短編40話 数ある最高のナイスムーブ!
帝王Tsuyamasama
短編40話 数ある最高のナイスムーブ!
(お願い、お願いっ、変なのは出ないで……!)
赤いクロスが敷かれた長方形のテーブルを長そでカッターシャツ姿の五人が囲んで座っている。この中で一人だけ髪をポニーテールしてる私、
(お願いだよぉ!)
こっちが残っている
横目でちらっと誠太郎の顔を見てみた。真剣な表情だ。かっこいケホコホン。
やがてダイスカップは逆さに向けられ、三本の指を広げれば、透き通った青色に目が白色のダイスがふたつ、インナーボードに飛び出していった。
今なら視力検査で2.0を答えられるくらいめっちゃ見た。前に座ってる細いけど元気な感じの男の子と右斜め前に座ってるショートカットの女の子もダイスをめっちゃ見てる。
深い赤茶色のフェルト生地に白とオレンジ色が交互に並んだ
(5
「やあったあーーー!!」
私は喜びを爆発させて、思いっきり誠太郎に飛びついた!
「やったな智雪!」
(あっ、つい勢いで飛びついちゃったけど、そんな、ぎゅって迎えられると、ちょ、ちょっと……)
背中と頭に誠太郎の腕、手、温かさ……。夏服だから余計に意識しちゃうし……。なによりこのとっても近い誠太郎の顔…………。
(やーっ……私なにやっちゃってんだろう~!!)
「うぉっほん」
「あ」
学校同士相手と向かい合う私たちを挟むようにテーブル右側に座ってた審判のおじちゃんがにこやかな顔でせき払いしてた。赤い蝶ネクタイしてる。前に座ってる対戦相手の二人も苦笑いしちゃってるっ。
女の子も男の子と一緒の深緑色のネクタイいいなぁ。私たちの学校のは普通の青いリボン、男の子はネクタイもなんにもない。
各テーブルには上から盤面を映すカメラがあって、すべてのカメラの映像が複数ある大きなモニターに映し出されてる。私たちの接戦も会場にいる人たちに見られているわけで、聞こえてきた歓声や拍手からして盛り上がったみたいっ。
(えっ、ちょ、ちょっと待って! じゃあさっきのあれもみんな見ちゃってたのー?!)
ああっ、ビデオ撮ってた人がいるなら今すぐ消して~!!
「勝者、井星・杉宇野チーム!」
会場全体から拍手が聞こえる中、対戦した私たち四人は頭を下げて、相手と握手しあった。
立ち上がってもっかい礼。私たちは後ろに振り返り、三番テーブルを後にした。
歩きながら誠太郎がこっち見てきた。ら、反射的に私も誠太郎を見ちゃう。
(あぁ……いい、その笑顔……)
そ、そりゃね? 私は誠太郎と一緒の部活に入りたかったからバックギャモン部に入ったんだよ? 女の子友達の中でボードゲーム仲間なんていなかったこの私がだよっ? でもぉぉ………………
(あーんいざ今その笑顔目の前にしたらキュンキュンメーター振り切ってますからあああーーー!!)
今日はなんて最高のお祭り……会場の雰囲気的にもバックギャモン部的にも私の心の中的にも……。
「ち、智雪? 大丈夫か?」
あ、ご褒美タイム終了のお知らせ。
「へ? あ、うん、だいじょばないけど大丈夫」
「はぁ? 具合悪いなら係の人を呼ぼうか?」
「だめっ。誠太郎と一緒にいたい」
「お、おいおい」
「はっ!」
(つい心の声が!)
