最高のお祭りに行った話

夏木

お祭りに行きたい

 年に一度のお祭り。

 今まで行ったことのないそのお祭りは、俺にとっては最高のお祭りだ。


 いや……俺だけではない。


 俺達――オタクのお祭りだ。




「なぁ、サガミ! 明日空いてるか? みんなでどっかいこうぜ」


 いつもつるんでいる仲間から声をかけられた。この「みんな」には、女子も含まれている。



 明日……俺には前々から予定が入っている!

 気合いを入れて行かなければならないイベント、そうコミケだ!


「悪い。ちょっと予定が入っててさ。また今度誘ってくれ」


「そっかー。残念だけど、しゃーないな。んじゃ今度誘うわ!」


「おう」


 今週末に開かれるコミケに向けて、俺は準備してきた。

 前日入りしたいところだが、高校生の俺にはコミケの準備だけでお金が限界だ。


 何度か行ったことがあるコミケに、今年は別の形で参加するのだ。

 同じような趣味を持つ姉と共に参加する今年は、気合いが入っている。


 俺はクラスの中でも、陽キャグループだ。

 なのにコミケに行くオタクだと知られたら、同じグループのメンバーから何と言われるかわからない。


 出来るだけバレないよう、趣味は隠してきた。

 地元から二時間ほどかかる場所での開催だし、仲間に会うことはないだろう。




 翌日。

 始発電車に駆け込み、コミケ会場にやってきた。


「うん! 良い感じ! 流石私ね!」


「そりゃ、この俺だぞ。俺のおかげでもあるだろ?」


 俺は今日、人気漫画のキャラクターのコスプレをしている。

 姉は同じ作品に登場する女性キャラクターを、一位二位を争う人気男性キャラクターの衣装だ。


 メイクには自信がなかったため、コス歴の長い姉に協力してもらった。

 衣装に関しては、毎日コツコツ手作りしたものだ。

 初めて作ったにしては、かなり上出来だろう。


 俺のルックスは悪くない。というより、普通よりいいと思う。身長もあるし、顔も悪くはない。だから、そこまで違和感がないはず。


「さあ、行くわよ」


 人が多い場所へと姉と共に歩いて行く。

 すると、すぐに人に囲まれた。


 姉のルックスもいい。

 目はでかいし、胸もでかい。コスプレもよく似合っている。


 男のカメラマンは、姉の写真ばかりを撮影していた。

 だが一部が俺の存在に気がつき始めた。


「おい、二人とも完成度高くね?」


 そんな声が広まると、俺達姉弟を一緒に写すようにシャッターが切られる。


 ずっと同じ被写体を撮り続けるカメラマンはいない。

 ある程度撮ると、次の被写体を探しに去って行く。


「ふぁ、あ! ごめ、なさい!」


 猛者苦しいカメラマンの間から、飛びでてきた一人の少女。


 見た目からして、コスプレやカメラマンじゃない。年齢は俺と変わらな……



「サガ、ミ……くん?」


「ぐぇ!?」


 まさか自分の名前が出るなんて思っていなかった。だからヘンな声がでちまった。


 よくよく見ると、その少女は、俺のクラスメイトだった。


「サガミくん、だよね?」


「いやっ、人違い……」


 こんなところで名前を呼ばれるなんてたまったもんじゃない。それに、学校で言いふらされても困る。


「サガミくんでしょ! 私だよ、ミナミだよ!」


 いや、知ってる。知ってるから。

 わかってるから。


「すごいなーサガミくん! かっこいいよ!」


 ミナミはクラスの女子でも、陽キャだ。

 こいつから漏れたらどうしよう。


「ねぇ、黙っててほしいでしょう? 秘密にしておいてほしいよね?」


 ミナミは俺にだけ聞こえるような声で、呟いた。

 ニヤッと笑うミナミが恐ろしい。


「じゃあ、私の言うこと、しばらく聞いてね!」


「うわ……」


 有無を言わさない態度。

 俺のコスプレ姿をスマホにおさめている。

 俺はもう、ミナミに従うしかない。


 楽しいはずの最高のお祭りは、確かに楽しかった。

 ただし、一部を除いて。



 今後俺は、何をされるのか。

 それは誰も教えてはくれない。

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