VR格闘技の祭典! プロレスラー VS プロゲーマー!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

強くなりたい

 二〇三〇年、VRを駆使した祭りが開催された。


『VR世界の住人と、生身の人間を戦わせる』

 という、ドリームマッチ。


 桜木 カズヤが、青コーナーの選手に組み付く。

 対戦相手もレフェリーもVR空間にいる。彼だけが生身の人間なのだ。

 カズヤは黒いボディスーツを着て、無人のマットで跳びはねていた。ゲームキャラさながらに、捻りをきかせたパイルドライバーを相手に見舞う。

 

 対する青コーナーは、格ゲー界で無敵を誇る「大竹」が操る格闘家、「ボルト」だ。

 彼はコントローラーのレバーとボタンを巧みに操り、組み付きを振りほどく。

 


「桜木選手は元々、VRでの『ゲームキャラ対人間』バトルの、テストプレイヤーを行っていました。予習はバッチリでしょう」


 実況が、桜木の背景を説明する。


「桜木選手が所属するプロレス団体代表の、日高さんにお越しいただいております」


「彼はねー、オフの時はよくゲーセンに行くんですよ。格ゲーのキャラと対戦するのが夢だったそうでー、このオファーが来たときは、二つ返事で引き受けてくれました」

 

 客席にいる妻と子どもには、倒れる姿を見せたくない。

 

 

 カズヤの執拗な組付きを嫌がって、アウトサイドからのローキックでけん制する。

 足にダメージが入る度に、カズヤの足が重くなっていった。

 ダメージが蓄積すると、スーツのコントロールを失って、勝手にダウンしてしまう。

 

「かたや大竹選手なんですが、やりにくそうですね」



「放送席、こちら大竹選手サイドのレポーターです。大竹選手が、『持ち味を殺されていますね』とこぼしています」

 


 解説の代表が、「だよね」とうなずいていた。

「ただでさえ打撃だけしか使えないストライカーのキャラクターですから、なんでも仕掛けてくる桜木とはかち合っちゃうと、こぼしています」


 だったらいのだが。


「おっと仕掛けてきた!」


 油断した。

 カウンターで、腹部に膝が入ってしまう。

 組み付こうとして不用意に近づいてしまった。


 カズヤは相手の太ももをホールドし、ドラゴンスクリューを喰らわせる。

 だが、こんな技はパフォーマンスにもならない。

 寝てからのマウントパンチをもらう前に、素早く起き上がる。


 それがいけなかった。


 敵がいない。


 ヤツは、上にいた。既に跳躍して技を繰り出していたのだ。


「あーっとヒザーッ! ヒザ顔面に直撃!」


 しまった。こいつはゲームキャラだ。あくまでもゲーム世界の住人。


 敵は落下しながら、ヒザを打ち込んできたのだ。放物線を描きながら。

 

 パターンだけしかない中に、奇想天外な技を浴びせてくる。


 失念していた。ダメージがないからといって、不注意がすぎる。

 スーツが負傷を意味する蓄積で、より重くなった。これ以上、動けなかったらアウトだ。

 

 フラフラになりながらも、ゴングに助けられる。


 二ラウンド目は、こちらも奇策に出た。


「あっと、カズヤ選手、またもインファイトだ。組み付いてのヒザを浴びせ続ける」


 相手を操る大竹が、必死の形相でレバーをガチャガチャといじる。

 勝手に、相手が離れていく。振りほどきが成功したのだ。

 


「放送席、カズヤサイドなのですが、『相手は人間だから倒せるはずだ』と、セコンドに話していました」

 

 そう、人間だから倒せる。きっと。

 

 アウトからの蹴りに臆さず、ひたすら組み手の体制になる。


「大竹大変ですよ。あのレバーはこの対戦用にあつらえたモノなので、レバーが硬いんですよ。振りほどきは困難ですよ」

 

 

 寝技にまで持ち込めそうになったが、またもレバガチャで逃げられた。


 予想外の泥仕合に、場内からブーイングが飛ぶ。


 だが、やっている本人たちは満身創痍だ。いつ大技で倒れてもおかしくない。

  

 再び10分が経過し、最終ラウンドを迎えた。



 

カズヤは、短期決戦に打って出る。

 タックルで転がし、アンクルホールドの体制に。


「カズヤ伝家の宝刀、アンクルホールド、大竹選手が操るボルトの足首が、悲鳴を上げる」


 大竹側のモニターが、大ダメージを表示する。


 だが、反撃の前蹴りが飛んできた。

 

 腕でガードしてしまい、カズヤの腕も大ダメージを表示する。

 それでも、腕は放さない。


 何度蹴られようが、この技はほどくモノか。



 

「強くなりたい」



 

 そう思ってプロレスの門を叩いた、元いじめられっ子のカズヤ。

 

 弱小レスラーで、パフォーマンスも立ち回りも下手。

 そんなカズヤが唯一褒められたのが、アンクルホールドだった。

 代表すらマットに沈めたことだってある。

 

 粘り強く絡みつく関節技は、いつしかカズヤの代名詞となっていった。


 

 大竹はレバーを回し続け、逃げようともがく。


 振りほどきに成功されてしまった。


 必殺の蹴りが、カズヤのアゴに炸裂する。


 もうダメか。

 

 だが、ボルトの動きが鈍った。


「おっとなんということだ! 負傷です! 大竹選手手首を痛めてしまった」



 この機会を逃してはならない。


 カズヤは、ボルトの背後に回って、チョークスリーパーの体制に。


 

「試合終了ぉ! エキシビションマッチは、桜木カズヤ選手が制しました!」


 大竹の手首が、真っ赤に腫れ上がっていた。

 何度も振りほどきを行ったことによって、手首が悲鳴を上げたのだ。


 まだ戦えることを、大竹はアピールしていたようだが、セコンドが止めたという。


 大竹はまだ若い。選手生命を考えるなら、ここが引き際だったのだろう。


 試合終了後、大竹と握手を交わした。

「ありがとうございました」

「最高の試合だった。またお願いします」

 

 

 人間が相手だから、勝てた。

 もしAIなどだったら、倒れていたのは自分だったかも知れない。


 妻と子をリングにあげて、カズヤは抱き合った。


「ぱぱ、かえったらゲームしよ」

「ああ。約束だ」


 家では、ゲームの圧勝だ。

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