誠太郎はあきれてるような微妙な顔をしてたけど、でも最後には軽く笑ってくれた。そういう優しい笑顔にも弱いんです私。
そういえば誠太郎は
(……そこは私を~……す、す…………ど、どうなのかなぁえへへ)
ちょっとうへうへしながらも前に振り向くと、
短くてちょっとツンツン髪ではっちゃけてる一年生の
髪がくるんと内巻きになってて笑顔満開一年生の
身長が高くてのほほんのんびり三年生の
きりっとした目に腕組み姿がかっこいい三年生の
あ、悦司くんが誠太郎とぐーで小突きあってる。私ははっちゃんと両手でハイタッチした。
この私たち六人で、真夏の
誠太郎にひじ打ちして私が顔をあっちクイッてすると、私と誠太郎は応援してくれてるみんなに手を振って応えた。
てか他の学校の横断幕は『
(まっ、ああいうノリも含めて最高のお祭り、かなっ)
バックギャモンをやってると、こういうオープンなノリっていうのかな、みんな優しい感じがとっても心地いいんだ。
「僕たちも全力を尽くすよ。な、銘佳」
作戦会議に使っていたのかな? 康武先輩が銀色のアルミ製小型バックギャモンボードを見せつけながら銘佳先輩の方へ向いた。銘佳先輩は腕組みをしながら康武先輩に横目で。
「康武が変な
「そんなー、さっき中盤での誠太郎を
「慎重さだけでは勝てないといういい手本だったわ」
「はいはいどうせ僕は臆病さっ」
苦笑いな康武先輩。銘佳先輩は相変わらずかっこいい。
「オレらが勝ってたら一回戦勝ち決定だったのに……すいやせん!」
「ごめんなさあい……」
しゅんしてる後輩ちゃん二人。
「気にすることないよ。僕はバックギャモンが好きなだけさー」
「しっかり観ていてね」
「は、はいぃ!」
「が、頑張ってくださいっ!」
ほんっとかっこいいなぁ銘佳先輩。
康武先輩はのほほん顔で右手をちょっと上げながら、銘佳先輩はほんのちょっとだけ笑って、三番テーブルに向かった。
相手はまだ来てない。試合進行によってテーブルごとに対戦の終わる時間が異なるから、次に対戦の始まる時間が電光掲示板に大きいデジタル時計と一緒に出てる。始まるまであと三分ある。
「智雪、ちょっと」
「えっ?」
なんだろ。誠太郎が手招きしながら外に出ようとしてる? とりあえずついてくことに。
本会場から廊下へ出て、他の学校の学生や関係者さんたちが行き交う中、私はひたすら誠太郎についてくだけで……。
(……給湯室?)
やってきたのは給湯室。本会場から遠くはないけどちょっと奥ばったところにあるし、給湯室内には私たち……ふ……ふっ……
(ふたりっきりっ)
「ど、どうしたの誠太郎? ここって勝手に使っちゃだ……めっ…………」
私が言葉を言い切る前に、せ、誠太郎が、わ、わた、わたたしをぎゅぅって!!
(うひゃあああ!!)
あの時思わず飛びついちゃったのとは比べ物にならないくらい誠太郎の腕が私をぎゅぅぎゅぅ!
(
「ちょっ、せ、せいたろっ、な、なによぅ……!」
「うれしすぎて、なんか……さっきのだけじゃ、ぜんぜん足んなかった」
ひょわぁ~……。
「智雪。俺と組んでくれて、本当にありがとう」
「……こらぁっ…………」
(ああもうだめ。がくっ)
私は誠太郎の腕に抱かれながら、がくっと首が後ろにうなだれた。
「……智雪……」
(意識が遠のいていくぅ~……我ながらいいバックギャモンライフだったわね……)
って!!
(せ、せせせせせせいたろおおおーーー!?)
いやあの! ああああのあのあの!! 私はあまりの幸せにがくってうなだれてただけで! そんな! そんなその! イ、
(智雪もうだめです)
ようやく唇を離してくれた誠太郎。でも腕は全然離してくれない誠太郎。やっとのことで目を開けたらこっち見つめてる誠太郎。はいこれ
「……す、すまん。帰り道まで我慢できそうになかったから」
まじめな顔して何言ってんのこの
「ちょ、ちょっとぉっ、それ帰り道に、ちゅ、
いつもならもっと勢いよく返事できてるはずなのに、今の私へにょへにょ。
「……ま、まぁ、そうなるかな」
「肯定されたし……」
……えっ? じゃあこれつまり、りょ、両想いってことでいいざますですわよね!?
(あぁどうしよどうしよ顔緩んじゃうああだめだめ無理無理)
「先輩の試合、観にいこう」
「えっ、あ、う、うん。え、せ、誠太郎、私に~、い、言いたいこと、ないの、かなぁー……?」
まっすぐ見てられないので上目遣いでちらちら。
「……今日一緒に帰っていいよな?」
(それ~?!)
うんまぁその、うれしいけど、一緒に帰りたいけどっ。ちゅ、ちゅーしたんだし両想いなんだから次に来るセリフはあれでしょ! ほらあれあれ!
(ここ給湯室だけど!!)
しょうがないから答えますよぅ。
「……テ、
あーほらまたそんな笑顔向けてくるー。しかもこの近さでー。おまけに腕の温もり付きー。はい私の
「きゃっ! こら遊ぶなぁ!」
ようやく誠太郎の腕が離れたと思ったら、いきなり私のポニーテールを優しくぽんぽんしてきた。
「ほら行こうぜっ」
「こらこらぁー!」
優しさと笑顔が昔からずっと一緒。ひなあられ仲良く食べてるときにぽんぽんされたのを思い出しちゃったっ。あの時からもう両想いだったりして。
(……ちょっと待って? 帰り道……もし……さっきのと合わせて…………)
「こっ、こらそこの
「な、なんだよおいっ?」
短編40話 数ある最高のナイスムーブ! 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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