゴルドーか、四人家族が一生食っていくに困らない額だな。

 まあ、俺の使い道としては村の開拓やクランの運営費に消えてしまうのでほとんど残らないのだが・・・

「本大会の実行委員長より優勝のメダルと盾が授与されます。リオンさん。表彰台へお進みください」

 俺はリングの中央にブルと共に歩いていく。

「リオン・ブルペア、貴殿らの活躍をここに称え、優勝者の証であるメダルと盾を授与します。優勝おめでとう!!」

「ありがとうございます!」

 委員長は俺の首にメダルをかけ、次に盾を受け取った。

 四年に一度の祭典で最高の結果が残せたのはひとえにブルのおかげだ。ブルありがとう。

 ブモーって短く鳴くと頭を擦り付けてきた。可愛い奴め。


 明日まで大品評大会は続くのだが、俺は一足先に村へ帰るとする。代官の仕事もあるし、何より叔母に黙って出てきているのがバレてしまえば、何をされるかわからん。

 俺は一千万ゴルドーの木箱を荷馬車に積み込み、馴染みの商店へ向かう。そこで大会が始まる前に購入していた食料品を積み込んで村へ戻ることに決めた。

「リオンさん。優勝したんだってね。おめでとう!」

 店に着くと看板娘のアンネが出迎えた。癖のある茶髪にそばかすが印象的なこだ。

 愛想もよく、男性にも女性にも好かれているようだ。アンネ目当てに通う男性客もいるほどである。

「ありがと。昼間買った食料品を積み込もうと思って寄らせてもらったけど、いいかな?」

「いいと思うよ。今からつ積み込むならお父さん呼んでくるね!」

 彼女はそう言い残すが早いか奥へとかけていった。

 本当にここは品揃えが豊富だ。流石はあの子の師匠と言える。

「おお! リオン・ビーストマスター。優勝おめでとう!」

 後ろにアンネを伴っておくから恰幅のいい男性が現れた。頭には髪が薄くなったことを悟らせないための赤い帽子に口元には髭を蓄えている。馴染みの顔だ。

「ありがとう、おやじさん。でもビーストマスターってそれは言い過ぎですよ。だって、ブルは魔獣じゃなですから」

「それでもあの大会を制覇したのだから、四年間はそう呼ばれることになるね」

 あの魔獣武闘会を制したマスターは次の大会が行われる四年後までそう名乗る事をゆるされる。競技人口も多く、この大陸一の魔獣使いとしては一度は優勝したい大会である。

「これで最後だ。そのほかに入り用のものはないかい?」

「買い物リストとしてはこのくらいかな。急遽必要なものがあれば誰か来させるか、クランを通して発注をかけますのでその時は対応お願いします」

 俺はバラッドベアの毛皮で作ったローブを羽織りながら帰る準備を済ませていく。

 帝都を出る頃にはすっかり夜だろうが、ブルが一緒なので特に心配はない。

「まさか、これから帝都を出るのかい?」

 不安そうな顔でおやじさんが訪ねてくる。

「ええ、そうしないと予定が狂ってしまいますから」

「そうだとしても、最近この辺りの街道は物騒だ。せめて今日は帝都に宿を取るか、なんならウチに泊まって行ってもいい。女の子一人で夜道を歩かせられない」

「その話、もっと詳しく聞かせてもらえますか?」

 おやじさんは最近帝都近くの街道を荒らしまわっている盗賊団のことを教えてくれた。この大品評大会に合わせるように二ヶ月ほど前から帝都付近の街道で盗賊が出没し、街道を通る人を襲っているのだという。帝都を守護する守備隊や軍隊を動員し、賊を一網打尽時するべく出撃をしたのだが、見つかることはなく空振りに終わり今もまだ討伐されていない。盗賊のボスはボブスといい、この男の首には二千万ゴルドーの懸賞金がかけられているそうだ。

