とある村に伝わるお祭り

卯月あと

とある村に伝わるお祭り

これは、とある村に伝わるお祭りのお話。

そのお祭りの名は『最高のお祭り』といい、土地神様に作年の感謝と新年のお祝いするお祭り。






「村長、神饌みけの準備できました。」


そう声を上げるのは、この村一番の大男・大滝だ。

今年のお祭りの主催に選ばれた大滝は、張り切っている。

しかし、このお祭りを成功させるには一つの条件が合った。

それは、村の外のモノを入れてはならない。

これを守らなければ、土地神様の怒りに触れ、作物の育ちが良くなかったり、悪天候に見舞われたりする。

ここ数年は、この条件を知らない村を出た若者が祭りに参加しようと村に戻ってきたりしたため、村の状況は芳しくなかった。

そのため、今年こそお祭りを成功させなければ、村は廃れると誰もが危惧している。


「大滝、今年こそは成功させねばなるまい。皆も宜しく頼む。」

「わかっています、村長。」

「今年こそ、成功させましょう。」


お祭りの本番は今日のおよそ19時からであるため、残り時間は1時間弱。

お祭りが始まってから終わるまでは村に住む人間以外が立ち入らないよう、村の周囲を囲むように設置してある感電線の電源を入れ、村の中央の広場では火入れの準備を始める。

しばらくすると、周囲の山から動物たちが集まってくる。

この動物たちが山から下りてきたらお祭り開始の合図になっている。


「これより、最高のお祭りを始める。」


今年の主催である大滝が声を張り上げながら、火入れの準備として井型に組んだ焚き火に昨年の御札やお守りを入れる。


「土地神様、昨年は有難うございました。我々、村人一同存えたことに感謝します。」

「「感謝します。」」


昨年お感謝を言い終えると、焚き火の前に置かれた祭壇へ神饌みけを並べ、土地神様へ捧げる。

今年の神饌みけは、お米、お酒、野菜、村に伝わる伝統お菓子、お塩、お水である。


「土地神様、新年明けましておめでとうございます。」

「「おめでとうございます。」」


「土地神様、今年も何卒よろしくお願い申し上ます。」

「「お願い申し上げます。」」


新年をお祝いする言葉と一年のお願いを終えると、お祭りの様子を見守っていた動物たちが神饌みけをお食べになられる。

これは、動物たちが土地神様の元へ神饌みけを運ぶ行為だとされているため、動物たちが山に戻るまで一切声を含め、音を出してはいけない。


村人全員が、跪いたまま動物たちを見守る。

村の周囲を見守っている村人からも連絡が入ることなく、動物たちが山に戻ったならば、お祭りは成功し、名の通り『最高のお祭り』になるため、最後まで気を抜くことは許されない。


動物たちが最後の神饌みけである、塩を食し自らの体を清め、山に戻っていった。

動物たちが戻っていくと同時に焚き火も消えた。


村人たちは一斉に息を吐く。


「終わった…。」

「『最高のお祭り』ができた。」

「よかった、これで今年一年、安心できる。」

「皆、よくやった。大滝殿も大義であった。」





数年振りに成功を収めた『最高のお祭り』であるが、これが本当に成功したのか、土地神様に良い印象を与えられたのか知れるのはこれからである。

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とある村に伝わるお祭り 卯月あと @ato_uzuki

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