第29話

「もぉ~冷たくしないで下さいよぉ~」


「愛奈さん! なんて恰好してるんですか!?」


 愛奈の格好を見るなり、顔を赤らめ声を上げる。

 焦った大石を見た愛奈は小悪魔のように笑いながら、大石に近づいていく。

 

「えぇ~なんですか~大石先生ぇ~なんでそんなに焦ってるんですかぁ~?」


「あ、貴方がそんな恰好をしてるからでしょうが!! と、とにかく何か着てください!」


 大石はそう言いながら、愛奈に毛布を渡す。

 しかし、愛奈はそれを受け取らず大石の腕にしがみつく。


「えへへ~どうですか? 興奮しました?」


「な、なにを……」


 大石はそんな事を言いながら、ちらりと愛奈の恰好に目をやる。

 綺麗な白い肌、傷一つない透き通るような綺麗な肌に大石は思わず目を奪われる。

 そんな白い肌に黒の下着が目立っていた。

 大石は思わず視線をそらし、持っていた酒を飲み干す。


「ぷはぁぁぁ! も、もう! からかうのはやめて下さい!」


「あ、もしかして脱がせたい人でした? すいません、それなら早く行ってくださいよ、今服来ますね」


「なんか納得いきませんが、とりあえずもうそれでいいです……」


 愛奈はもう一度服を着て、再び大石の隣に座る。

 今はパソコンで適当に動画を見ていた。

 

「最近の子はこういう動画ばっかり見ているんでしょうかね」


「そうですねぇ~最近の子はスマホでこういうのばっかり見てるんじゃないでしょうかねぇ~」


 パソコンに写っているのは、いわゆるやってみたと呼ばれる動画だ。

 今大石達が見ているのは、クリスマスに駅前でクッキーを配ってみたという動画だった。

 正直大石にはこの手の動画のどこが面白いのか大石には全く理解できなかった。

 愛奈は相変わらず酔っぱらって大石にべったりだった。


「私たちもやってみますぅ~?」


「何をですか?」


「クリスマスに子作りしてみた! みたいな!」


「何を言ってんですか……全く……」


 愛奈は酒をどんどん飲み、更に顔を赤くして酔っぱらっていた。

 大石もだんだんと酔いが回り始め、顔が赤くなり始めていた。


「ん、もうそろそろ寝ますか……」


「えぇ~どうせ明日は休みじゃなですかぁ~」


「いや、もう日付変わっちゃいましたし」


「じゃあ、一緒に寝てくれるなら寝ます」


「そんな無茶苦茶な……」


「やぁです!」


 愛奈はそう言いながら、ソファーから大石のベッドの上に移動し、大石を呼ぶ。


「さぁ! 一緒に寝ましょう!」


「じゃあ、自分はソファーで寝るので……」


「なんでですか! 良いからこっちに来てください!」


「ひ、引っ張らないでください」


 この時点で大石は少し酔っていた。

 大石は仕方なく愛奈の言う通り、ベッドに向かい、愛奈の隣に寝る。


「えへへ~大石さぁ~ん……」


「……嬉しそうですね」


「はい! 嬉しいですよぉ~」


 甘えまくる愛奈を見て、大石はわずかに頬を緩ませる。

 こんなに可愛くこんなにも愛らしい子が自分の事を好きなんて、大石は今でも信じられることが出来なかった。

 もしかしたら、朝起きたら横に愛奈なんていなくて、すべては自分の妄想だったなんて展開があるのではないかと疑いさえもしていた。


「愛奈さん……」


「はぁ~い?」


「なんで俺なんですか……他にも良い男はたくさん居たと思いますが……」


「えへへ……なんでそんなこと聞くんですかぁ?」


「いや、気になって……俺、愛奈さんに好かれるような何かをしたのかなって……」


「う~ん……保健室に来る生徒がですね……先生の話をする子が多いんですよぉ~」


「え? それはどういう?」


 もしかし、俺って嫌われてる?

 そんな事を考えてしまった大石だったが、愛奈はそんな大石の言葉を笑って流す。


「そんなわけないですよぉ~、みんな先生の事大好きなんですよぉ~」


「え?」


「みんな言いますよぉ~、真剣に話を聞いてくれるのは大石さんだけだって。真剣になってふざけてくれるのも大石先生だけだから、信頼してるって……」


「……生徒がそんな事を……」


 大石はその話を聞き、嬉しい気持ちになっていた。

 生徒に好かれることは嫌ではない。

 むしろ教師なんて生徒から嫌われる仕事だと思っていた大石は、その話を聞いて素直に嬉しかった。


「みんな、大石先生は良い先生だって、大石先生が担任のクラスは当たりだったら良いって言ってて……新任の私は大石先生に興味を持ちました」


「……そうだったんですか」


「生徒の言う通り、先生は良い人でした……何もわからない私に色々教えてくれて……」


「そんな時もありましたね……」


「そんな大石さんに私はどんどん引かれたんです……」


 愛奈はそう言いながら、うっとりした表情で大石を見つめる。


「大好きです……大石さん……」


 ストレートに言われた大石は元から少し赤かった顔を更に赤く染める。

 女性からこんなにも好かれた経験は大石にはなかった。

 もちろんこんなにストレートに思いを伝えられたこともない。

 大石の胸の中に今まで感じた事の無い感情が芽生え、大石はじっとしていられなくなってしまった。


「も、もう少し俺は飲みます! 愛奈さんはどうぞ先に寝て下さい!!」


 大石はそう言ってベッドからソファーに戻った。


「ぶー……ヘタレ」


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