非・改造人間ナギハラ~73%生身で戦う徴兵され系男子高校生のサイテーな日々とか~
よしふみ
序章 『日本の1000日闘争、不発する……。』
西暦2032年、2月28日。今から3年前のことだ。日本は『戦争状態』に突入したという放送が流れた。戦争と言っても、外国が相手というわけではない。もちろん、日本国内の内戦というわけでもない。
戦う相手は、一組織とも言える相手。いや、組織なんて大げさなものではなかったはずだった。日本はたった13人の相手と戦争状態に突入した。
1億人対13人。バカげた戦力差だったし、こっちが勝つだろうと誰しもが考えていた。与党の選挙目的のパフォーマンスだろうという説も、まことしやかにSNSに流れていたのを覚えている。
……でも、たしかにこの戦争に皆が賛成していたのは事実だ。遡ることそれから1週間前。27年の2月21日に、この13人はテロを起こしていた。事実上の宣戦布告でもあったんだ。
彼らは日本各地の13カ所で攻撃を仕掛けた。自衛隊基地、在日米軍基地、大型商業施設、国会議事堂、空港……彼らは全ての場所で単独による攻撃を仕掛け、ヒトを殺して破壊を行った。
その被害者は1週間では計算が出なかった。4000人とも40000人とも、政府の出す発表は毎日膨れあがったり、ときどき少なくなったりした。株価が下がると被害者数の発表が減るというルールだと、陰謀論者の友だちは教えてくれた。
真偽は分からない。
政府も混乱していてもおかしくはないし、事態の深刻さから逃げたかっただけなのかもしれない。その1週間でアメリカは日本から自国民を撤退させ、他の国もそれにならうように国民を撤退させていった。
日本からは外国人があっという間にいなくなってしまい、経済的なダメージは計り知れないともニュース番組のキャスターたちがいつになく真剣な表情で語っていた。
芸能人のコメンテーターがニュース番組から排除され、無機質なニュースばかりがテレビに流れていたのを覚えている。
恐怖と不安と、そして怒りがそこら中に蔓延していた。だから、13人のテロリストたちと『戦争』をするという流れになっても、皆が反対しなかった。というか、戦争という言葉は言いすぎなんじゃないかとも思った。オレもそうだったよ。
でも。
……実際は、たしかに戦争だった。政府は日本国民に真実を語ることはなかったけれど、その13人の戦力を知っていたらしい。当然か。敵の戦力の詳細を教えてしまえば、国民は降伏したかもしれないし、敵の要求を飲んだかもしれない。
ああ、敵の要求ってのは、13人のテロリストたちが国家を掌握することだった。日本を征服しようというのが、連中の目的だよ。欲しけりゃくれてやりゃ良かったのに。
……正直、この戦争の被害を考えれば、13人のテロリストたちの言い分を受け入れていた方がマシだった。
政治家たちは日本の沽券に関わるという建前を使って戦争を開始していたが、結局のところ13人のテロリストが国家の支配者になったら、自分たちが殺されるか、あるいは権力の座から引きずり下ろされると考えていたからの選択だろう。
日本国民は政治家どもの保身のために、バケモノたちと戦争をすることになったわけだ。
『1000日以内に日本の治安を回復し復興を成し遂げる!』……政府がそう宣言してから、とっくに1000日以上が過ぎているけれど、いまだに8人のテロリストは健在だ。復興どころか、3年前より状況は悪化している。
彼らは、今では『軍隊』を保有している……自分たちと同じレベルではないにせよ、それに次ぐ程には高度な戦闘能力を持った兵士たちをね。
正直、その兵士一人を倒すことにも、オレたちは苦労している―――とんでもない負け戦になったわけだ。
敵の名前は『黎明機兵団』。
厨二病くさくて、何のコトなのかさっぱり分からない名前だよな。その正体は、『改造人間』さ……彼らはヒトから造られて、ヒトでなくなった半分機械仕掛けの悪魔だ。
ほとんど不死身の戦闘能力を持っていて、普段はヒトに紛れて暮らしている。そして、いきなり8人の首領たちから連絡を受けると暴れ出す。
……そうなれば、何十人か、あるいは何百人も殺されてしまうような事件になるんだ。しかも、『改造人間』が倒されることは少ない。
オレたちはそんな状況のなか、生きて行かなくちゃならない。他の先進国なら、いつ改造人間に襲われて殺されるか分からないと不安になりながら、生活することもないはずだ。
……クソみたいな日々を送らされている。
日本、サイテーだ……。
母さんみたいに、ヨーロッパに行けたらな。オレは、こんな暗いみじめな青春を送らなくても良かったのに…………時代錯誤もいいところだよ、『徴兵される』なんてね。
でも……悔やんでもしかたがない。
日本は法治国家だから、法律で決まったことに従わなければ人生を破壊される。刑務所行き?前科者にはどの国よりも冷酷な国だ。就職も進学も消え去っちまう。
イヤだけど、しなくちゃならない。オレは春から東京に行って、『改造人間』たちのテロ活動と戦わされる。まだ、オレ、16才なのにな……。
端末が振動する。
オレが羨ましいと思っている友人からメッセージが届いていた。ハロルド・カーン。イギリス人……いや、正確にはスコットランド人?……あちらの国の事情はよく知らないけれど、10才の頃からの友人だよ。マメなヤツで、一日一回は連絡を寄越す。
―――ハルト、元気か?オレは今から寝る!
……一体、何の用があるのか分からないメッセージだ。というか、用なんてなくても連絡をくれる。それは、少しだけ嬉しい。オレはこの3年間、元いた世界とは違う異世界にでも行ってしまったかのような感覚に囚われているからな。
現代的で平和なフツーを感じさせてくれるメッセージが届くだけでも、オレは正気ってものを保てそうなんだよ。
スコットランドには、まだ改造人間の被害は出ていないようだからな……その当たり前のはずの平和を、間接的にでも感じたいんだよ。
しかし。
今から寝る?
日本は夕方だぞ?あっちはまだ昼間なんじゃないか?……相変わらずの昼夜逆転野郎だな―――夜更かしてゲームでもしてるのかも。ああ、うらやましい。夜間に電力の制限とかないなんて、最高じゃないか……。
「……サイテーだぜ、クソ日本……っ」
―――勉強しやがれ!
ゲームなんぞにうつつを抜かすバカに、そんなメッセージを高速で打ち込む。端末を制服の内ポケットにしまい込むと、オレはため息を電車の窓ガラスに吐きかける。
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