「それならなおさら行かないとな」

 懸賞金も魅力的だが、こいつらが貯め込んだ宝も魅力的だな。たくさん貯め込んでいるといいなー

「リオンさん、目がゴルドーになってますよ」

「そりゃあな。いい話ありがとう。また来る」

 そう言い残し俺はブルとともに商店を後にした。


 帝都を出てしばらくて夜のとばりが降り始めた。

 俺はブルが引く荷馬車にゆられながらのんびりと過ごしていたが、どうにもつけられているようだ。

「これは当たりかな」

 そろそろ鬱蒼とした森の中を走る街道だ。ここなら身を隠しやすいし、セオリーだと思う。

 俺は少しずつ荷馬車の速度を落としていく。

 すると街道を少し行ったところで五人の汚らしい男たちが徒党を組んで待ち構えていた。

「おう。止まりな」

 先頭に立つ無精髭の男がそう俺に命令する。

 その言葉通りに俺は、ブルに止まれの合図を送り荷馬車を停車した。

「命が惜しければ有り金と食料全部置いていきな。抵抗するようなら少し痛い目を見てもらう」

 後ろの方でナイフをペロペロ舐めているモヒカンの男が気になって話に集中できない!

「あんた達がこのあたりで騒がれている盗賊か?」

「他にそんな奴らがいるなら、捕まっているだろうな。オレ達は足がつくなんてヘマはしないからな」

「それで、数はこれだけなのか?」

「ふ、そんなわけあるか」

 男が指笛を吹く。すると街道のそばの森の中から出てきたのは同じように汚らしい恰好をした男達総勢五十人。

「おお。中々集めたね」

 俺は繁々と彼らを眺めた。どれも手入れされていない武器や武具。栄養状態も衛生面もよろしくなさそうだ。

 しかし、その盗賊達の中に意外な人物を見つけた。

「それで、ビーストマスター様は有り金全部置いていってくれるのかな?」

 ハルマだった。

 俺が今日、魔獣武闘会の決勝戦で戦ったあの男だ。彼の後ろには血走った目をしたレッドドラゴンが控えている。

「まさか、この盗賊達のボスってお前か?」

「おいおい。口の聞き方に気おつけろよガキ」

 大きな火球が俺の髪先を少し焦がしながら飛んでいった。

 おかげ俺の髪の毛が少しちりちりになっている。

「おい。女の髪を弄ぶ奴にろくな奴はいないぞ」

「うるせぇ! おい、お前ら。コイツを殺せ。そして、俺が手に入れるはずだったメダルと盾を奪え!!」

 おおおおおおおおおぉぉぉお!!!!

 男達は雄叫びを上げながら襲いかかってきた!!

 俺は、素早く荷馬車から木刀を取り出してとびおりるとブルを荷馬車から解き放つ。

 ブルはブモーと一鳴きし、躊躇なく盗賊達目掛けて突っ込んでいった。

 ボウリングのピンのように弾き飛ばされていく様はまさに痛快である。

「つぇあああぁぁぁ!!!!」

 盗賊の男が剣を振り下ろしてきたが、それを身をひねって避け、隙だらけの男に蹴りを入れすっ転ばせる。

「なに今の。襲うなら静かに襲わないとダメでしょ」

 後ろから襲いかかって来た男には顔面に木刀を食らわせた。

「少し落ち着け、今のどこに隙があった。やり直せ」

「おい。お前、殺気やるきあんのか?」

「手の握りが甘い。そんなんじゃ殺せない。やり直し」

「まだまだ。その調子だ。その調子だぞ。まだやれぞ」

「なんだ。なに震えてる?」

「ほれ、かかって来い」

 そんなやりとり、指導をしながら、三十分しないうちに盗賊達は動かなくなった。

 ある者は腹を抑えて悶え、腕が違う方に曲がったと大の男が泣き喚き、自らの吐瀉物の上に顔からつぷして気を失っている奴もいるようだ。

 ギュアアアアアア!!!!

 その声に振り向くと、レッドドラゴンがまたブルに倒されていた。その隣にはその主人も泡を吹き倒れている。

「さあて、臨時収入のお時間ですね〜」

 俺はスキップしながら泡を吹いて倒れている男の腹の上に飛び乗った。


 麦畑が太陽の日差しを浴びて黄金に輝いている。とても美しい光景だ。

「いやー。とっても溜め込んでいたね」

 鼻歌交じりに荷馬車を振り返れば溜め込んでいた財宝が積んである。元来ドラゴンは光物や財宝を集める習性があるため、奴らのアジトにはそういった金銀財宝の類が多くあった。その殆どを持って行けたらよかったが積みきれなかったので、これは!という物を見繕いました。あとあのクソドラゴンから鱗と牙、爪と睫毛、龍の涙をいただきました。これだけでもひと財産だ。

「さっさと帰ってこのドラゴン素材で武具や武器を作ってもらおう!」

 俺は村への帰り道を急いだ。


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