我が花嫁よ、共に在れ
「さぁ!着きましたよ!」
クロの言葉に、思わず口が開く。
私の目の前には大きな木のお屋敷。平屋の大きな大きなお屋敷だ。
入り口は大きな木の門で、ツノの生えた男の人2人が戸を開けた。
「ご苦労様です!ひぃさま、彼らは鬼です。見た目はイカツイですが、優しいですよ!」
「おいクロ坊、間違ってんぞ。俺らはカッケェだろ!」
「あーはいはい、それではひぃさま、ご案内します!」
クロが鬼を少し紹介し、楽しげなやりとりをする。
門をくぐる途中、鬼の彼らはお辞儀をし
「我らがひぃさまに幸あれ」
と優しげな笑みを浮かべていた。
門をくぐれば、お屋敷はさらに広く感じた。
庭の塀沿いには桃の木と桜の木が植えてあり、桜は蕾をつけ、桃の花は綺麗に咲いていた。
「いやぁ、今日はふー太もご機嫌ですね!」
「ふー太?」
「風のふー太ですよ。ひぃさまの背中押したり、花かんむりを作ってたあの子」
「風の子…」
「えぇ!元気ですよね!」
どうやら、花と舞う様に吹いていたり、私な花かんむりをくれたり、背中を押してくれたのは、「ふー太くん」という…子?らしい。
実体の無いヒトもいると知り、少し驚く。
「あ、山神様!」
ふと、クロが驚いた様に声を出す。
視線の先には…
「あ、黒い人…」
先程、市場の様な場所にいた時にチラッと来た人がいた。
黒地の着流しに、黒い長い髪。瞳の色は、金色。これが、山神様…。
不思議と、怖いとは思わない。気味悪いとか、拒絶反応も無い。驚きもない。まるで、もう会ったことのあるような安心感。
このヒトなら大丈夫、そんな考えが頭を過る。
「はじめまして、だな。我らが姫よ」
「あ、は、はじめまして、えっと、××…」
「もうその名は名乗らなくて良い。」
「え?」
慌てて、今までひぃさまと呼ばれ名乗ることのなかった名前を言おうとする。
しかし、止められる。しかも、もう名乗らなくていいとも言う。
どうしてだろうか、私の名前はコレなのに。
「お前は今から
「…」
聞いたこともない名前だけど、案外しっくりくる。
少し横を見てみれば、クロが満足げにこちらを見ていた。
「良かったですね!ひぃさま。ひぃさまは今日から本当にひぃさまです!」
「クロ。ご苦労だった。もう下がって良い」
「分かりました!では、また明日ですね、ひぃさま」
「あ、ありがとう」
思えば、最初の落ち着きはどこに行ったんだと思うほどテンションが高かった。
クロは今にもスキップをしそうなほどルンルンで帰っている。
クロが門をくぐるのを見届けると、黒いヒト…山神様と目が合う。
私の方が断然背が低く、完璧に見上げる形だ。
「月子」
「あ、はい」
「今日は桃の節句だな」
「はい。なので私はあなた様の元へやって来ました」
「あぁ、知ってる」
少し気まずい。
そう思っていると、山神様は突然、ポンッと私の頭に手を置いた。
「っえ」
「…ふむ。少し話をしようか」
「え、あ、はい」
今?
「千年前、約束が交わされたのは知ってるな」
「はい。五十年に一度、花子を差し出せと」
「あぁ。代わりに村の存続を約束した」
「知っております」
「だが、俺は1人の花子を愛してしまった」
「はぁ、」
だから…だから、なんだと言うのだろうか。
もうその人以外受け付けないとか、あるわけ…
「…ぁ」
「…けれども、人の命は儚きものよ。あっという間に散ってしまった…それの、腹いせにその後の花子を殺した」
「っ…ぅ」
「だが、ある時転機が訪れる。愛してやまないやつの魂が転生すると言う話が来たのだ」
…あぁ。結末は読めたぞ。
生まれてから、生まれる前から、ずっと見て来た。
その意味は
「お前だ。××××もとい、雛乃月子」
よくあるお話ですね、と頭の片隅で思う。
愛してやまない。忘れられなかった。
だから、他の女が気持ち悪く思えたのだろう。
だから、殺した。
そんな簡単に人を殺さないでほしい。
怖くなってしまったではないか。あなたのことが。
愛しいあなたのことが。
忘れて仕舞えば良かったのに。
こんな、1人の人間のことなんか。
いつまでも引きずってるんじゃないわよ
「あなた様のバーカ」
「!」
三月三日。ひな祭り。桃の節句。
女の子の成長を祝い、願う日。
私の村では、それは私が嫁入りする日で、嫁入りした日で、死んでしまった日。
千年の時を経て、もう一度巡り会うことを願わん。
「俺の花嫁。いつまでもいつまでも共に在れ」
「お望みの通りに」
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