第25話

「なんでそんな事聞くんだよ……」


「聞いちゃいけない事だったらごめん、でも昨日のアンタの家の感じを見てちょっと気になって……」


 土井は話すべきかどうか少し考えてしまった。

 しかし、隠している理由も無いと思い、土井は静かに話し始める。


「親父は居ないよ、俺が小学生の時に死んだ」


「……ごめん」


「別に良いよ、もう気にしてないし」


 土井はそんな話しをしながら、恭子と共に再び歩き始める。


「こっちも聞いて良いか?」


「なに? まぁ、何となく想像は付くけど」


「そうか?」


「えぇ、どうせ家族の事でしょ? 私も聞いちゃったし、応えてあげるわよ」


 恭子はそう言うと、歩きながら話し始めた。

「私の親、凄い金持ちなのよ」


「なんだよ、いきなり自慢か?」


「そんなんじゃ無いわよ。てか、私はお父さんが大っ嫌いなの」


「なんでだ? 思春期特有のあれか? お父さんと一緒に洗濯しないでー、見たいな感じか?」


「そんな可愛いもんじゃないわよ……」


 恭子はそんな話しをしながら、先程までは楽しそうにしていた顔をどんどん曇らせる。


「別に話したく無いなら良いんだぞ」


「大丈夫よ、それに今は誰かに愚痴を聞いて欲しいのよ」


「そうか……」


「私のお母さん、四年前に亡くなったのよ」


「……最近だな」


「まぁね……優しい人だったわ……お父さんは仕事ばっかりだったから、全然家に帰ってこなかったわ」


「そうか……」


「それで……お父さんが再婚するって話しになったのよ」


「そうか……それはなんと言うか、良い話しじゃないのか?」


「そう? 新婚の二人の間にこんな大きな娘なんて居たら邪魔じゃない?」


「なるほど、それでお前だけこのマンションに引っ越してきたのか?」


「そうよ、まぁ居心地が悪くて私がお父さんに提案したんだけど」


「それでこんな変な時期に引っ越してきたのか」


「まぁね……こんな事を言うのもなんだけど、私も片親の死を見てるから、アンタにさっきの質問したのよ。私も気持ち分かるから……」


「………別に俺の親父が死んだのはもう十年近くも前の話しだ」


「そう、私もあと五年もしたらそうやって吹っ切れるかしら……」


 土井はそう言った瞬間、余計な事を言ったと自分で自分の発言を後悔した。

 

「別に吹っ切る必要なんてないだろ、お前にとってお袋さんが忘れられないなら、無理に吹っ切る必要なんてないぞ」


「別に気にしてないよ、でも……やっぱり一人になったみたいで今も寂しいんだ……」


「……それを気にしてるって言うんだろうが……」


 気まずい雰囲気のまま、土井と恭子はマンションに戻ってきた。

 

「ありがとう、今日は付き合ってくれて」


「お前が付き合わせたんだろ?」


「あぁそっか! へへ、じゃあね」


 そう言って無理に笑う恭子。

 そんな恭子を見て、土井は思わず恭子に言う。


「今日も飯食って行くか?」


「え?」


「いや……お前、どうせ晩飯コンビニ弁当だろ? ならうちで食ってけよ、母さんには俺から言うし」


「いや、でも……」


「良いから、お前が来ると母さんも喜ぶし」


「あ、ちょっと!」


 土井はそう言って、恭子を連れて自分の家に入っていく。


「母さん、今日も飯三人分頼む」


「え? あぁ、そう言うことね、良いわよ」


 土井が母親にそう言うと、土井の母親は土井と恭子の姿を見て納得したらしく、笑顔で土井の頼みを受け入れた。


「すいません、連日……」


「おまえ、そう言えば風呂は? ガス通ったのか?」


「まだ通ってないけど?」


「じゃあ、風呂もうちの入って行けよ、疲れたんなら今入っても良いから」


「ん……ありがと」


「おう……飯出来るまで自分の部屋にいるか?」


「うん、着替えとか持ってくるよ」


「わかった、じゃあ玄関の鍵開けといてやるから」


「ん、ありがとう」


 そう言って恭子は自分の部屋に戻っていった。


「………何やってんだろ……俺」


 そんな事を思いながら、土井は自分の部屋に戻って行った。

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