第24話
「まぁ、とりあえずこんなもんかしらね」
「結構買ったな」
電気屋での買い物が終了し、土井たちは荷物を持って店を出ようとしていた。
すると、土井はどこからか鋭い視線を感じた。
土井は直ぐにその視線の先に目をやる。
「……」
「……」
そこには一体どんな感情なのか、恐らくギャルゲーであろうゲームのパッケージを両手に持った繁村が、土井の方をジーっと見ていた。
しかもその眼は瞬きすることなく、ただ一心に土井に視線を向けていた。
土井は咄嗟にこう思った。
ヤバイ、殺される……っと。
「おい、さっさと出るぞ」
「え? なんで? まぁ出るけど」
「後ろから鬼が来てるんだよ! 早く行かないと俺が殺される!」
土井は恭子にそう良い、恭子の手を引いて電気屋を後にする。
幸いな事に繁村は土井達を追ってはこなかった。
「はぁ……」
「どうしたの? そんなに汗かいて」
「ん? いや、なんでも……」
「変なの、お腹減ったしごはん食べいこうよ」
「あぁ……ただし少し離れたところに行こう」
「え? なんで?」
「いや、なんか嫌な予感がする……」
また、繁村に遭遇する可能性もある上に、近くのファミレスだとクラスの他の男達と出会う可能性もある。
土井はそのことを考え、恭子と二駅離れたところに昼飯を食べに行った。
「ここならショッピングモールも近いし文句ないだろ」
「まぁ、私は別にどこでも良いんだけど……で何を食べるの? 私お店とか全然分からないよ?」
「まぁ、そうだよなぁ……何食べたい?」
「ラーメン」
「へ?」
女子と食事に行くと言えば、オシャレなイタリアンレストランとかを土井は勝手に想像していた。
しかし、まさか初めて女子と一緒に行く食事がラーメン屋になるなんて想像も出来なかった。
「なんでラーメン屋なんだよ……」
「え? 美味しいじゃん」
「まぁ、美味しいけど……」
土井と恭子は一緒にラーメン屋にやってきて、向かい合ってラーメンをすすっていた。
美味しそうに味噌ラーメンを食べている恭子を見て、土井は思わず笑みを浮かべる。
「ま、確かにラーメン屋なら俺もどこが美味しいか分かるしな……」
「もっと女子らしく、パンケーキ食べたいとか言っておけばよかった?」
「いや、パンケーキ屋なんて知らんし……」
「でしょ? それに私、そんなにパンケーキ好きじゃないし、ラーメンの方が好き」
「それは良かったよ」
想像していた感じとは違ったが、これはこれで良いと思った土井だった。
食事を終えた二人はその後、雑貨屋や家具屋なんかに向かい、必要な物を買い集めた。
「今日はありがと」
「別に良いよ、まぁお前があんなに金使うとは思わなかったけど……」
「これからあそこで暮らすんだし、少しでも良い物買わないと」
「まぁ、確かにそれはそうかもしれないな」
土井と恭子はそんな話をしながら、自宅に向かって歩いていた。
隣を歩く恭子を見て、土井は何度も瑞希の姿を重ねた。
あの子が生きていたら、自分は彼女とこんな関係になれていたのだろうかと……。
「何?」
「え? あ、いや……悪い……」
「なんかさ……初めて会った時もそうだったけど、アンタってたまに私の顔を見るわよね? なんで?」
「な、なんでもねーよ……」
言っても信じてもらえないだろうと思い、土井は恭子からの質問をごまかした。
しかし、恭子の追求は止まらなかった。
「なんでもないことないでしょ? アンタ、自分で気が付いてないと思うけど、私の顔何回も見てたわよ?」
「き、気のせいだろ……」
「なにぃ~私に惚れちゃったぁ~」
「あ、それは絶対にないから安心しろ」
「なんでそこだけガチトーンなのよ……ちょっとショックよ……」
まぁ、確かに今考えてみれば恭子の事を見すぎていたかもしれないと土井はそう思った。
「ねぇ、もう一つ聞きたいことあるんだけど」
「今度はなんだ?」
恭子は足を止めた。
土井はそんな恭子に気が付き、自分も足を止めて恭子の方に振り返る。
「アンタの家……お父さんは?」
「……」
そう聞かれた土井は静かに息を吐いた。
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