第13話

 中学二年の夏、俺は八重と一緒に居るのが当たり前になっていた。


「あっちぃーなー」


「夏だから仕方ねーだろ」


「でもよぉ~」


 夏休みに入り、俺と八重は二人でアイスを食べながら公園のベンチに座っていた。

 先ほどまでプールに行こうと話をしていたのだが、プールはすごい混みようで、とても入れたものではなかった。


「はぁ……なら図書館にでも行くか?」


「お、良いね! 図書館って昼寝できるかな?」


「お前は何しに行く気だよ」


「どうせ八重も寝るだろ?」


「俺は本を読んでるといつの間にか寝ちまうんだよ」


「同じだろ?」


 俺たちはエアコンが聞いているからという理由で、図書館に向かい始めた。

 夏休みに入ってもう二週間、去年は暇で暇で仕方無かったのに、今年は八重と毎日何かをしていた。

 そんなある日だった。


「今日は電話来ねーな」


 俺は自分の部屋のベッドで今日は八重から誘いの電話が来ないなと思っていた。

 別に八重とどこかに行きたいとかそういう事ではないのだが、朝のこの時間に決まって連絡が来ていたのが来ないというのはなんだか不自然だ。


「まぁ、あいつも用事があるか……」


 俺はそんな事を考えながら、ベッドから起き上がり部屋を出ようとする。

 すると、俺のスマホに電話がかかってきた。


「ん? 誰だ? なんだ八重か……」


 やっぱり連絡が来たと思いながら、俺は電話に出る。


「もしもし? なんだよ、今日は」


『もしもしぃ~お久しぶり~って言っても覚えてねーか』


「……誰だお前……」


 電話の声を聞いた瞬間、その声が八重で無いことは直ぐに分かった。

 俺はその瞬間なんだか嫌な予感がした。


『那須~お前は覚えてねぇかもしれねぇけど、俺らはお前の事をよぉ~く覚えてるんだぜぇ~』


「あぁそうか、それでなんだ? 久しぶりに会いたくなって八重の電話から俺に連絡を取ってきたのか?」


『ははは! まぁそんな感じだ~! 一時間後、河川敷の橋の下に来い。お友達と一緒に待ってるぜ』


 そう言って電話は切れた。

 俺は直ぐに用意をして家を出た。

 電話をしてきた相手の事は分からなかった。

 だが、ただ一つわかることがあった。

 俺のせいで八重が危険な目にあっている。

 俺は急いで約束の場所に向かって走っていった。


「クソッ……俺のせいで!!」


 指定された場所に到着すると、そこには十数名の高校生がいた。

 見るからにガラの悪い感じで、手には木刀やバットを持っていた。


「おい、来たぞ……」


「あぁ……や~っときたか」


 そう俺に言ってきたのは、一年前に俺がボコボコにした、学校の先輩だった。

 今はもう卒業して高校に進学したようだ。

 

「お友達は疲れて寝ちゃったみたいだよぉ~」


 そう言って先輩は目の前にボコボコにされた八重を放り出してきた。

 腕や足にはあざがあり、血も流れている。

 俺はそんな八重を見た瞬間、一瞬で理性が吹き飛んだ。


「八重……悪い……少し待っててくれ」


「おいおい、いくらお前でもこの人数おふぅ!」


 俺は先輩が話し終わる前に先輩の腹に拳をぶつける。

 

「黙れよ……」


「て、てめぇ!!」


「やっちまえ!!」


「このガキぃ!!」


 俺は向かって来る不良たちを一人、また一人となぎ倒していく。

 正直一年前と何も変わってはいなかった。

 ただ数だけ増えただけだった。

 だが、今日の俺は止まらなかった。

 

「ひ、ひぃぃ!!」


「こ、こいつやべぇ!! 殺される!!」


 八重は俺なんかにも話かけてくれる良い奴で、俺と違ってクラスの奴らからの人望もあって、俺を信じてくれたそんな奴が……なんでこんな目に会わなくちゃいけない?

 そう考えると俺は目の前の奴らを全員許すことが出来なくなっていた。


「や、やめてくれ! あ、謝る!!」


「んな言葉、俺が信じるとでも思ったか?」


「た、頼む!! ごめんなさい!!」


 俺は懇願する先輩を無視して、先輩の顔を殴ろうとする。

 しかし、そんな俺の腕を誰かがつかんで止める。


「誰だ!!」


 俺は腕を掴んだ奴の方に振り返った。

 腕を掴んでいたのは八重だった。


「もう……十分だ……」


「八重……お前……」


 俺はそんな八重の言葉に従い、掴んでいた先輩を離した。

 

「お、俺は大丈夫だ……だからもう……さっさと行こうぜ……」


「……」


 息を荒くしながら、八重は俺にそう言う。

 俺はそんな八重を見て冷静さを取り戻し、八重に肩を貸した。


「……悪い……」


「ハハ……気にするなよ……」


 俺はそのまま八重に肩を貸して、その場を後にした。

 

「……もう、俺に関わるな……」


「え? なんだよ……いきなり」


「わかっただろ? 俺と関わるとろくな事にならない……これも俺が今までやって来たことが原因だ……俺と仲良くしてると今日みたいに目を付けられるぞ」


「はぁ……お前……馬鹿だろ」


「なんでそうなる」


「そんなのお前だけが悪いわけじゃないだろ……仕返しに来るあいつらが悪いんだ」


「でも、実際お前は!」


「またあると決まったわけじゃねーだろ? 良いから行こうぜ、体中痛いんだよ」


「……お前……やっぱり変な奴だな……高志」


「お互い様だろ? 優一」


 この日を境に、俺は八重の事を高志と下の名前で呼ぶようになった。 

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